木刀の力
その後私含めて驚いていた……真矢さんとダヴィさんはしばらくフリーズしていたが……三人だったが、固まっていてもしょうがないので、とりあえず先に素振りからさせてもらう許可をもらった。
普段通りを意識して……なんて最初は考えるのだが、しばし振っていればそんなことなど直ぐに意識から消えてなくなった。無心になってひたすらに木刀を振り続けた。ただ、何も考えなければ永遠……とまでは言わないがかなりの時間振り続けてしまうので、素振りをする前に最初に五分と自ら制限を設けて、ダヴィさんに時間を計ってもらった。五分は普段自分が行っている素振りの最低限の時間だ。長いときはもっとするし、させてもらいたいのも本音だったのだが、そんな暇もないためだ。
これもそれなりに慣れた物で……五分間ぴったりとは言わないが、大体の秒数は感覚でわかったので自ら申告して素振りを終わらせた。
「すごいね。本当に毎日やっているのがわかるね」
「一応日課ですからね」
そんな下らない話をしながら、データ収集は続けられた。次にいつの間にか除装されていたパワードスーツを纏った状態で素振りをさせられた。データ取りに意味があると思い、特段何も考えることなく普通に素振りをした。
しかしそれは私の意識の上では普通に素振りをしていただけだったようだ。パワードスーツを纏った状態での素振りを、後ほど録画で見せてもらったのだが……何というか、映像を早送りしているような感じで高速に素振りを行っていた。
「……なんか間抜けに見えますね?」
「うむ。申し訳ないけれど、私も正直それはおもったね」
品評会とは違うが……その映像は正直笑いをかみ殺すのに必死だった。それはダヴィさんも一緒だったようで、ニマニマと笑っていた。真矢さんはもう笑いを通り越して呆れている様子だった。
それで思わず忘れてしまった……私の場合はキチンと認識できていなかった……のだが、オーラマテリアルそのものであるパワードスーツに取り込まれた木刀は、マテリアル兵装になってしまったという事実だった。
「では実験に戻ろう。先ほど出した鉄骨を殴ってもらっていいかい? 全力ではまずいので、七割程度の感じで」
「了解しました」
七割と言われても何とも言えないのだが……ともかく全力で殴るのはまずいと私も判断して、感覚的に七割程度で殴った。すると驚いたことに、鉄骨が木っ端微塵に吹っ飛んだのだ。
「「「はっ?」」」
これに関しては声が間違いなくそろっていたと想う。曲がる位はあり得ると想ったのだが……まさか殴った部位が木っ端微塵に吹き飛ぶとは。流石に砂状にはなってないが、それでもガラスを殴ったかのような感じで砕けている。鉄骨のため靱性もあるはずなのだが、それが吹っ飛ぶなど誰が予想できるだろう。
「……本当に君という奴は」
驚いて言葉も出ないのか、ダヴィさんから出てきた言葉はそれだった。私としても正直何とも言えない気持ちだったので、ダヴィさんがおもわず呟いてしまったというのがよくわかった。
(真矢さんは?)
