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機械遊渡  作者: 月兎
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始まり

初めての投稿です。暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 教室の隅で本を読むいつも通りの放課後。

 だんだんと色を落とす空に目を映すと、こちらへ近づいてくる少女が窓ガラスに映った。


「カーイトー! そろそろ帰ろー?」


 幼稚園の頃から、もう8年の付き合いになる(あん)だ。


「そうだね。帰ろっか。」


 そう言いながら、いろいろなものを詰め込んで重くなったランドセルを勢いをつけて背負った。


「なに読んでたの?」


「いつもとおんなじ。『破片散る戦場』!」


「ロボットモノの小説だっけ?好きだねぇそういうの。今度借りてみてもいい?」


「もちろん!!」


(そういえば昔はロボットアニメを一緒に見て盛り上がっていたっけ。......ロボット沼に引きずり込めるか?)

 そんなことを考えながら僕らは家路についた。











--------









 翌日のことだった。

 ドアを叩く音が部屋に響いた。


「介斗、今大丈夫?」


 そう言った母さんの声は、少し震えている。

嫌な予感が全身を駆け巡り、首筋を汗が伝った。


あんちゃんが昨日から家に帰っていないらしいの。あなた、何か知らない?」


 ……は?

 頭が真っ白になった僕は、母の制止も聞かないで家を飛び出した。


 確かに昨日、一緒に帰ったはずだ。いつもと同じ交差点で分かれたとはいえ、あいつの性格ならまっすぐ家に向かうはず……

 杏の身に何があったのか、いろんな可能性が頭に浮かんでは消えていく。


 とにかく、杏を探さなきゃ。


 杏は学年の中でも飛び抜けて頭がいいし真面目だ。 なにか起こるとすればおそらく外的要因……


 ふと、誘拐という言葉が脳裏をよぎった。


 町にある建物を次々に思い浮かべては誘拐犯がそこを使うかを考え、町の端から端まですべての家の前で不審な物音がしないか一軒一軒をしらみつぶしに確認しながら一心不乱に町中を駆け回った。


 呼吸がだんだんと浅くなり、周囲から聞こえる音がどんどんと小さくなる。心細い。嫌な未来ばかりを想像しては無理やり頭から追い出すことを繰り返した。

 何も成果が得られないままにただ時間だけが過ぎ、焦る気持ちばかりが募っていく。もし誘拐の目的が身代金ならすぐに殺されることはないだろうとたかを括っていたが、その考えも焦燥感と共に揺らぎだす。


 ふと、かすかに聞き覚えがある声が耳に入った。

確か……クラスメイトの…………


「おーい!あーん!!!どこにいんだー!?」

「あんちゃーん!!聞こえたら返事してー!!」

 


 道の向こうから歩いてきたのはクラスメイトの雄太と陽子だった。……苗字は…………えっと…………うん。

「お、カイト!」

「え?あ!カイトくん!!」


 僕に気づくと、2人はこっちに駆け寄ってきた。

雄太が膝に手をついて、大きく息を吸ってから口を開いた。

「杏のこと……聞いてるよな?」


「う、うん。僕も今まで探してたところだよ。」


「そうか…今朝クラスのグループで聞いてさ。

みんなで捜そうって話になったんだよ」


「どこにいるかわかんないからいろんなとこを捜したんだけど、カイトはなんか思いつくような場所ないか?」


「あぁ、それなら……」


「ユータ!あんまりじっくり立ち話してる暇はないよ!カイト君ごめんね!たくさんのとこ捜せるように、手分けして頑張ろ!!!」


 ……そう言う割に、自分は雄太と一緒に行動してるような…… 「なに?」アッナンデモナイデス


 でもまぁ……


「…ごめんね」


「は?なんでカイトが謝んだよ!友達が行方不明だってのに、頑張らなくてどーするってんだ!!」


「杏ちゃんがいそうなところとか何もわかんなくて、かなり危なかったけどねー」


「うるせっ」


……なんだか、元気をもらった気がするな。


「……ありがとう」


「ハハハッ ま、お互いがんばろーぜ!」


「うん!!」


 とりあえずまだ行けていない怪しそうな建物をいくつか伝えて、その場は別れることにした。




 空が少しずつ色を落とし始めた頃。

 町の建物はすべて確認し尽くしたけれど、諦めずに隣町に行こうとしたその時だった。

 スマホが服のポケットの中で着信音を響かせている。藁にもすがる思いで、相手の名前も見ずに電話を取った。


『もしもし、介斗(かいと)?杏ちゃんだけど、無事に保護されたそうよ。日が暮れる前に家に戻っていらっしゃい』


 どこか疲れたような声色の母さんは、そう言うと電話を切った。安堵の気持ちが込み上げ、僕は膝から崩れ落ちた。涙で視界が滲む。

 あぁ、無事でよかった。


 へとへとの状態で家につき、自室に向かうとそのままベッドに倒れ込んだ。何もできなかった無力感と、もしかしたら杏を失っていたかもしれないという恐怖とがぐるぐると胸の中に浮かび、混ざり、じわじわと心を蝕んでいく。

 もう、こんな思いはしたくないな……

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