性能実験
まずは目算で100mはあろうかという距離の先にある、射撃用の的へ走る動き。部屋が平坦な物だったので、特段地面について意識する必要性はない。また全力で走るとどのような事になるのか私もわかってないので、まずは普通にジョギング程度の速さで走って見ることにした。
このスーツを身につけるのは三度目だが……実際に動いたのはまだ二度目だ。慎重に慎重を重ねても、考えすぎということはないだろう。
訓練後のために疲労は溜まっていたが、それでも若返っていることとパワードスーツを身につけているからか、何とか普通に動いてタッチして今の位置へと戻ってきた。
「……ふむ。特に違和感とかはないかい?」
「そうですね、特には」
私自身、このスーツを纏ってじっくりと考えるというか、動くと言うことが初めてなので非常に新鮮な気持ちだった。
(最初が非常事態だったからなぁ)
ダヴィさんに質問されて返答するが……あまりの違和感のなさにびっくりする。まず装着している感じがほとんど無いのだ。四肢や胴体などの動きも凄まじくスムーズで……パワードスーツを着ている感覚がない。
しかし試しに、左手で右腕のアームキャノンや胴体部分を触れてみれば、固い感触が返ってくる。耐衝撃等はわからないが……少なくともただの木刀とかで殴られたところで、屁とも思わないのは感覚的にわかった。
指、手首、肘、肩等の関節部分も完全にスーツで覆われているのだが、動かしても本当に違和感がない。この可動部分が全く違和感なく普段通り動かせることが……このパワードスーツが流体金属であることの証明に思えた。
「では次は……今よりも少し早めに走ってもらって良いかい?」
こちらが驚いている以上に、ダヴィさんは驚いているようだった。何というか……知的好奇心を超えて驚いているのか、先日の暴走状態とは違って声に固さがあった。スピーカー越し且つガラス越しではあるが……表情も下の機材のモニターに釘付けだ。側にいる真矢さんも同様のようで……呆気にとられている様子だ。
「了解しました」
しかし今は驚いてばかりもいられない。この不可思議な兵装を解析しなければならないのだ。時間も有限なので、さっさと出来ることはするべきだろう。先ほどよりも少し速度を上げて走った。全力疾走ではないが、それなりに本気を出して走った。そして……その速度に驚いた。
(速い!?)
先ほどはただ走っただけだ。意識的にも何も考えず。しかし今度は先ほどよりも早く走ろうと思い、何よりもパワードスーツの性能を知りたいと考えた。その想いに応えるかのように、先ほどと違って明らかに何かに力押しされているような感覚があって、かなりの速度で走ることが出来た。
そこで面白いのが……ただ早くなっただけでなく、思考速度も加速しているという事だ。剣術の訓練中に何度かあった……意識が加速して周囲の速度がゆっくりと見える感覚。そして本当に希に起きた……先読みすることが出来た感覚。その二つのちょうど中間のような、実に不思議な感覚だ。
どれほど高速で動けようとも、それにあわせて体が動けなければ意味がない。簡単な話……弾丸の速度で一歩が踏み出せたとしても、その速さについて行けず二歩目が踏み出せなければ、マンガみたいに高速で動き回ることなど出来ないのである。
しかしこのスーツを身につけているからか……それが可能となっていた。時間を計ってないが……断言できる。100mはあるだろう先にあったターゲットに触れて戻ってくるまでの時間が、短距離走のオリンピック選手など目じゃないほどの速さで走ったと。
「……規格外だねぇ」
「ちなみに今の、時間とか測ってました?」
「時間かい? なんと1秒だよ」
「……それは、凄まじいですね」
流石にびっくりした。オリンピック選手とかそんな次元ではない。間違いなく異常な速さだ。
「全力疾走……と言いたいところだけどそれはまた後日にしようか? 何が起こるかわからないし」
「承知しました」
流石のマッドサイエンティストも、びっくりして自らドクターストップをかけている。次に何をやるのかを考えていたら……下から台がせり上がってきた。そしてそれはちょうど胸よりも下の高さ……つまり何か物を置くのにちょうど良い高さで止まった。
「次は射撃をしてみよう。先ほどのターゲットに向けてその台から撃ってみてくれ」
その指示通りに右腕のアームキャノンを構えた。といっても……ロトメイドのアームキャノンという、右腕そのものが砲身になっている武器でどう照準を付ければ良いかわかったものではない。前回は夢中になりすぎて、とにかく撃たなければと焦っていたというのが、如実にわかるものである。
(どうするか?)
「あぁ外れても気にしないよ。とりあえずデータ収集が目的だからね。あまり深く考えなくても問題ないよ」
私が撃つのに躊躇っているとそんな指示が出された。考える暇があるのならさっさとデータ収集がしたいと言うことなのだろう。それもその通りなので、おとなしく右腕を構えた。一応FPSやTPSゲームもやっていた。また右腕がアームキャノンというのも、ロトメイドの2Dではなく3D版のプライムもやっていた。それを意識して構えた。
そのときだった。
(……うん?)
