実戦訓練
歴史的にかなりの変化があったために、非常に面白かった。そのためけっこう熱中しており時間がだいぶ経っていた。すでに21時。消灯は23時だが……訓練の疲れや今の勉強による脳の疲労もある。そして……これ以上何かをする気力が湧かなかったので、このまま寝ることにした。
「疲れもあるだろうしな」
明日起きたときの筋肉痛が……非常に怖い物である。日々肉体は衰えを少しでも抑えるために鍛えてはいたのと、後は若返りがどれほど効果を及ぼしてくれるのかが、見物であった。
「さてさて……馬鹿なことを考えてないで寝るとしますか」
そう呟いて部屋の電気を消して布団に入ると……やはり疲れていたのか、直ぐに眠気が襲ってきて眠りについてた。
次の日……セットしておいた目覚ましが鳴って、意識をたたき起こされた。自然と目が覚めるのに珍しいと思い……体が痛いことで理由を悟った。
「……予想通りか」
痛む体に鞭を打ちつつ……何とか上半身を起こした。そして驚いたのは……確かに筋肉痛がするにはするのだが、予想よりもかなり少なかったことだった。
「……若いからか?」
肉体が若返ったからというのは要因の一つのはずだが、それを差し引いても回復が早い気がする。筋肉痛のメカニズムは、疲労によって壊れてしまった筋細胞を修復するために起こる肉体現象なのだが、それは若い老いがそこまで影響するとは思えなかった。何せ若返った肉体で起こった筋肉痛だからだ。
「ふむ……」
考えてもわかるわけもなく、また筋肉痛が抑えめなのだからそれについては喜ぶべきだろう。思うところがあるというか、奇妙な現象故にダヴィさんに相談するのも良いだろう。
とりあえず、肉体的にはちょっときついのだが、風邪による高熱で寝込んだ時ほどではないので、日課をすませることにした。その日課をすまそうと思ったからか……パワードスーツを纏うことなく、左手に木刀の感触が返ってきた。その感触をしっかりと意識して握りこむと……左手に木刀が出現した。
その際、あえて右手が視界に写るように両手を前に突きだしていたのだが、パワードスーツを着用した様子は見受けられなかった。
(まぁスーツを纏って木刀出してから、スーツを除装するでは手間だしな……)
とりあえずうまく出現させることが出来たので、許可をもらった素振りを始める。最初は筋肉痛がけっこうきつかったが、それも少しすれば慣れて頭に入ってこなくなった。そして普段通りの素振りを終えると、それなりに体が軽くなっていた。
(やはり辛いからといって動かなければ逆にきついの……)
二日酔いで死んだ場合、辛くても朝起きたら何か食べて血を巡らせた方がいいのだ。それと同じだとそう思いつつ、素振りを終えた私は準備を進めた。
それから訓練となったが、ほとんど昨日と同じ内容だった。といってもそれは肉体の強化に関することで、座学の内容は当然変わっていた。そしてFMEの習性等もいくつか教えられたが……とても面白い内容だった。
昨夜も教えてもらった縄張り意識についてだが、FMEの拠点である巣があり、そこから一定の距離を取ると追尾や攻撃を止めるようだ。無論ゲームのように範囲外に一切出てこないというわけではないようだが、それでも範囲の外に出るのをひどく嫌うらしい。その縄張り意識というのもあって、人類側は戦線の維持が出来ているという。
(不思議な話だな)
一応生物として活動している以上、縄張りがあるのは不思議ではない。しかし疑問に思うのが、そもそもFMEは宇宙より飛来した異星生命体のはずだ。どういう理由で飛来したのかは謎だが……侵略をしに来たのは間違いないはず。
だというのに、積極的に侵略しに来ないことに違和感を覚える。異星生命体ということで、地球環境に適応できてないとかそういうことも考えられるが……ひどく違和感があった。
しかしそんな私の違和感など、今はどうでもいい話。とりあえず前線に早く投入できるように肉体改造と、私の右腕のマテリアル兵装の解析が急務だった。
そのため銃器訓練も一通り終えると……本日はダヴィさんの予告通り、外での実験となった。
