大和国の歴史
デバイスを起動させると、空中に画面が表示される。マンガやアニメ、映画などではよくある技術だが、実際にそれが使用できる物だと、思わずびくっと体が反応してしまった。
(まぁ問題ないんだろうけど……)
しばらくはこのデバイスがどんな物であるのか調べてみたのだが、結論から言って空中に表示されたタブレットだった。この空中投影をどのように可能としているのかとかが気になるところではあるが……現在聞けるのは真矢さんかダヴィさんか思いつかない。そうなるとダヴィさんに聞くことは直ぐに却下した。
マッドサイエンティストな彼女ではあるが、人格者と思われるので恐らく教えてはくれるだろう。しかしどうせ説明されても、凄まじく技術的な事を説明してくれそうな予想が容易に出来た。
真矢さんについては、恐らく彼女の性格から言ってけっこう親切に教えてくれそうだが、普段使っているデバイスについて技術的なことを説明してくれと言われても困るだろうと思い、やめておくことにした。それに彼女も私の訓練に付き合ってくれて気疲れしているはずだ。自由時間とも言うべき時間の邪魔をするのは忍びなかった。
(逆の立場になったときに……タブレットのことを説明しろと言われても私も咄嗟にどう説明するか思い浮かばないしな)
またそれ以上に技術的な話は興味はあるが重要ではない。ともかくある程度使い方がわかったので早速使ってみる事にして……直ぐにインターネットがあることを発見して使用した。
どこの世界にもネットはあるというのは、実に面白い発見だった。人間が人間である以上、ある程度考えることは一緒だという事がよくわかる事実だった。
そこからとりあえず地盤を固めるために……この大和国という国の歴史をざっと見てみることにした。日本の歴史についてはそこまで覚えてないが、ものすごくおおざっぱには覚えている。その記憶と照らし合わせながら見てみると……初期段階で分岐していることがわかった。
(邪馬台国がそのまま国として成立した? そしてそれがそのまま国となった?)
邪馬台国の時代は考古学の分野になる。私の日本よりも遙かに未来であるこの世界でも、タイムマシンなどが無い以上、完全な事がわかっているわけではない。それでも歴史的検証は科学技術が進んだこともあって、かなり進んでいることがわかった。
そしてその検証結果としては、邪馬台国……この世界の表記は倭岱国だったが……がキチンと歴史を紡いでそのまま京都に遷都し、名が大和国となったようだった。
そしてどうしてかは謎だが、かなり早い段階である平安時代初期……この世界の表記では兵杏だった……に海洋技術を得たことで、この世界における中国である中津国とかなりの交易を行っていたようだ。そのためこの世界には日本刀という物が発展する事がなかったようだ。私が住んでいた日本よりも中国との交易が盛んだったことで中国の影響を強く受けたようで、剣を武器として使用している。
ただそれでも島国であることは代わりがないため、やはり色んな意味で変態な国だったことは変わってないのが面白かった。職人気質といえばいいのか……昔から色んな技術が有名であり、交易品として人気だったようだ。その中でも有名なのが大和剣と呼ばれる剣だ。真っ直ぐな剣なのだが……かなり細く造られている。私の個人的な意見としては、両鎬の槍をそのまま剣にしたというものだった。
形状的に真っ直ぐで両刃であるため、当然突くことに特化した武器になる。しかしこの世界でも習得していた折り返し鍛練のために、同じ鉄を造った物であっても鍛えた分小型化出来るため取り回しがよく、なによりよく刺さる。そして剣で戦うよりも長柄の槍に装備して突撃する戦法が発展したことで、剣も次第に廃れていったようだ。しかしそれでもやはり剣に魅力は感じていたので、儀礼や権力の象徴として使用されることはあったようだ。
(けっこう違いがあるのが面白いな。地理的ほとんど違いがないというのに、何故ここまで歴史的に違う結果になった?)
そう思いつつ世界地図を表記させてみると、やはり大枠に見れば大きな違いはないように思われた。無論暮らしていた日本地図であっても、細かい地理を覚えているわけがないため、海外ともなれば言わずもがなだ。しかしそれを差し引いても大きな違いがないのだ。
また、まだ多くの人間を見たわけではないが、人種的にも大きな違いはないように思えた。人種的にも地理的にも一緒であるにもかかわらず、何故これほど歴史的に大きな違いがあるのかが、気になった。
前提条件である地政学的に考えれば、地理に大きな変化がなければ早々変化が起こるとは思えないのだ。無論平行世界のため、台頭した人が変わっているのは当然なわけであり、そうなれば政治が変わるので歴史も異なっていくのは理解できる。
しかし、技術がそう簡単に得られる……というよりも発見、発達するのには無理があるはずだ。それこそ……何かのインチキというか、要因がなければ起こりえるわけがない。そこで気になるのが、海洋技術の異常な発展だった。
(これほど早くの時代に海洋技術が確立したのは何故だ?)
