誕生日デート1/2・俺と隠れ家的な名店
翌日土曜日は、天音さんと聖天坂駅で待ち合わせた。
「駅で待ち合わせとか、変な感じ」
「本当よね。でも、わざわざゴールデンリバーで待ち合わせてから聖天坂に来て、またゴールデンリバーに行くよりはマシね」
「うん、マシだな、確実に」
無駄な動きが多すぎる。
聖天坂は高級住宅地であるが故、店と言えばひろしもある聖天坂の端っこ、聖天坂五丁目に固まっている。が、全く違う方向へと天音さんに連れられて、裏道かのような細い道を歩き、地下への石造りの階段を下る。
「隠れ家的な名店って感じ」
「その通り。こんなに目立たない上に住宅街にあるのに予約が三カ月先まで埋まってる人気のお店だよ」
「え?! 三カ月も前から予約してたってこと?」
「そうよー」
「何で言わなかったの。俺が他に予定入れてたらどうしたの?」
「キャンセルしたでしょうね」
「マジか! もったいねー」
いや、天音さんのことだ。きっと本当のことなど言っていない。大人は平気で嘘をつく。
俺が無理なら他の何人もいる別の男を誘えばいいだけだ。何なら、かなり年下の俺が相手だと自分が金を出すはめになるが、相手が変われば人気店でおごってもらえてラッキー、まであり得る。
店内に入ると、清潔感溢れる白シャツ+黒ベスト+ネクタイ+黒ズボンのどう見ても紳士が笑顔で出迎えてくれる。
「お名前は?」
「橋本です」
「橋本様、お待ちしておりました」
俺みたいなガキが来る所じゃない感がすごい。紳士について行く天音さんについて行くが、廊下には等間隔に絵画が並び、コレ大理石ってヤツ? って感じのピカピカの廊下が俺たちを反射している。
大きなテーブルに椅子がふたつの広々空間に案内される。俺たちが座ると、紳士が礼をして個室を出て行った。
「うーわ、落ち着かねえ」
「ちょっと統基、ソワソワしてないでもうちょっと雰囲気に合わせた振る舞いしてみてよ」
「あー、あー……この雰囲気にね。オーケーオーケー」
「この雰囲気のどこが欧米風なの」
天音さんに笑われてしまった。この雰囲気は欧米じゃねえの? 俺、外国と言えば欧米しか思い浮かばない。
紳士がグラスと大きな瓶を持って来る。俺を見ると微笑んだ。
「お客様、失礼ですがご年齢は?」
え?! さすがは高級店、ガキはお断りって訳か。くっそ、こんな高そうな店にせっかく来たのに、高そうなメシも食えずに追い出されるのはイヤだ!
精一杯大きく見えるように、両手を椅子の背に広げ足を組む。精一杯大人の余裕の笑顔を醸し出しているつもりで、精一杯の低い声を出す。
「二十歳です」
「失礼いたしました。どうぞ」
紳士が俺の前にグラスを置き、瓶の炭酸を注ぐ。天音さんにも注ぐと、礼をして出て行く。
「カッコつけすぎ! 本物の二十歳はそんなにカッコつけてないから!」
天音さんが爆笑している。
くっそー、急に年なんか聞くもんだからさー。
ふてくされてグラスを手に取り飲む。おー、炭酸きつめで美味い。
「あー、乾杯もしないで飲んじゃったー」
「あ。ごめんごめん。なんか、のど渇いちゃってて」
「お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
改めて、乾杯をして一気に飲み干す。
「ほんと、高校生のくせにお酒強いわね」
「え?! これ酒なの?!」
「気付かなかったの? スパークリングワインだよ」
「マジか」
酒飲むのなんて、創作居酒屋ひろしで歓迎会してもらった時以来だ。すっげー眠くなったんだよなあ。
「俺また寝ちゃうかも」
「食べ終わったらすぐにゴールデンリバー行こっか」
「そうだな」
料理が運ばれてくる。高級店なんて俺は初めて来た。
様々な野菜が白い皿にアートのように並べられて、皿の端に赤いドレッシングと言うよりもソースに近いモノが縁取るように円を描いている。天音さんのマネをして、フォークで野菜を差してソースを付け口に入れる。何コレ、超美味い。
季節のスープです、と言われた栗のスープも濃厚で超美味い。
メインだと言う肉は分厚くて小さめで美味い。横にあるマッシュポテトまで超美味い。
デザートのシャーベットも文句なしに美味い。もう美味いしか言葉が出てこないほどに美味い。
「アイスワインください」
「かしこまりました」
紳士が部屋を出る。
「まだ酒飲むの?」
「食後酒よ。ケーキは苦手だって言ってたから、代わりに」
「あー、なるほど」
たしかに、ケーキの代わりと言うだけあって甘い酒だ。でも酒なら飲めるから不思議。
なんか、この酒飲んだら体がカーッと熱くなった。
「ごちそうさまでした! 超美味かった! ありがとう、天音さん!」
「喜んでもらえて良かったわ。誕生日を迎えてもまだ16歳かー。若いわねー」
「天音さんは誕生日いつなの?」
「もう過ぎてるわよ。私はすでに23歳」
「え?! 過ぎてんの?!」
なんで言わなかったんだよ。たしかに俺金に余裕はねーし大人の人にろくなプレゼントなんかできる気はしねえけど、おめでとうくらいは言えるのに。
「何だよ、俺だけ……」
こんな高そうなもん、すでに食っちゃったじゃん。
「すねないでよ。あ、じゃあさ、これからゴールデンリバーまで統基がエスコートしてよ。このお店の紳士みたいな感じで」
「かしこまりました、お嬢様」
「紳士って言うか、執事みたいね。私、執事好きよ」
「誠心誠意心を込めて、ご案内させていただきます」
やたらと低音ボイスで言うと、天音さんが笑う。
高級レストランを出ると、火照ってた体に11月の冷たい風が心地いい。
「お嬢様! お気をつけください! そちらに犬のうんこがあります!」
「そんなこと大声で言わなくて結構よ! 執事!」
「お嬢様! そちらには鳥のフンが! こちらへどうぞ!」
「排泄物から離れられないの?!」
ぶわっはは! と爆笑しながら天音さんの手を引いて、ゴールデンリバーへとスキップしながら向かった。