「さてさて……本日も頑張っていきましょう!」
昨日と同じような肉体強化メニューの昼食を終えた午後。野外訓練場にて元気なダヴィさんが、訓練開始の号令とでも言うように、声を張り上げて宣言した。通路をけっこう進んだ先にあったその野外訓練場は、けっこうな広さがあった。昨日の屋内での訓練場と同じで射撃場なのか、100mほどの距離がある平野が整備されている。しかしそある程度手を入れているようだが、他はほとんどでこぼこしていたり、周囲に木々も生えているような訓練場だった。
訓練場にはトレーラーみたいな車両?……タイヤがないので判断に困る……と、そのトレーラーに積み込まれているオーラスーツがあった。真矢さんも私の隣にいるので、まだオーラスーツには搭乗していない。
未だ機密事項扱いの私の訓練と言うことで、三人以外誰もいなかった。
「よろしくお願いします」
「お願いします」
「では早速だが、マヤ君はすでに運び込まれたオーラスーツに搭乗してくれたまえ。起動後は私の別命があるまでは直立で待機だ」
「了解しました」
普段はふやんというか、穏やかな印象を抱かせる雰囲気の真矢さんなのだが、軍人モードと言うべきか……ぴしっと敬礼をしているのを見て少々驚いてしまった。そんな私に笑顔を向けてから、真矢さんがオーラスーツへと走っていく。
格好は先日見かけたぴっちりのスーツなので目のやり場に困る格好なのだが……邪な感情を抱くには抱くのだが、精神が老いすぎていたので劣情はそこまで胸をかき立てなかった。
「さてソウイチ君。早速だがパワードスーツを装着してもらって良いかい?」
「了解しました」
指示をもらって私もパワードスーツを装着した。装着を終えてダヴィさんに目を向けると……いつも通り童心に返った子供のように、無垢というか純真な瞳でこちらを見ていて、思わず少しだけ笑ってしまった。
「昨日から訓練が始まって肉体的にけっこうきつかったと思うけど、どうだった?」
デバイスを起動させながら、ダヴィさんがこちらにそう質問をしてきた。
「そうですね。それなりに厳しかったですが、まぁ何とかやれました。若返った影響でしょうかね?」
「ふぅ~~~む? なるほどね?」
どうやら唯の世間話ではないようだ。会話しながら高速で動く手を見て、カウンセリングも入っていると判断して真面目に答えた。
(若返りというのが……半ばギャグだがな……)
「なるほど……確かに昨日よりは少しマシになっているようだね?」
手元に視線を向けながらそういってくる。恐らく本日の訓練中のデータを見ながらそう言っているのだろう。少しとはいえマシになっているので、少々安心した。
「マヤ君。君から見て本日のソウイチ君の感じはどうだった?」
「え? そうですね。正直なところ、今日は昨日よりも厳しいと思っていたのですが、普通に動けたので驚きました」
突然話を振られたが、真矢さんも直ぐに返事を返している。真矢さんもこれが問答だということを十分理解しているようだ。
「オーラエネルギーについても問題なし。マテリアル兵装のパワードスーツについては……まだわからないことの方が多いけど、昨日よりも数値的に向上している」
「数値的に向上?」
聞こえてきた数値的に向上しているという意味がわからず、思わず疑問に思った言葉を口に出してしまった。しかしそんな私の言葉が聞こえていないのか、ダヴィさんはひたすらぶつぶつ呟きながら何事か考えているようだ。
一人で考えるのは別段何も気にしないのだが……これは声をかけて良い物なのか、少し判断に悩んだ。砕けた感じであり、しかも年下のダヴィさんではあるが、今は一応訓練中で業務時間である。つまり階級が普通に適用されるはずである。
私の階級についてはないものと考えてもいい。何せ訓練生なのだから。対してダヴィさんは技術中佐という階級である。中佐の前に何故技術という単語がつくのかは謎だが……中佐というのはかなり階級的には上だ。どうすべきかと悩んでいたら……
「数分して戻ってこなかったら私から声をかけます、宗一さん」
