少女
円筒形の水槽の中で少女がゆらゆらと浮いている。液体で満たされた鳥籠の中で、何かを待つように。
その口元には酸素マスクのようなものがつけられ、そこから伸びた管は筒の上部へと伸びている。また、彼女の体からはいくつもの管が伸び、筒の下から様々な機器へと繋がっていた。
「やっと成功か……長かったな」
男の声で、目を覚ました。
体は動かない。薄く開いた目には、ガラス越しに2人の男の姿が映った。
目の前に立つ男は初めて見る顔だが、もう1人、その斜め後ろに立っている人には見覚えがある。いつも周りにいる人達からは「所長」と呼ばれていた。
ここから私は彼らのことを観察できるとはいえ、どれだけ観察したところで硬く狭い水槽の中で私ができることなど、たかが知れているし、得るものはない。所詮は暇つぶしにしかならないのだ。私は観察をやめ、また寝ることにした。
私が持っている1番古い記憶は、路地裏の段ボールの中。親の顔を覚えているわけでもないのに、その時感じていた心細さ、切なさは今でも鮮明に思い出せる。
私が何かなんて分からない。前にいる奴らと同じ生き物なのか、そうでないのか。それすらも曖昧だ。
自分という存在すら正確に把握できていないことの恐怖は、過度に育ってしまった思考力故か。
あぁ、怖い。寂しい。心細い。彼に、
「会いたいな…介斗」
少女の唇が弱々しく動き、半透明のマスクが白く曇った。