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着込むスーツ装備者の思い

 その後もいろいろ試したが、新型との戦闘を超えるデータ等は測定できなかったため、実験は終了となった。しかしその後は報告書の作成などがあり、日も完全に暮れていた。業務が終えたので三人して食事をとったのだが、いろいろと疲れたこともあって、自室に戻ってゆっくりすることとなった。

(……なかなか衝撃的な一日だったな)

 無事に帰ってこれたためにこうしてベッドに腰掛けられているが、なかなかに絶体絶命な状況だったのを、改めて思い返していた。そしてそれと同時に、自惚れていたことも自覚させられた。

(まさか……攻撃が全く通用しないとは)

 今まで木刀を用いた戦闘で苦戦したことは一度もなかった。関東平野の救援要請に伴った実戦で何度か使用した時のデータでは、木刀の一撃は当たれば爆発する力の塊と化した木刀で、殴打したところが吹き飛んでいた。そして切ることを目的として作られた刀でも、木刀と同じように当たった個所が吹っ飛んでいたのだ。

 そのため、小堂丸を使用するのは意味がないと思い、使用しなかった。しかし……それが言い訳なのは私はわかっていた。

 どうしても、怖かったのだ。高速で移動する物体に刀を使うのはためらわれたのだ。

 マテリアル兵装と化したことで丈夫になっているのは、木刀が証明している。それがわかっていても……大事な愛刀を使うことができなかった。結局小堂丸を使用せずに戦闘が終わったので、小堂丸を使用した場合どうなったのかはわからない。しかし結果として私は小堂丸を使用せずに苦戦し、真矢さんがいなければ死ぬところだった。

 木刀が通用しなかったので、仮に小堂丸を使用していたとしても現況斬ることができない力の塊のような武器となってしまっている。ゆえに、刃を立てることができなかったのだから通用しなかったと考えられた。関東平野ではまだ地面に立って通常通り使っていたが、先に述べたように小堂丸を使っても敵が吹き飛ぶだけだった。ファルバルクの時は空中で戦っていたので、刃を立てられていなかったのは明確だった。

 そう、自分を納得させるのだが……自分でも気づかないうちに、増長していたのだ。木刀よりも使い慣れており、並行世界の不思議な力によって強化された小堂丸であれば、すべてを吹き飛ばせると。それを自覚して……少々恥ずかしくなかった。

(そう考えれば……真矢さんには本当に頭が上がらないな)

 今日の作戦。三人全員いなければ助からなかったことは間違いないが……それでも本日の一番の功労者は間違いなく真矢さんだろう。アームキャノン、オーラファンネル、木刀。すべてが通用しなかったファルバルクを殺すことができたのは間違いなく、真矢さんのおかげである。

 真矢さんも装備がマテリアル兵装に変化しなければ、手も足も出なかったことは事実だが、もしかしたら彼女だけは、マテリアル兵装がなくてもファルバルクを殺すことができたかもしれない。一発でダメならばと、何度も弱点と思われる場所を攻撃し、そしてその攻撃が的確に弱点に命中していた。数十発当てれば殺すことができたかもしれない。

(たぶん、無理だろうが……)

 弱点に一定回数攻撃すれば倒せるなど、ゲームのような規則性があるはずもない。あの弱点の堅さを貫くことができなければ倒すことはかなわなかっただろう。また一人だった場合、あの速度の突進を避けられるわけがない。

 また、時間さえあれば私もファルバルクの赤い突起に対して攻撃を充てることができて、殺すことができたかもしれない。しかし、たらればに意味はない。どうしようもないほど厄介な相手であり、真矢さんのおかげで助かったことをありがたいと思うべきだろう。

(しかし……こうも都合よく進むのが少し気になるな)

 突如として出現した、新規のオーラマテリアル。出現する条件はいまだ謎なのは事実だが……それにしても空を飛んでいかなければならないところに突如として出現し、さらに回収に迎えるのが私たちだけだった。