実験開始よりほとんど喋ってない真矢さんに目を向ければ……なんというかもう何とも言えない表情をしていた。私自身よくわからない状況なのだ。それが少しでもこの世界のわかっている人間が、今の状況を見れば仕方のないことなのかも知れない。
「OK。威力に関しては規格外と言うことでもう割り切ろう。サンドバックの二の舞になるのが目に見えている」
「そうですね」
これについては完全に同意した。データを取るためにはもっとした方が良いのだろうが、それ以上に浪費の方が多いのが目に見えたからだ。
「ただデータは欲しいからね……。一応除装した時の物も取っておこう。今破壊した鉄骨に向けて同じように……いや万が一があるね。3割程度の力で、スーツを脱いだ状態で殴ってもらって良いかな?」
何故かスーツを脱いだ状態でも使用できた木刀を調べておくのは、全く不思議ではない。私が反乱を起こすかも知れないと考えれば、生身で使用した時のデータを得ておく必要がある。素直に言うことを聞いて……木刀で殴って破砕した鉄骨が飛んできて怪我をしてもいやなので……3割程度の力で殴ってみたが、そのときは普通に木刀で鉄骨を殴ったという現象しか起こらなかった。続いて7割、全力と叩いてみたが結果は同じで、木刀で鉄骨を殴ったという事しか起こらなかった。
そこで確定したのが、木刀がマテリアル兵装に変化したのは間違いないなさそうということだった。その証拠に、全力で鉄骨を殴ったというのに、木刀にへこみなどが一切見あたらなかったためだ。
その結果に興味深そうに、ダヴィさんは頷いていた。それから他にもいくつかデータを収集した。
「とりあえず今の時間のデータだけで、ある程度安全性は確認できたから明日からは野外演習場を使用してデータを収集しようか?」
「了解しました」
その後はデータの整理をすると言うことで……何もしない状況のデータを取ると言うことで、整理が終わるまでスーツを着たまま待機といわれた。やることがないので暇なので素振りでもしたかったのが本音だったが、「何もしない」ということのデータ収集と言われてはそれも敵わない。仕方ないので直立不動で待機することになった。
「よし、今日はこれで終わりにしよう。このデータを元に明日もスーツを使用しての訓練となるからよろしくね? 明日は……オーラスーツと連携も考えることになるから、マヤ君もその時間はオーラスーツを使用して実験に参加してもらうことになるから、そのつもりで」
「わかりました」
驚かされたことは多々あれど、それでも面白いデータがいくつも取れたのか、ほくほく顔のダヴィさんからそう告げられて、本日の訓練は終了となった。その前に……わがままを言ってみることにした。
「ダヴィさん、一つお願いがあるのですが?」
「なんだい?」
「先ほど話した私の日課についてなのですが……出来れば部屋でもさせていただけると嬉しいのですが?」
「なるほど、日課と言っていた物ね。……良いだろう許可する」
「!?ダヴィ中佐!?」
自分で言っておきながら許可が下りるとは思っていなかった。そしてそれはマヤさんも同じようで、思わずというようにダヴィさんの名前を呼んでいた。しかしダヴィさんはそれに応じることはなく……小さく首を何度か頷いて考え込んでいた。
(監視していることも考えれば、それもデータ取りか?)
私としては許可が出た理由が、これしか思い浮かばなかった。そしてこれは間違ってないと断言できた。
しばし私たちを無視して考え込んでいたダヴィさんだったが、再度同じ結論に至ったようで、正式に許可をいただいた。そして許可したことは千夏司令にも伝えるが、他には言わないことと、物を壊さないことを厳命された。
(出来れば型もしたかったが……まぁそれはしょうがないか)
昨夜過ごした今後も私の部屋となる自室は、唯の素振りであれば十分出来るだけの広さと高さがあった。マテリアル兵装ということで、先ほどの鉄骨のように吹っ飛ばす事もあり得なくはないが……パワードスーツを纏ってないときには普通の木刀だったので、問題ないだろう。
「よし、本日はお疲れ様! 明日も元気に、実験に付き合ってもらうよ?」
明日も実験があることを告げられてから、ダヴィさんの訓練室を後にして……とりあえず本日の業務は終了となった。時刻は夕方17時ちょうど。厳戒態勢でないからか、それとも見張りの兵士がいるからか、就業時間終了よりも少し前だとマヤさんに告げられた。その台詞で定時という概念があるのがよくわかった。
