訓練開始
そうして……訓練が始まった。それは……まさに軍隊だった。
「体力の基礎は、心肺力と持久力! ロードワークは毎日15kmです!」
持久走は本当にきつかった。ジョギングをしていたこと、若返ったことから少しはマシだったが、そんなもの気休めにしかならなかった。しかし泣き言をいうつもりはない。何せこれをさぼれば……自分が死ぬかも知れないからだ。
体力がない者から死んでいく。これは戦場において絶対の真理の一つ。マンガやら小説の知識でしかないが……ないよりはマシだろう。というわけで……死ぬ気で訓練に励むしかなかった。
「遅く走っては意味がないので、目標は最低でも私と同じ速度で走りきってもらいます!」
そういった真矢さんの走りの速度が、普通に早い。流石に駅伝選手とかそんなことは言わないが、当然だが趣味でやるジョギング程度の速度であるはずもなく、素人の私からしたら十分早かった。
「了解です!」
そして当たり前だが……趣味程度のジョギングでついて行けるわけもなく、普通に周回遅れとなった。しかし何とか走りきることは出来た。
「兵装が破壊されて生身で基地に帰還しなければならない時、頼りになるのは己の足と体力だけです! また筋力を鍛えて体力だけでなく、筋力的な意味でも肉体強化を行います!」
続いては自重筋トレ。腕立て腹筋背筋スクワット。これも一応それなりにしていたが、所詮それなりである。普通にきつい。大幅に時間を超えてしまったが、これも何とかやりきった。
「次は山間部を利用しての訓練です。自分が踏むべき場所、使用すべき木々や岩などを瞬時に判断して素早く、かつ可能な限り肉体に負荷をかけないように降りていきます。怪我をしないように十分気をつけて! 怪我をしたらその分だけ治った後が辛くなります!」
「りょう、かい!」
こちらも何とか以下略……。
「休憩も兼ねてお昼です。タンパク質が豊富に取れる納豆、卵かけごはん。鶏肉のささみ、サラダ。とりあえず最低限一人前は胃に無理矢理にでも入れてください」
「了解です……」
運動によって疲労した筋肉を修復するための食事。筋肉の材料であるタンパク質の補給である。疲れていて喉も通らない……そう思えるほどの疲労が蓄積していたのだが、食べない訳にはいかなかった。
けっこう厳しかったのだが……若返った肉体も相まって、何とか訓練にも食らいつくことが出来て、食事も食べきることが出来た。
「座学です。軍事行動におけるそれぞれに役割とその意味を、最低限頭にたたき込ませていただきます」
「……はい」
少しばかりの昼休憩の後は、勉強だった。これは文字通り本当にたたき込まれた。FMEとの軍事行動におけるそれぞれに役割、作業分担。他諸々の話だ。しかし初めてというか、未知のことなのでけっこう面白くてすんなり頭に入っていった感覚があった。
(若返ったからか?)
全く自慢にならないが……私は物覚えが良い方ではない。仕事も何度かやってようやく覚えてスムーズに行える、という感じである。真矢さんの教え方がうまく、話し方も堂に入っていて聞き取りやすく、板書……正しくは映し出された資料……も理路整然としており非常にわかりやすかったのもあるのかも知れない。
だが……若返りと真矢さんの教え方をとっても、あまりにも覚えが良すぎた。正直少し気味が悪いくらいである。しかしそうはいっても授業は進むので、必死になって覚えるしかない。
ここで面白かったのが、兵装と物資についての話だった。
「FMEに有効な武器は基本的にオーラエネルギーを用いた光学兵器のオーラ兵装。そしてオーラエネルギーの出力が向上されるマテリアル兵装のみです。そのため、基本的に物質的な弾丸を撃ち出す武器というのは物資が限られていることもあって、そこまで生産に回されてないんです。これはオーラスーツだけじゃなく、歩兵などが持つ弾丸なども同様です」
「?」
物資が限られている。その台詞に少し違和感を覚えた。軍隊と言うことで優先してもらっているのかも知れないが、少なくとも食事はあった。しかもメニューも豊富……とまではいわないが少なくとも少ないと思えるほど少なくはなかった。また若返ったからか味覚も鋭敏になっている。その味覚から察するに、変な食材も使っているようには思えなかった。
(戦争が激化した未来世界だと……合成食料とかですませている場合もあるからな……)
少なくとも食料については問題がない。なのに物資が不足しているというのならば……武器弾薬が不足していると言うことなのだろうか? 私がそう疑問を抱いていると、察してくれた真矢さんが説明をしてくれた。
「技術的な問題でオーラ兵装の心臓部である、オーラドライブが歩兵が持てるほどの小型化に成功してないんです。よって……歩兵はよほどの事がなければ最前線に出ることはないんです」
この台詞を聞いて……この戦争の厳しさが理解できた。
私はミリオタでもないので詳しくはないが、少なくとも現代地球の戦争において、歩兵が全く仕事をしなくて良い軍事行動など、ほとんどないはずだ。何せ歩兵の武器でも、十分戦車や戦闘ヘリなどを撃破することが可能だからだ。
