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俺たちは体育祭実行委員

 カス教師高梨が教室に入って来るなり、黒板に体育祭と書いた。無言のまま一枚のプリントを配って行く。

 遠足が終わったと思ったらすぐさま体育祭か。二学期に行事詰め込み過ぎなんだよ。うちの中学、体育祭は6月だったぞ。


 なんだコレ。体育祭のスローガン?


「提出期限は金曜ー」

「説明不足すぎるだろ! 俺ら1年だぞ! 何の話か訳分からんわ!」

「自分の進学する高校の行事の進め方くらい予習してから入学して来いよなー」

「最底辺校のくせに態度デカすぎ!」


 高梨に期待するよりプリントを読むだけの方がまだマシそうだ。


 なるほど、毎年体育祭のスローガンを生徒たちから募って体育祭実行委員で決定するのね。それくらい軽く説明しろや、あのカス。


「やる人ー」

「さすがに意味不明だわ! 何なんだよ、お前! 今日はいつにもましてひどいな!」

「さっきからギャンギャンうっせーんだよ、入谷。お前に給料日前に全財産失って消費者金融に手を出さざるを得なかった男の気持ちが分かんのかよ」

「え……そりゃ大変そうだな。でもどうせ架空請求詐欺に引っかかったとか自業自得な理由だろ」

「一回転目から魚群にマリンちゃんまで出たら絶対今日はラッキーデーだって確信してあるだけつぎ込むじゃん! 絶対後で倍になって返って来るって疑わねえじゃん! あんなの詐欺だ!」

