事件
めちゃくちゃ時間が開いてしまいました…
杏のことを思い出してからの平穏な日々は、そんなに長く続かなかった。あれからまたすぐに杏は消えた。周囲の人間の自分に関する記憶を引き連れて。
その後、また急に記憶が戻ってきたと思ったら杏が何食わぬ顔をして学校に来ている、そしてまた数日後には記憶ごと消えてなくなる。そんなことが何度か続いた。
そして今朝、また思い出した。今まで通りだとすれば、これから教室へ行けば杏と会えるだろう。もしくは、登校する道の途中で会うかもしれない。また消えてしまうまでの間に何を話そうか。
そう思って、思ったことを反復して、背筋を冷や汗が伝った。今まで記憶が戻る度に感じていた辛さや悔しさが少しづつ小さくなってきていたことに気づいた。昔とは大きく変わったはずの日々がまた新しい日常となりつつある。恐ろしい、と思った。このままではいけない、と。強く、強く、そう感じた。
それから、いろいろなことを試した。
いつも記憶が消えるのは朝の出席確認の時なので、そのタイミングで意識や記憶に干渉されているのではないか。それを防ぐ方法は……と考え、そのタイミングで居眠りをしてみたり、頭に物を巻いてみたり……
しかし、試しても、試しても、有効打はなかなか見つからない。それでも諦めるなんて考えは浮かばず、考えつく限りの策を試し続けた。来る日も、来る日も……
そして、そんな日々もまた唐突に終わりを告げる。
いつか見たような、顔を青くしたした母が部屋に入ってきた。一体どうしたんだろう。
なんだかとても嫌な予感がした。
「ねぇ、介斗」
…なんだよ……
「杏ちゃんがね…」
「なんだよ。杏がどうしたって言うんだよ!」
「さっき…」
そこまで言うと、母さんの顔がいっそう辛そうなものになった。
なんだよ……やめてくれ……もううんざりだ。聞きたくない……
「さっき事故に遭って……亡くなったって…………」
この日、僕の世界は壊れた。
あっけなく、大きな音を立てながら。