故に、有史以来戦争というのは数をそろえた方が勝ちだというのは真理なのだ。その数が、人であったり強力な兵器であったりと変わってはくるが、どちらにしろ数が多い方が圧倒的に有利なのだ。
この世界の敵はFMEという、流体金属生命体のような存在だ。どのように増えているのかはまだ教わってないので謎だが……先日私が遭遇して大量に撲殺した数を鑑みれば、かなりの数がいることが容易に想像できる。
それに対して歩兵が戦闘に参加できないとわかった今……この世界においてはオーラスーツのみが戦闘を行える、主戦力にして唯一の戦力であることがわかった。
敵が適応するために既存の兵器が通用しなくなったということ、そして私が戦ったFMEの俊敏性を鑑みれば、戦車では相当厳しい戦いになる。戦闘ヘリは謎だが……ヘリを使用しない理由があるのかも知れない。同じ空を飛ぶ兵器として戦闘機も同様だろう。
戦車、ヘリ、戦闘機。これらの兵器が駄目ならば後は歩兵しかない。そのため何とか戦うことの出来る武器を造ろうとした。その結果がオーラースーツだと思われた。
しかしその兵装は物資の関係もあって十分な数が用意できてない。攻勢に出るのも難しいという状況だろう。
装備の数が少ないにもかかわらず、完全に人類が追い詰められていない。理由はFMEの縄張り意識とも言える、あまり積極的に侵攻してこない事も相まって、何とか戦線が維持できているのが、自然と分かる構図となっていた。
「それでも実弾を使用する武器を訓練しないわけにはいかないため、生産自体は行われています。そしてそれは……最悪の事態を想定した意味合いもあります」
「……なるほど」
最悪の事態。その言葉を聞いて、どういう事を想定してのことなのかが理解できた。遺体すらも取り込むのだから……生きたまま取り込まれたこともあると言うことだろう。それを考えれば……人として死ぬ事に意味があると思った。
「ですから次の銃器訓練は、貴重な弾丸を使用すると言うことを、十分理解していただければと思います」
「承知しました」
正直な話をすれば……不謹慎だが実銃を撃つことに、興奮してしまう自分がいたのも事実だった。やはり銃器を扱うのには少しあこがれがあった。しかしまさに冷や水を浴びせられたかのごとく、そんな軽い気持ちなど吹き飛んでしまった。
「では銃器訓練を開始します」
「よろしくお願いいたします」
そんな座学の後に、射撃場へと来た私と真矢さん。人を殺すには十分すぎる物を扱うために。台の上に置かれたのは、拳銃だった。
平行世界故に、私が知らない形の拳銃だった。ミリオタではないが、銃の雑誌を毎月読むくらいには好きだったため、デザインなどはそれなりに知っている。そのどれともデザインが違っていた。しかしそれでも基本的構造に変化があるわけもない。
(平行世界と言っても、基本的な形はが変わるわけもないか)
どうやら弾を込めるところからするようだった。しかし先ほどの物資不足を顕していると言うべきなのか、拳銃の弾倉はダブルカラムマガジンではなく、シングルカラムマガジンだった。
ダブルカラムは弾倉にジグザグに弾を込める形式。シングルカラムは一直線に縦に弾を込める形式。ダブルの利点はジグザグに入れるため弾の総数が多くなる事。シングルはかさばらないため、拳銃を握りやすいという利点が有り、デメリットはそれぞれの長所を逆転した形……ダブルはジグザグに込めるためかさばるって小さい手の人には扱いづらく、シングルは総弾数少なくなる……だ。
以前にハワイに撃ったことはあるが、それは文字通りの観光と射撃体験のためだ。それに対して今回の射撃は体験ではなく訓練だ。先ほどの話も相まって、気持ちの入り方が全然違った。
「誰もが装備する、拳銃の扱いを取得してもらいます。先にも説明したとおり物資が限られているので、集中して行ってください」
「はい」
ある程度銃の撃ち方のレクチャーなどを行っていただき、一発一発集中して撃った。といっても、銃の扱いというのは正直そこまで難しい物ではない。反動に気を付けつつ数十発撃てば素人でも、動かず遠くない的のある程度任意の場所に当てることは難し事ではない。
距離にもよるが撃った瞬間には命中している速さ、殺傷能力。そして何より……この扱いやすさこそが、拳銃に限らず、銃器が世界を席巻する最強の武器成り得た理由である。
本日撃った弾丸が50発。それが果たして多いのか少ないのかは謎だが……ともかく最低限の実力は身についた思しき物にはなった。
そしてそれが終わると、ダヴィさんの部屋へと向かっていく。部屋について扉を開けると……そこには満面の笑みを浮かべたダヴィさんが、仁王立ちして歓迎してくれた。
「よくぞ来たソウイチくん! この時間を私はとても待ち望んでいたよ! さぁ実験を始めよう!」
「いや、ダヴィ中佐。実験ではないですよ?」
興奮気味にそう言い放ってきたダヴィさんに呆れながら真矢さんがそう返していた。私としても実験台にされるのはいやなので、苦笑いしか出来なかった。
「なぁに、ソウイチ君の特殊性を考えれば実験なんて生ぬるい! 世紀の大実験だ! その特異的な経歴と肉体と兵装で、私達にとって有意義な実験になるのは絶対だ!」
(一応本質がずれてないのは安心すべき事なのだろうか?)