「本来であれば就業時間が過ぎれば、ある程度自由に過ごして良いのですが、ソウイチさんはまだ慣れてないこともあるので、自室以外では私と行動を共にしてもらいます」
ただこの台詞で少し違和感を覚えた。確かにいくら軍隊とはいえ、全ての人員が24時間365日厳戒態勢でいるわけがないのは事実だ。また見張りがいるだろうし、兵士だけでなく機械的な防衛装置もあるだろう。しかしそれを差し引いてもある程度自由に過ごせるというのが、少々気にかかることだった。
「質問しても?」
「どうぞ。内容次第では応えられないこともありますが」
本日の訓練が終了したとはいえ一応就業時間内。挙手をして質問の許可をもらった。
「一応戦時中であるはずですが、敵がせめてこないのですか?」
FMEには縄張り意識があるとは聞いた。しかしそれでも異星から侵略してきた存在が、夜という絶好の機会に何もしてこないのはそれはそれで気になった。
「確かに襲撃は多少ありますが、それでもほとんどが人型種数体の偵察程度でしかないんです。FMEとの戦争が始まって以来、世界各地で報告されていることなので、そこまで心配する必要性はありません。無論油断はしてはいけませんが」
その台詞を聞いて、ある程度納得した。この場所だけではなく世界的にデータがあるのならば、それは信頼して良い情報といえる。そしてこの基地は当然敵の縄張り範囲に入っていないようだ。そしてその縄張り意識の範囲は……この近辺では関東平野の平野部になっているようだ。
しかしそれに慣れてしまっては危ないと、素直に想った。
「ですが、敵がいつ行動を変えるかはわかりません。なので基本的に即応できる場所にいるようにするのが、求められてます」
だがそんなことはこの世界の人間も承知しているようだ。即応できるということは……基本的に帰省という概念はないのかもしれない。そう考えていると、真矢さんが辺りを見渡して人がいないことを確認してから、声を潜めてこういってきた。
「故郷がすでにFMEの勢力下になってしまっている方もいるので、くれぐれもその辺りの発言は気をつけてください」
「了解しました」
その話を終えて二人で少し遠い自室へと戻った。
「では食事の前に汗を流しましょう。自室に戻って体を綺麗にしてください。1720に自室前で集合です」
節水を求められている上に、湯船がないのだ。長湯もくそもない。とりあえず体を綺麗に洗い流して、言われた時間に自室前に出て待機した。すると直ぐにマヤさんも出てきた。
「食堂が混み始める前に行きましょう」
そしてさっさと食堂に行き、飯を食べる。すると必然的に……18時前には自由時間ということになる。正しくは自由時間ではないのだが……ともかくある程度気を緩めて過ごして良いのは間違いない。その時間の使い方が……なかった。
(ふぅむ。どうした物か……)
体を休めた方が良いのは間違いない。入隊し訓練を受けたのだ。体に疲労は溜まっている。実際けっこう疲れているので、明日の筋肉痛はひどい異なること請け合いである。その上で明日以降も訓練を行うのだから、夜更かしなど御法度なのは言わずもがな。私としても夜更かしをするつもりはない。
そうすると……やることがなくなってしまう。一応この世界における電子タブレット……物体としてなく、使用可能な場所で特定の動作を行うと使用できる、空中に投影される未来的なデバイスである……は使用可能にしてもらった。完全な未来の産物で純粋に凄いとはおもったのだが、その電子タブレットを使用出来ても出来ることがない。私のタブレットにしまわれていた娯楽データに歓喜していたように、娯楽という意味では数世紀は私のいた世界に、遅れを取っているからだ。
(復習とか勉強をするしかないか……)
出歩くことも完全に禁止されてないが、それでもまだ自分自身が設定をうまく演じるというか……うまく応対できる自信がない。自身のタブレットは手元にあるのでその中の娯楽データを見ても良いのだが……そんな気分ではなかった。そうなると……必然的に勉強しかすることしかなかった。
(まぁちょうど良いか……。一応デバイスもあるし、歴史の勉強をさせてもらうか……)
一応使えるデバイスを用意してくれたということは、少なくとも私が見ても問題ないものは見えるように設定されているはずだ。
ということで早速デバイスを使用して歴史的な物を見てみることにした。




