行方
―けたたましい目覚まし時計の音で飛び起きた。
目尻が乾いて違和感があったので、ゆっくりと伸びをしてから洗面所へ向かう。
蛇口をひねって冷え切った水で顔を洗い、寝ぼけた頭を動かした。
うん。今日もいつも通りいい日になりそう.......じゃない、すこしずつ思い出してきた。
今のところ人生最悪の日と呼んでいいであろう昨日を。眠りにつく寸前まで心を掻き乱したあの感情の渦を。
つー、と涙が頬を伝った。
......学校に行かなくちゃ。無事だったっていうあいつの顔が早く見たい。
ーーーーーーー
「……渡辺京子さーん」
「はい」
「はい!全員出席ねー。えーっと、連絡事項は―」
…...おかしい。あいつがいないのに名前も呼ばずに全員出席って...…
..........…あいつの、名前?
記憶に靄がかかったようで思い出せない。
あんなに一緒にいた友達の名前なのに。
...…世界で一番大切な、好きな人なのに。
今更気づいた。あんなに一緒にいたのに、彼女の家の場所も、
..….親の顔さえも知らないことに。
知っていたはずのことさえ.…..幾度となく呼んだ名前さえ、今朝からは何も思い出せないことに。
昨日の記憶も、自覚できないまま、気づくこともなく消え去るのだろうか。まるで...…そんな記憶は最初からなかったかのように。そう考えると、ぞっとした。