 さらに、最強というべき私のすべての武器が通用しない相手が出現し、それに対応するような装備に真矢さんが変化させた。そもそも大前提として、私たちの部隊しか回収に向かえないほど輸送機を使う状況になっていたことが、少々違和感を覚えてしまう。

(鶏が先か卵が先かというだけで……何もわからないのだが)

 このあたりの違和感は一応報告書には記載しておいたが、かといって問題提起をしただけで事態が解決に向かうはずもない。考えても何もわからないことは、無駄なので私は本日、私の未熟ゆえに鞘を払うことができなった小堂丸を、虚空から取り出した。

 手入れをするつもりであったため、鞘に納まった状態で出現し、私の左手に出現する。このゲームや漫画なんかでよく出てくる……普段はどこかにあって必要な時に出現するという現象も、いまだ謎のままなのだが、便利ゆえに不思議に思うことはあっても、不気味に思うことはなかった。

(まぁある意味で不気味ではあるが)

 取り出しているのが自分の愛用してきた物なので怖くはないが、この現象自体は少々不気味ではある。そんな益体もないことを考えながら、私は小堂丸の鞘を払った。

(状態は特に問題なし)

 ここ数日、通常のFMEに対して使用しているが刃こぼれ、曲がりや歪みなどはなかった。不思議な力を宿した影響なのだろう。不思議な力のおかげであるのは間違いないので、内心でほっとした。ほとんど意味がないとは思いつつも、私は購入したちょっといいティッシュで刀身を拭い、鉱油を塗っておいた。

 鉱油とはそのまんまの意味で、植物からではなく鉱石から採取される油のことだ。江戸時代などは椿から採取できる椿油で刀身を拭い、刀身を錆から守っていた。しかし植物性の油は長期間放置すると固まってしまうという欠点がある。固まってしまった油をとるために打ち粉という、砥石を粉上にしたものを詰めた先端が丸い布でポンポンたたいて粉上の砥石をまぶして拭うことで固まった油をとっていた。時代劇などで刀の手入れでポンポンしていると思えばイメージがしやすいだろう。

 鉱油には固まるという性質がないので、打ち粉を使う理由がない。そのため、漫画なんかでポンポンしていると、違和感がすごかった。

(まぁ現代でも、刀のちょっとした錆なんかは研ぐのではなく打ち粉で済ませる人もいるみたいだが)

 砥石の粉なので、ポンポンして拭うを繰り返せばちょっとした研ぎになる。それで小さな錆なんかはとる人も中にはいたのだが……私は怖いのでいくらかかろうと業者に相談しに行っていた。

 油を塗るとどうしても光の反射に影響を及ぼすため、鑑賞も状態確認もしにくくなる。そのためティッシュで拭って状態を確認し、問題がなければ新しい油を塗り、ティッシュで余分な脂を拭い鞘に納める。日常的な手入れはこれだけであり、これで問題なかった。

 この世界にも鉱油は当然存在しており、歴史的遺物の金属製の展示品などに使用する、悪影響を及ぼさない鉱油があったので、こちらは特別に取り寄せてもらっていた。

(先日の小堂丸の取り込みの関係もあるので、是非もないだろうが)

 世界最強クラスの強さを誇ると思われる私の愛刀たち。それを手入れするためといえばすぐに仕入れてくれた。ありがたい話である。

(さて、次は……)

 続いて木刀を取り出す。といってもこちらは木刀ゆえに振り回さなければ危ないことはないので、取り出して布で拭い、こちらは植物油である椿油を仕入れてもらい、軽く塗って表面を保護しているのだが……そこで気が付いた。

「……ん?」

 小さな違和感だ。しかし気づいてしまった以上気になり、それに注目すると……すぐにその正体に気づいた。

「傷がない?」

 傷がないわけではないが、傷が減っているように思えた。殺陣というか……打ち合いに使用していた木刀ではなく、この木刀は素振用だ。へこみはほとんどなく、傷も大してない。

 しかし長年使用ていたこともあって無傷というわけではない。大きな傷はないが、多少のへこみなどはあるにはあるのだが、それが減っているように思えた。

(オーラマテリアルに取り込まれたからか?)