詳しいことは私も知らないが……それでも平安時代での航海というのは間違いなく命がけだったはずだ。それこそ天候による海の上での大時化や大嵐などが起これば、神頼みでしか乗り切れなかった時代でもあり、不運にも乗り切れない場合が多くあったはず。
また海洋技術と一言にいっても、それ以外の技術も相応に発展しなければ、海洋技術が発展する土台が出来ない。織物は海洋で言えば帆が大きく影響を受け、製鉄技術も釘などが影響を受けるはずなのだ。平安時代はまだ全てが未熟なはずの時代だ。だというのに……何故こうも早い段階で、中国の影響を大きく受けるほどの交易が出来たのか? 不思議でならなかった。
そこで興味深い記述を私は見つけた。航海技術の取得があまりにも早いことについて論文を書いている学者がいたのだ。その論文はけっこう有名らしく、見やすいようにまとめてくれている記事があるので、それを見てみる。
(……天人が技術をもたらした?)
その記事には、その学者が調べた研究成果も記されており、その研究としては、とある古墳で壁画に描かれた絵と、それについて記述された書物を解析した結果が記されており、それが天より舞い降りた人が知識を与えたと解析したという。
天から人が舞い降りた……というキーワードを見てようやくこの世界における宗教を意識した私は、寄り道となったがそちらも軽く触れてみることにした。といっても日本人故に無宗教の人間である私は、私の世界の宗教も詳しくないので、タブーがある宗教を調べる程度で終わってしまう。しかしそのタブーも、私がよく知る私の世界の宗教と大きな変化はなかった。
(やはりどんな世界に言っても神っていうのは存在するというか……描かれるものなのだな……)
この世界のいくつかの宗教の中で、豚肉を食べてはいけない牛肉を食べてはいけない等があった。しかしそれが私の世界におけるどの宗教なのかは詳しくは知らない。ちなみにこの世界の日本である大和国は、中国の影響を強く受けながらも神道が一般的らしく、あらゆる物に感謝している事がよくわかった。
話がそれたが……その考古学者の考察によれば平安時代に天人が舞い降りて様々な知識を与えたという。その学者は天より遣わされた存在であると考察していたが……私はそれに違和感を覚えた。というよりも、私自身がそれを否定しているといっても良いだろう。
(……転移者かな?)
平行世界からこの世界に紛れ込んだ存在。転移者がこの天人ではないかと、私は思った。私の場合は未来よりきた訳ではなく、過去の平行世界から来た存在だが……この天人はまさに未来から来た存在だったのだろう。それがどのような知識人が来たのかは謎だが……海洋技術に強い存在がやってきたと思うのが妥当だった。
(いや待てよ? 未来技術のこの時代の人間がデバイス込みで過去に行った可能性も、あり得なくはないか?)
未来技術である空中投影ディスプレイやデバイスが、過去の世界に飛んでも使用可能な状況であれば、一般人が行ったとしても天人成り得るだろう。その辺は考え出すときりがないので……これ以上は考えないものとする。
(私の存在も鑑みれば……平行世界の存在が来たこともあり得るしな……)
そう考えれば……使用される文字が似通っており、更に未来技術である翻訳機があるにもかかわらず、私との言語による意思疎通に時間がかかったのも納得だった。平行世界と一口に行ってもそれは文字通り無限にあり得る訳なので、その世界間で人間の流出入が行われていたのであれば、文化的に似通るのは納得できる。そして様々な世界と交換しているのであれば、翻訳などが一筋縄でいかないのも道理だろう。
(まぁこの辺のことは、偉い人に任せよう)
考察も面白くはあるのだが……絶対に結論が出せないことも理解しているので、ある程度の段階で考えることを止めた。というよりもとりあえず異様な技術の発達については、未来から来た人種によって加速したという事がありえたとわかれば、それで十分だった。
そこでようやく最初の目的である歴史の勉強へと戻ることにした。そしてわかったのは……少なくとも大和国に来た天人は平安時代のみだったと思われる事だった。その後の歴史は、平行世界故に変化はあるが、海洋技術の発達ほど大きな違和感はなかったのだ。屈強な戦士が政治を支配した時期があったり、平和になった時代は知識人が政治を担った時代もあった。しかしそれでも同じ島国で日本っぽい国のため、天皇家が存在してその天皇家が崇拝されている事は、変わらなかった。
(しかも天皇家はこちらの世界も一緒で「天皇家」なんだな)
天皇家を崇拝しつつも、時代の権力者が武人だったり知識人であった時代もあるにはあった。平安時代以降は鎌倉時代はあったが南北朝時代は存在せず、直ぐに室町時代に移行。室町の時代の次は戦国時代と安土桃山時代なのだが、それらもなく江戸時代に移行した。武人が乱立しなかった理由は、私の世界の歴史よりも天皇家がけっこう政治の実権を握っているのが大きな違いではあった。
ちなみにもう面倒なので時代の漢字表記違いは無視することにした。
(天皇家が強いというか、お家騒動がないから南北時代はないってことか? そして天皇家が政治に関わっていたことで、武士が台頭し群雄割拠となった戦国時代がないと?)