オーラスーツ越しに真矢さんがそう言ってきてくれた。その声には呆れの響きが強く出ていたので……恐らくよくあることなのだろう。
「了解しました」
天才が何を考えているのかは謎だが……少なくとも今私がよく接触する人間である、真矢さんとダヴィさんの二人に嫌悪感を抱いたことはない。この人も研究熱心なのは間違いないが、少なくともこちらが嫌がることはしないと思っても良いと、思ってはいた。
そして真矢さんの宣言通り……数分経ってもぶつぶつ独り言を呟いて戻ってこなかった。
「ダヴィ中佐。時間も限られているので、訓練をした方が良いのでは?」
「……おっとそうだね。すまないね」
真矢さんにそう声を掛けられて、顎に添えていた手を解いて苦笑いした。しかし直ぐに顔を引き締めた。それが訓練開始の合図だと思い、私も同じように気を引き締める。
「ではこれより野外訓練を開始する。今回は野外演習場でももっとも奥地の場所を貸し切った。多少何かが起こってもどうにかなるので、限界値……とまではいかないが、どれほどの性能を秘めているのか、確かめさせてもらう」
そう言い放ち、ダヴィさんが手元で何かを操作する。すると射撃場に何か……光る球体のようなものが突如として出現した。恐らくこれが今回の的なのだろう。
私がそう判断していると、ダヴィさんがトレーラーの中へと入っていった。恐らく解析装置などが積載された、ちょっとした司令基地のような機能もあるのだろう。
またオーラスーツとパワードスーツの訓練でもあるので、生身では危険なのもある。安全を考えれば当然といえるだろう。
「ソウイチ君は今立っている場所から動かず、そして可能な限り速く出現させた的を撃って欲しい。マヤ君はまだ待機ね?」
「「了解しました」」
指示が出されてので指示通り、私は今の場所から動かずに出現した的を可能な限り速く撃った。射撃すると意識した瞬間に、昨日意識した照準点が視界に写ってそれを的にあわせて撃ちまくった。撃つ端から新たな的が出現するので、何発撃ったか覚えられなかった。意識が加速する感覚があったので、かなりの数を撃ったと思われた。
しばらく撃ちまくっていたら、一度止められて少し先へと進み、射撃場の中に入れと言われたので素直に従った。すると今度は前後左右、全ての包囲に的が出現した。
「次は静止状態ではなく動きながら撃ってもらう。地面が光った場所に移動してその場所から自分が視認できる的を撃ってもらう。良いかな?」
「了解しました」
今度は反射速度も見る訓練のようだ。断る事が出来るわけもないので、私は指示通り可能な限り必死になって的を撃ちまくった。それもかなりの時間行ったと思われた。
「次は膂力検査と土木工事を兼ねて、地図に示された範囲の樹木を、木刀で根本を殴って折ってもらう。その後の抜根も忘れずにね。出来ない場合は素直にそう言ってくれたまえ。マヤ君はソウイチ君が伐採した木を、私が指定したポイントまで運んでもらう」
一度射撃訓練を終えると、別の場所へと移動して言われた内容がそれだった。先ほどの射撃場と違って一切手入れがされてないのがよくわかる、いわゆる鬱蒼とした森のただ中というべき場所だった。
ダヴィさんはタイヤのないトレーラーの中から指示を出している。ちなみにオーラスーツを積み込んだトレーラーのようなものは、今宙に浮いていた。未来だけあって、タイヤなど必要がない様子だった。
(さすがは未来……)
そんな馬鹿なことを考えながら、私は言われたとおりに鬱蒼とした木々を伐採……木刀でへし折っているので、伐採とは違う気がするが……するために木刀を振ってへし折っていた。そこまで力まずに横凪ぎにすることで、直径50cmはあるであろう樹木が面白いように折れていくので痛快ではあった。
また抜根についても、同じようにそこまで力まずに折り株を掴んで抜くことが出来たので痛快だった。むしろ私の折った木を所定の場所に移動させる真矢さんが悲鳴を上げていた。
途中で手伝おうとしたのだが、それはダヴィさんに止められた。これもデータ取りの対象らしい。
(真矢さんのオーラスーツのデータを今更?)