 オーラマテリアルが同化した物体で、想いが募ったものは修復することがあるという話だった。木刀に関しては、どうかしたというよりもむしろ取り込まれたとでもいうべき状況のため、修復されるのも不思議ではないのかもしれない。

(しかし面妖よな)

 簡単な手入れを終えて虚空へと消えた愛刀と木刀。確かにたったさっきまで手の中にあったというのに、しまうと念じれば虚空へと消えるのだ。握る得物を思い描いて左手を軽く握れば、確かに手の中に握っている感覚が返ってくる。本当に不思議なものだった。

 手入れも終えたことでやることもなくなってしまった。短い時間だったが道場での稽古もできたので素振りも行っている。ゆえに……軍学の勉強を始めた。

 命に直結する仕事をしている以上、勉強を欠かすことはできない。ましてや自分の命だけでなく、今の実験部隊は若者二人の命も関係してくる。疎かにするわけにはいかなかった。

(さて、本日は……)

 動画などもある教材を用いた勉強のため、結構わかりやすい。それも立体映像で見ることが可能なのでかなり勉強になる。パワードスーツに当てはまることは少ないが、ほかの人間の動きを知っておいて悪いことはない。そう思いながら私は就寝時間まで勉強をすることとした。




(とんでもないことになっちゃった……)

 任務に報告、実験、道場、食事にお風呂。すべてを終えて完全な自分だけの時間になって、私はぼんやりとベッドに横になってそんなことを考えていた。

 宗一さんと出会ってから目まぐるしく状況が変わった。でもそれはあくまでも受動的というか、ただ巻き込まれただけで完全な当事者になることはなかった。どんどん変化していく宗一さんのパワードスーツに驚かされたばかりだったけど、私自身というか、渦中の人物になったことはなかった。

 けれどそれは今日の昼までだった。

 何せ私が採取したオーラマテリアルに触れたことで、私が装備していたアクティブスーツに同化した。戦争中ということもあり採取されたオーラマテリアルは、一つの例外もなく軍が使用することになる。その時にもよるけれど、主にオーラスーツの武器や、オーラスーツそのものに使われることが主だ。FMEとの戦争中ということもあって、マテリアル兵装に使用することがほとんどだった。

 そんな状況で、私は状況が状況だったとはいえ、アクティブスーツに同化させるという通常では考えられない行動をしてしまった。それによってアクティブスーツとアクティブスーツの狙撃銃が変化し、マテリアル兵装に変化した。不幸中の幸いというのはおかしいのだけれど、このアクティブスーツは私だけでなく璃兜も使えることとで、少し特異性が減ってほっとしているけれど、それも通常では考えられない特性だった。

 もっとも顕著な特性は、オーラマテリアルを使用された部分に肌が触れているにも関わらず、長時間の着用と運用が可能であること、そしてアクティブスーツサイズの狙撃銃であるにもかかわらず、オーラスーツのマテリアルライフルに匹敵する威力を有していること。さらに宗一さんからのエネルギー供給によって、狙撃銃が撃てるというものだった。最後の一つはマイナスに近い要素だけれど、それでもオーラエネルギーを蓄えるような動作を見せているのは、とんでもないことだった。

 光晶歴に暦が変わってすでに数百年。電気と同じように貯蓄することはできないかと絶えず研究が続けられてきたのだけれど、いまだ開発には至っていない。それどころか戦争が始まってからは兵器開発に注力せざるを得なくなり、それどころではなくなってしまった。

 そんな状況で生まれた、他者からのエネルギーを吸収することで運用される特殊な武器。それが今の私のアクティブスーツだった。

(ラーファとは、このままお別れかもしれないな)