プライムを意識したからだろうか? ともかく……視界のど真ん中に、うっすらと白い点が出てきた。どうやらバイザーに映し出されいるようだ。そしてその点は……プライムに出てきたいわゆる照準点とでも言うべき物そのものに思えた。ゲームでメタ的なことを言えば、そこに必ずアームキャノンのビームが飛んでいくという物だった。
(つまり……そういうことだろうな?)
その点を意識しながら構えてみる。腕を動かしたりする事で追従する感じだった。その点を更に意識して、照準をターゲットにあわせて念じた。
(発射)
その念と同時に、わずかな反動が右手に返ってきて……まさに閃光が疾った。発射があまりにも簡単というか感覚がなさ過ぎて正直びっくりしてしまった。そして的に当たったのかを確認しようと想ったら……バイザーの一部が拡大されてターゲットがよく視認できるようになった。
(拡大機能付きとか……マジで万能だな……)
何というか、想えば想うだけ出来ることが増えそうで怖い兵装である。そして拡大されたターゲットは、見事に胴体のど真ん中を打ち貫いていた。しかもサイズ的に……拳大サイズの大きさである。
(何というか……拳の大きさって考えると、光のロケットパンチを放った感じに思えてしまう自分がいる。)
当然ながら……私は光学兵器など見たこともない。そしてそれから発射されたビームなども当然だ。創作物は視聴者というか消費者に視覚的に見せるために、ビーム兵器のビームも見えるようにアニメなどで表現しているが、光というのは見えるという物ではない。いや正しくは見えているが、目で追える物ではないのだ。
レーザーポインターが光学兵器の感覚に近いだろう。あれはいわゆる光を収束させて赤い光点を作り出している。収束具合が凄まじいことになっているので、あれを直視すれば目がつぶれる。レーザーポインターは、点けた瞬間にもう対象物に当たっている。
(光の速度ってどれくだいだったかね? 一秒で地球を何周か出来るってのは知ってるんだが……)
詳しく覚えてないが、相当早かったことは間違いない。雷が150km/Sだったのは魔法使いのマギね先生で覚えたのだが、光の速度は覚えてなかった。
ちなみに気になって本日の夜に調べてみた結果として、光は秒速30万kmであり、地球一周は4万kmとなっている。そのため、一秒で光は地球を7周+αしてい事となる。
「ふむ……これに関しては普通だね」
しかしこちらの世界の人間としては、オーラ兵装で慣れた物なのだろう。先ほどと違って驚いている様子はなかった。
その後何度か連射を命じられたりした。その際いろいろなターゲットを的に撃たされた。最後の方に使用したのは計測機能が付いているようで、ダヴィさんの独り言で数値が漏れて聞こえていたのでわかった。
またチャージショットも可能だった。そのチャージショットの威力については少々驚いている様子が見受けられた。
調子に乗ってミサイルも発射できるんじゃないかと念じてみたのだが……流石に無から有は作り出せないのか、私のイメージ不足なのかは謎だが、ともかくミサイルが発射されることはなかった。
「ふむ、銃器に関してはそれなりかな? しかし命中率が凄いね? 動いてないとはいえ百発百中って……」
「……私も、驚いてます」
「そんな風には見えないけどね?」
正確にこちらが驚いてないことを見抜かれてしまった。先ほどの照準点が見えた時点で……何となく悟っていたからだ。ゲームでは照準点から弾着がずれることはあり得ない。
本来……銃弾などの物理的な弾は特にそうだが、風や気圧に命中する場所は左右されるのが普通だ。しかしそこはゲームなのでその辺は一切考慮されず、照準された場所に必ず命中する。それがイメージされた影響からか……文字通り百発百中となっていた。
先ほどの実弾を使った射撃訓練を見ている真矢さんの方へチラリと目を向けると……口を開けて驚いていた。先ほどの射撃訓練の精度を考えれば当然といえた。
先ほどの訓練ではターゲットの顔の真ん中を狙って撃った。首から上の場所には命中していたが、狙っていたど真ん中に命中はしなかったのだから。
それがスーツを着たら文字通りの百発百中だ。無理もないだろう。
「では次に……接近戦といこう。といってもまだ動く相手をさせる訳じゃない」
そういうと共に、台座が床に下がっていき、少し先にサンドバックのような物が上から落ちてきて……宙で止まった。
(……反重力?)