「お前さてはパチンコにつぎ込んだな! 詐欺じゃねえよ、お前がカスなだけだよ!」


 予想以上にひどかったわ。教師のくせにパチンコ依存症か、コイツ。


「はあ。気持ち切り替えてこ。きっと今日は取り返せるから早く仕事終わらせよ。という訳でー、体育祭実行委員やる人ー」


 体育祭実行委員の話だったんかい。

 遠足係決めを思い出させるシーンぶり。高梨だけが手を挙げ、ジーッとこちらを見て俺、比嘉、充里、曽羽、俺、比嘉、充里、曽羽と目で威圧してくる。


 遠足係をやった俺たちにまたやらせようってのか。やるか、バーカ。


 充里がはーい、と手を挙げる。


「やってもいいけどさあ、俺ら遠足係もやったのに俺らばっかやっていいの?」

「んなもん誰がやったっていいんだよ。体育祭実行委員になれば委員会で案出して好きな競技入れられるよー。自分たちの得意な競技ばっかで固めちゃえば優勝も狙えるよー」

「優勝! やる! 絶対に勝つ! 比嘉! お前もやれ! 得意な競技なんかねえだろ、お前! 何かできそうな競技をねじ込むんだ!」

「え? あ、はい」

「1年1組の体育祭実行委員は入谷、比嘉、箱作、曽羽の4人に決定ー。今日これから委員会あるから出ろよー」

「今日かよ!」

「昨日までに決めなきゃなんなかったんだけど忘れててさー」

「ちゃんと仕事しろ!」


 今日俺、日直だから日誌も書かなきゃなんないのに。委員会終わってからじゃ書いてる時間なくなるな。バイトだし。

 高梨の話なんか無視して日誌を取り出し書き込む。


 チャイムが鳴るとすぐ、日直のペアの友姫に持って行く。

 深沢友姫、女版ゴリラとでも呼びたくなる金髪ショートで背が高く豊富に肉を蓄えた小デブギャルである。


「俺の感想まで書いたから、友姫書いたら悪いけど職員室持って行って。俺体育祭実行委員会出なきゃいけねーからさ」

「ふん、しょうがないな」


 友姫がぶっきらぼうにムスッとして日誌を受け取る。


「なあ、友姫って俺に態度冷たくない? 俺友姫に何かした?」

「何も。モテるからって女子みんながみんな自分に好意があると思われるのがイヤなだけ。私はチャラいイケメンって嫌いなの」

「ふーん」


 別に友姫なんぞに嫌われようとどうでもいいけど、私は他の女子とは違うんですアピールが鼻につく。


 友姫の手から日誌を奪って机に置き、その手を取る。


「今日もネイル綺麗だね。俺、女子力高い子好きなんだ」

「えっ、そ、そうなんだ」


 友姫の目を見て微笑む。友姫が赤くなって分かりやすくうろたえている。こういう焦ってるヤツ見んの大好き。


「友姫は俺のこと嫌いなんだよね」

「ご、ごめん、嘘! 嫌いじゃない!」

「じゃあ、好き?」

「す……好き……」

「結局お前もイケメン好きなんじゃねーか」


 気が済んだから日誌で友姫の頭バシッといっといて席に戻る。

 隣の席の比嘉が首をかしげている。


「なんか、深沢さんの手見てたけど何してたの?」

「なーにー、ヤキモチー? ただ返り討ちにしてただけだよー?」

「返り討ち?」

「委員会行こうぜ! ちゃっちゃと終わらせて俺バイト行かないと」


 大きい方の多目的室には長テーブルが四角く設置されていて、全員の顔を見回せるようになっている。俺たちが最後だったらしく、空いている4席に並んで座る。


「では、そろったので体育祭実行委員会を始めます。1年生も遠慮なく意見を述べてください」

「はーい」


 3年と札の置かれたテーブルには12人が並び、2年生のテーブルには16人が。そして1年生は20人いる。

 年々クラスが順調に減るらしいな。


 進行役をしている小柄で丸顔でつぶらな瞳がかわいらしいメガネ男子先輩が体育祭実行委員長らしい。意見が出るごとに、


「みなさんはどう思われますか?」


 とみんなの意見を聞こうとするからなかなか話が進まない。


「いちいち聞かなくてもさあ、意見がある時に手を挙げるで良くない?」


 充里が真正面の委員長先輩に1年生とは思えぬ態度で申し出る。


「とのことですが、みなさんはどう思われますか? 良いと思われる方、挙手願います」


 みんなの手が挙がる。


「じゃあ意見のある人は手を挙げてね。で、競技にさあ、二人三脚入れて欲しいって男子からの熱い要望があったの。どう? 賛成の人手ぇあっげてー」


 2年3年が顔を見合わせるも、1年生が手を挙げると諸先輩方もおずおずと手を挙げる。


「委員長は?」

「あ、はい、いいと思います」

「その紙何? 今日の委員会はその紙埋めりゃあいいの?」

「はい、そうです」

「貸してー。あ、ちょうど競技今日決めるんだ。フライングしちゃったよー、あはは」


 あははは、と多目的室に笑いが起きる。


「えー、これ、1500メートル走とか時間かかってダレない?」

「たしかに、長距離ならではのドラマが生まれることもあるけど、走ってるだけだから面白みには欠けるんだよね」


 充里の隣の3年生先輩がうなずく。


「じゃあ、これ消して二人三脚に変えよ。曽羽ちゃん、字キレイだから書いてくれる?」

「いいよー」

「比嘉でもできそうな競技入れてよ、充里」

「比嘉何できんの?」

「それが問題なんだよ。でも俺、絶対比嘉にも楽しんで欲しいの。みんなが楽しめる体育祭にしたいの」

「それスローガンにいいですね。運動が得意不得意に関わらず、下高生みんなが楽しめる体育祭」

「使っていーよ」

「じゃあ運動神経ぶっ壊れててもできるような競技考えっかー。そこの3年生、何かないー?」

「えっ、私?! うーん、そうだなあ」


 いつの間にかすっかり充里が進行役である。バンバン指名していくから、いつ自分が当てられるかとみんな集中して意見を考え、進行速度が倍速になった。


「紙の項目全部埋まったよー。今日はこれで終わっていいのー?」

「はい、結構です。ありがとうございました。次回は来週火曜日です。よろしくお願いします」

「りょーかーい。はい、かいさーん。みなさんお疲れ様でしたー」

「お疲れ様でしたー」


 何も知らない1年生のくせに、3年生に頭を下げさせるんじゃない。

 充里はかなり非常識だと思うのだが、万人受けする柔和な顔のせいかなぜか人から好かれる。


「あのラインナップなら比嘉も楽しめるんじゃない?」

「うん! 人生で初めて体育祭が楽しみだわ」

「うんうん、お前の運動神経じゃそうだろーな」

「ありがとう、入谷。私も楽しめるようにって意見出してくれて」


 比嘉が嬉しそうに笑っている。喜ぶのはまだ早い。体育祭の準備が始まったばっかだってのに。


「言っただろ、俺がお前の学校生活をもっと楽しくさせてやるって。俺、約束は守る男だから」


 小学校の理科の授業で見た、花が開く瞬間の早送り映像を思わせる満開の笑顔を見せる比嘉に、決意を新たにする。

 絶対、俺は比嘉に体育祭を楽しませる! 俺、約束は絶対に守る男だから!


 5時ギリギリになって創作居酒屋ひろしの引き戸を開けると、天音さんがもう下りて来ていた。


「おはよう、統基」

「……おはよう、天音さん」


 ただ俺、約束を守らない男だったら、天音さんとスッパリ終われてただろうになあ……。

 終わらせられなかった自分に、後悔しかない。でも、それでも、俺は男のプライドに懸けて約束を破ったりなどしない!

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