 狙撃の腕を買われて、私個人に調整された準特別機のオーラスーツを長年愛用させてもらってきた。そんな長年の相棒である私のオーラスーツにラーファという愛称を、ひそかにつけていた。今は修理中だけれど、今回のことで今後はアクティブスーツを運用することを命じられるだろう。

 むろん、アクティブスーツの長時間運用が危険と判断されれば、即座にオーラスーツに搭乗することになるだろうから完全に分かれることはないだろうけども、それも情勢が変化すればわからない。

(変化……か……)

 情勢の変化という言葉。これは今までであれば、人類の後退と絶滅へのカウントダウンといっても差支えがない状況だった。無限ともいえるFMEの軍勢。異星起源生命体のため、どのような繁殖かもわからず、それどこから生物という存在かもあいまいといっていいレベルの敵。倒せば液体金属のようになって地面に染みて消えてしまう。

 今までFMEの捕獲なども試みられたことはあったけど、すべてが失敗に終わっている。何せほかの物体を取り込むのだ。とても生きたままとらえることなどできなかった。

 装備も不足していることから、日々前線を交代させられていった。幸い、FMEの習性もあって、長い年月をかけてじわじわと後退していくため、現在でも人間の生活圏は残されていた。

 そんな状況で起こった偉業。それはFMEに支配された地域の奪還に成功したことだった。FMEの巣の内部に潜入し、最深部にあるといわれてきたコアのようなものを奪って、巣を壊滅させた。これは歴史上初めての出来事だった。

 FMEとの戦争が始まって以来数百年。人類は初めて、FMEに支配された地区を奪還した。正確にはまだ奪還を行っている最中ではあるけれども、土地を奪え返したのは間違いない。そのため基地の内部はすごい明るさとやる気に満ち溢れていた。

 荒野というほど荒れてはいないため、FMEさえ掃討できれば復旧するのは困難ではないためだ。関東平野が人類の手に戻れば……世界的なニュースになるだろう。

(そして、それを成し遂げた人物として、宗一さんが英雄となる)

 土地の奪還が困難な理由は、FMEの多勢以上に、超大型などの特殊個体の存在が大きい。その特殊個体をほとんど単身で討伐した宗一さんは、間違いなく歴史の教科書に載ることになるだろう。ここまではまだある程度他人事……と言っては失礼だけど、そこまで注目されることはなかった。

 けれど今回のアクティブスーツの変化に伴って、私も注目されることになった。偉業を成し遂げたわけではないことと、千夏司令とダヴィ中佐が変な扱いはしないだろうから、まだ本当にごく一部にしか知られないだろうけど、この先はどうなるかはわからない。

 変化したアクティブスーツで誰もが納得する戦果か、画期的なデータ等を提供できれば問題はないだろうけど、何の成果も残せなければ悲惨な未来が待っていることになる。そう考えると……つくづくとんでもないことになってしまったと、私は改めて思いなおした。

「けど……きっと宗一さんとなら……」

 不可思議の塊のような人。けれど一般民から軍人に一か月足らずでなるなんて、正直かなり無茶なことなのだけれど、彼は訓練兵にも満たない習熟であるにも関わらず、実戦に出た。そしてパワードスーツという、常識では考えられない兵器で次々と偉業を成し遂げた。

 偉業を成し遂げて、増長することなくおごることなく、自分にできることを精いっぱいやろうとするその姿勢。今まで自分が積み重ねてきた剣術を続けていく精神。そしてその技術を惜しみなく教えてくれるだけでなく、導いてくれる気高さと温かさ。

 何よりも……恐怖で体がすくみながらも、体に染みついた動きで光夜少佐を完封した雄姿。本当にまぶしいと思えた。

 命の危機に際しても自分にできることをして、私に命を預けてくれた。

 この人と一緒ならばきっと頑張っていけると……私はそう確信できた。

(頑張ろう)

 疲れもある、自身がとんでもないことをしてしまった張本人となってしまったことに対する、憂鬱もある。けれどそれ以上に、やる気がわいてきていた。けれど体は正直なもので……私はいつの間にか眠りについていた。




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