「それは訓練用のサンドバックだ。遠慮はいらないから好きに殴って蹴ってみてくれるかな?」
浮いていることに驚いている私だが、これもあちらからしたら以下略。ともかく言われた通りに格闘のまねごとをしてみる。
剣術は習っていたが格闘技の経験はせいぜい学校で軽く囓った程度。もっともイメージしやすい空手なんかを用いて殴ったり蹴ったのだが……これも凄まじい結果が出た。
なんと、思いっきり殴ったら……吹き飛ぶのではなく突き破ってしまったのだ。それも貫手ではなく、正拳突きで。
「「「は?」」」
これは流石に、私も含めて誰もが予想外だったようで、声が綺麗に重なったように想われた。しかし驚いてばかりもいられないので、他にも蹴ったりしたのだが……格闘だけでサンドバックが数個駄目になった。
「よし、資源の無駄だ。格闘はこれでいい。次は……先日戦闘で使った木刀とやらを使用してもらおう」
そうして今度は上からではなく下から台座と同じようにせり上がってきた。しかし今度せり上がってきたのは台座ではなく……どう見ても鉄骨に見えた。
「鉄骨?」
「サンドバックだとまた駄目にされそうで怖いからね。とりあえずそれを体に負担をかけないように気をつけながら殴ってみてくれたまえ。ちなみに、木刀とやらは出せるんだよね?」
そう問われて……私も昨日のワイバーンとの戦闘から木刀を握ってないことを思い出した。
(なくなってないだろうな?)
事態が事態であったために意識に回ってなかったが、あの木刀は非常に思い入れのある品なのだ。なくなられては色々と困るのである。
少し不安になりながら木刀を意識すると……左手に何か握りこむことの出来る感触が生まれた。それと同時に目に見えないはずの木刀が写り、それを具現化するように意識して左手を握りこんだ。
その瞬間に、左手が柄頭の部位を持った状態で木刀が出現した。パワードスーツ越しだが、手に返ってくる感触は、何となく自分が長年愛用している木刀と同じだと、直感的に理解した。
そして木刀を使うために右手に意識を向けると……アームキャノンがスライドして右手首が砲身より出てきた。自由になった右手で、柄を持った。
「映像でも見たけど凄まじい現象だね。質量保存の法則はどこに行ったんだろうね?」
「……同意します」
「使用している君にそれを言われてもねぇ……。まぁ君も戸惑っているのだろうけど」
若干呆れながら乾いた笑みを浮かべている。ダヴィさんとしても非常に戸惑っているのが見て取れる。しかしそれ以上に探求心もあるのだろう。直ぐに私に指示が飛んでくる。
「出せたこともわかったし、とりあえず殴ってもらっていいかい?」
朝は覚えていたのだが、そのほかは濃密すぎた時間だったために忘れていたが、本日の日課がまだだった。そのため……一つわがままを言ってみることにした。
「ダヴィ中佐。よろしいですか?」
「なんだいソウイチ君? ちなみに私の呼び方は中佐なんて固くなく、ダヴィちゃんで全然OKだよ?」
「……ダヴィさん。よろしいですか?」
「おや意外。すんなり応対してくれたのは君が初めてだ。でも出来ればちゃんがよかったなぁ」
(まぁ軍隊だったらそうだよね……)
当然のことながら一日も経たずに軍人になれるわけも慣れるわけでもない。また精神的にどうしても幼い子供を見る感覚に近くなってしまうので……思わず即応してしまった。しかし別段怒ってないようなので、状況に応じて対応すれば良いだろう。
「一つお願いがあるのですが?」
「ほいほい。なにかね?」
「剣術の稽古で日課として、毎朝素振りをしているのですが……体を動かす名目も兼ねて行っても良いでしょうか?」
毎朝の日課の素振り。しかしマテリアル兵装化してしまったので、本日の訓練が出来ていない。そのため今データを取るという名目も兼ねて、させてもらえたらと想ったのだ。
「日課ということは、毎日してたのかい?」
「そうですね。体が動けないほど高熱で寝込むとかしない限りは……」
「ふむふむ。それも面白そうだね。許可しよう」
すんなりと許可が出たことに拍子抜けしたが、こちらとしてはありがたい話なので乗っておくことにした。そして思わず……普段通りにと考えて構えたそのときだった。
「ちょっと待ったソウイチ君!」
「はい?」
「それはどういうことだい!?」
何を言われたのかわからずダヴィさんの方に顔を向けたのだが、そこにはダヴィさんと真矢さんが驚愕している顔がガラス越しに見えただけだった。何を驚いているのかと、疑問に想っていたのだが……そのとき視界に違和感が無いことに気づいた。
(うん? 何かおかしい?)
そう認識して構えを解くために振り上げていた腕を降ろしてみて……腕が視界に写って原因がわかった。いつの間にかパワードスーツが解除されていたのだ。そしてパワードスーツが解除されたにもかかわらず……私は両手でしっかりと愛用の木刀を握りしめていた。
「……おや?」
少々驚きつつ右腕に目を向ければ……右手首にはしっかりと待機状態のパワードスーツが装着されていた。にもかかわらず、木刀は出現したままだった。
「ふむ。面妖な?」
普段いう言葉が微妙に疑問符になってしまったのも、無理からぬ事だと想いたい。