そこまで詳しく聞いてないが、真矢さんのオーラスーツは個別調整のチューンが施された準特別機らしい。オーラスーツは文字通り軍用兵器だ。軍用兵器に個別的なチューンを施すというのは、整備や生産性の観点から見ればデメリットの方が大きい。
武器の最大の利点は、ある程度の訓練をすれば誰でも同じように使えて、同じような結果を出すことが出来ることである。空手などの無手……武器とかを持たない状態のこと……の格闘技はかなりの修練が必要になるが、そんな相手であってもナイフ一本持てば、空手ほどの修練をしなくても仕留めることは可能だろう。
それが拳銃になればもっと簡単になる。武器とは人殺しの道具ではあるが、究極的に言えば人を楽させる便利な道具であることに、代わりはないのだ。
自衛隊などが使う戦車などの兵器も、多少の訓練は必要だろうが訓練すれば誰でも同じように扱えるはずなのだ。逆に言えば、格闘技と同じほどの習熟が必要な武器は、武器たり得ないと言えるだろう。
この世界であれば未来の科学技術も手伝って、それがより顕著だと思うのだが……それを差し引いても優秀な兵士には優秀な兵器を回して、戦果と生存率を高めているのかもしれない。
しかしそれでも違和感はあったのだが……ダヴィさんの真剣な表情を見れば安易に質問するのは躊躇われた。そのため疑問には思いつつも、自分が言われた範囲内の折採と抜根が終えると、やむを得ないので直立で待機していた。
「最後はちょっと危険だが……誤射実験を行う」
再度射撃場に戻った際に言われた台詞がこれだった。それを聞いて……思わず盛大に頷いてしまった私がいた。
(重要だな……)
誤射。もしくはフレンドリーファイア。文字通り……謝って味方を撃ってしまうことである。シューティングゲームなどでもそれはあった。物によっては誤射で死んだりするが、大半はゲーム性を重視して命中こそすれど、ダメージを負わないのが通常だった。
この世界は普通にロボットも実用化されており、パソコンなどのデバイスも、数世代は進んでいる印象を受けるので、もしかしたら誤射抑制装置などもすでに開発されているかも知れない。しかし私もいずれ実戦に出るので……やっておくことは重要だろう。
「一応ソウイチ君にレクチャーをしておくと、オーラスーツには誤射抑制装置が搭載されているので、基本的にオーラスーツを狙って撃つことは出来ない。しかしそれでも流れ弾というのはあり得る。しかも君の場合、マテリアル兵装そのものを纏っているので、誤射抑制装置が作動しないこともあり得る」
ダヴィさんの説明聞いて、私は内心で頷いていた。未来世界ということで抑制装置があるのは予想の範囲内だったが、私が今身につけている兵装は完全に規格外の兵装だ。装置が作動することも含めて、命中したときにどうなるのか検討するのは、重要な事だろう。
「とりあえずマヤ君。装置を作動させた状態で、ソウイチ君の……右腕の先端部分を狙ってオーラライフルを撃ってみてくれたまえ。わかっていると思うけど、出力は最低に設定してくれたまえよ?」
「了解しました」
真矢さんがそう返事をして……両手で持ったライフルを構えた。銃身が長い。見た目から言って完全にスナイパーライフルのような物だと思われた。そしてその構えが実に精錬されており……直接真矢さんを見てないにもかかわらず、その視線の鋭さが感じられるような錯覚を抱かせさせた。
(……ほう)
思わず内心で感嘆してしまった。
!!!!
真矢さんのオーラスーツが構えて、こちらに銃口を向けて引き金を引こうとしたそのとき、小さな電子音が鳴り響いた。恐らく今の音が、誤射抑制装置の警告音なのだろう。
「ダヴィ中佐。装置が作動しました」
「ふうむ? 特段何もいじってないというのにソウイチ君を……ソウイチ君のマテリアル兵装が友軍だと反応したのか? どういう理由だろうね? まぁそれは後で考えるとして……とりあえずマヤ君の装置は中佐権限で解除した。再度構えてみてくれ」
「はい」
誤射抑制装置が、たった一人の権限で解除出来る事に内心で驚いていたが、そんな場合ではないので直ぐに意識を切り替える。設定変更をされた真矢さんのオーラスーツが再度構えた。私はとりあえず狙いやすいために、且つ別の場所に撃たれないように右手を真っ直ぐに横に伸ばしておいて……痛みに耐えるために神経を集中していた。
「装置、作動しません」
「オーラライフル最低出力を確認。マヤ少尉。ソウイチくんのマテリアル兵装右腕砲身先端に向けて、ライフル発射」
「了解。発射します」
その言葉と共に……ライフルの銃口から閃光が疾った。