そして海洋技術が発展していたことで、江戸時代があるにはあるのだが、鎖国はしなかったようだ。様々な国と貿易をしており、島国の技術がけっこう珍しかったようで、江戸時代相当国が裕福な様子だった。
そして次に明治時代に移行するのが私の世界なのだが、鎖国がなかったことで明治時代も文明開化もなかったようだ。そのため明治時代がない。文明的にも技術的にも出遅れることなく世界的にも有名な国だったみたいである。
しかし悲しきかな……平行世界であっても世界的な戦争は避けられなかったようで、世界大戦は二度経験がある様子だった。第一次世界大戦の時期については、私の世界と同じ時代に起こり、結果も一緒だった。
だが衝撃的だったのが……なんと驚くべき事に、第二次世界大戦で日本が敗戦国になっていなかったのだ。
(起こった年代なんかは一緒のはずだが……何故敗戦国になってない?)
その理由を探れば直ぐに原因がわかった。第二次世界大戦では、最強兵器である核兵器が使用されなかったのだ。アメタリカで実験はされていたようだが、実用化には間に合わなかったようだ。そして次に大きな要因だったのが、零式艦上戦闘機……通称零戦が、私の世界のものよりも高性能だったことだ。驚いたことに……当時の技術では異常とも言える技術力を誇っており、なんと弱点らしい弱点がなかったらしい。
(確か零戦の弱点は……旋回性能に難があったのだったか?)
詳しくは覚えてないが、私の世界の歴史では、戦時中にどこかにほぼ無傷で不時着した零戦を、敵国であるアメリカが徹底解剖したことで旋回性能に難があることが突き止められてしまい、その弱点を突かれて戦闘機による戦闘で劣勢に立たされたはずである。この世界の零戦にはその弱点らしい弱点がないため、大和国はけっこう善戦できたらしい。
しかしそれでもどうしてもついて回る問題があった。それは島国が持つ特有の問題である……資源問題だった。
(土地がないってのはこれが痛いな……)
戦闘機や戦艦による戦闘ではかなり強かった大和国。しかしそれでも資源がなければ厳しいことに代わりはない。対してアメタリカ国も、国土や資源はあっても戦闘機や戦艦技術では大和国に遅れを取っていた事で、双方が共に攻めあぐねる結果となった。そして私の世界における、最強兵器といっても過言ではない核兵器が存在しないため、致命的なまでに決定打がなかったのだ。
そこでも天皇家が活躍というか、大きな役割を果たした。それは和平交渉だ。アメタリカもこれに同意し、和平が結ばれた事で、第二次世界大戦は終幕したようだ。では他の国がどうなったのかと言うと……やはり海という存在は偉大だったらしい。同盟国であったドイツ……この世界の名称はドインセン……は地続きだったために敗北したようだ。大和国が負けなかった最大の要因は、やはり広大な太平洋という存在だったようである。
そうして第二次大戦が終了してからは、ある程度平和に過ごせたようだ。それもそうだ。何せ核爆弾を撃たれてないという大きな要因と、空襲を受けてないのだから。東京が焼け野原にならなかったので、戦後の大復興とはならかったようである。
しかしそれでもさすがは日本人。技術的な進歩はこの世界の歴史でも一緒のような感じで、バブルはあったようだ。面白いのがそのバブルは唐突にはじけるのではなく、ゆるやかーに衰退していく形で消えたようだ。その後は私が生まれた位の時代になるのだが、バブルがはじけなかったことでそれなりに余裕があった様子。
その後いくつかの元号の変化を経たが、この世界における西暦のような暦である、世界暦と呼ばれる暦においての2047年に、オーラマテリアルが発見されたようだ。そしてその二年後である2049年に、暦の呼称が煌晶暦と変化した。そしてその煌晶暦元年から451年が経過したのが……今のこの時代である。
これが大まかではあるが……この世界における大和国の歴史だった。