一応大前提として、人類のためという目的が先に来ているので、まだ安心できた。何でもそうだが……目的と手段が入れ替わる例は多々ある。そうならないことを祈るのみである。
「それで、一体何をすれば?」
一応変な人ではない……いや十分変だが頭がおかしくないという意味で……ので、信用してそう先を促した。あまり考えたくないことだが……有用性を示さなければ実験台にされることもあり得なくはない。そんな私の台詞がやる気に思えたのか……ダヴィさんが目を光らせてこちらを向いてくる。
「やる気十分みたいだね! では早速奥の部屋に行こうか!?」
そういいながら待ちきれず……という感じで私の手を取ってひっぱてきた。本当に興奮しているのがよくわかる図である。小さめの体と言うこともあって……まさに興奮している子供のお守りをしている気分になった。
そんな事を思いつつ奥の部屋に入ると……そこは様々な機械が設置された部屋だった。そして巨大な観測するためのガラス張りになっている壁が在り、その壁の隅に扉が設置されていて、ガラスの部屋の中に入れるようだ。そしてその扉の先のガラスの部屋は、100mはありそうな奥行きがあった。簡単に言うと射撃場と思えるような部屋である。
(まさに……観測室といったところか……)
兵器開発をしているだけあってこのような部屋があるのだろう。個人的に……手術台のようなものがないだけで、安堵している自分がいた。
「いきなり全力でやっても最後まで持たないだろう?」
「は!?」
「おや? どうかしたかいソウイチ君?」
「いや今……」
「? 何も言ってないけど?」
「えぇ~~~~」
不穏な言葉が聞こえたが……本当に言ってないのかそれともとぼけているのか? ともかくどちらにしろやることは変わらないので、気持ちを切り替えた。
「ではソウイチ君。あちらの扉から中に入ってくれたまえ」
「了解しました」
扉から射撃場と思われるような場所に入って扉が閉ざされた。ガラス越しにこちらを見られる形になったのだが……何というか、仕方がないのだが思わず実験動物の気持ちになってしまった。
「さてそれでは訓練兼マテリアル兵装の解析を始めよう。ソウイチ君。パワードスーツを装着してくれたまえ」
内心で乾いた笑い声を上げていると、そんな声が聞こえてくる。スピーカーからダヴィさんより指示が飛んできた。別段逆らう理由もないので、素直に頷いて右腕の腕輪に念じた。
(装着)
そう思ったと同時に、一瞬だけ視界が遮られて、全身が包まれた感覚がきた。それと同時に視界が本当に少しだけ違和感を覚えるものになった。これはバイザー越しに見ている影響だろう。しかしその違和感も直ぐに消えた。
「では早速やってみよう。といってもこちらも手探りの状況なのでね。色々思うところはあるかも知れないけれど協力してくれため。何、ひどいことはお願いしたりしないさ」
「承知しました」
遠くで機械音がする。そちらに目を向けるとマンガやアニメでよく見る射撃のターゲットが姿を現した。
「では早速まずは運動性能から見てみよう。疲れているとは思うけれど、向こう側に射撃用のターゲットを表示させたから、そちらに向かって走ってターゲットをタッチして、今の位置まで走って戻ってきてみてくれ」
「承知しました」
ダヴィさん……というよりもこの世界の人々も、私が今身につけているパワードスーツがどのような物か気になるように、私も非常に興味があった。
(果たしてこれが、良い物なのか悪い物なのか、すごいものなのか凄くない物なのか……確かめさせてもらおう)




