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私たちは男子の話を盗み聞く

 生物室への移動中、一緒に廊下を歩いていたおしゃべり三人組の一人、里田さんが提案した。


「ねえ、充里と入谷と渡辺くんが歩いてるよ。男同士で何話してるのかコソッと聞いちゃおうよ」

「うん! そーっと近付こう」


 男同士で、か。たしかに、男同士で話してるのを聞く機会なんてないわね。ちょっとおもしろそうかも。


 三人に続いて、私と愛良も階段を上り始めた入谷たちにそっと近付く。


「イケメンコンビに二人とも彼女ができて、やっとパンピーのターンだ! ヤンキーにも彼女がいてもいいよな? なっ?」

「いんじゃね? てかむしろヤンキーなら彼女が複数いても驚かねえけど、来夢全然ヤンキーじゃねーじゃん」

「俺らこないだ見たよ。来夢、迷子の幼稚園児を交番まで連れて行ってあげてたじゃん。超優しいのなー」

「見てないで手伝えよ! あの子泣きじゃくって全然話聞けなくて大変だったんだから!」

「知ってる。心配だから来夢が無事に交番に連れて行くまで見届けたもん」

「だから、見てないで手伝えよ!」

「必死で幼稚園児のご機嫌取ってる来夢がかわいくて、ひたすら見てたんだー」

「ひっでーな、お前ら!」


 へえ、渡辺くんとはほとんど話したことはないけど、いい子っぽいな。

 見た目は少し入谷と似ている。入谷と違って色白だけど、小柄で細くて明るい茶髪で。でも、入谷みたいにパーマじゃなくてストレートだし、所々毛先が金髪だったり赤だったり青だったりとカラフルだ。


「まあまあ、要は彼女にしたい子がいるって話なんだろ? 朝も迅が誰でもいいから彼女が欲しいって言った時、津田と杉田はうなずいてたけど来夢は遠い目をしていたのを俺は見逃してないぜ!」

「おお! すげーな入谷! そんな細かいとこ見てたんだ?」

「あの比嘉を落とした俺が協力してやるよ。誰を彼女にしたいの?」


 クスクスとおしゃべり三人組が顔を見合わせて笑っている。意図せず渡辺くんの好きな人を聞いちゃうことになったわね。いいのかしら。


「実は……背が低いのに高井結愛」


 三人組の真ん中にいた高井さんを二人が見る。私はその後ろにいるから高井さんの表情は見えないけど、一瞬階段を上る足が止まった。


「結愛ねー。かわいいよなー」

「なんかさあ、あの小さい体で泣いてる姿見てたら不謹慎にもキューンとしちゃって。俺が高井を笑わせてやりたいなって思ったんだよね」

「優しいなあ、来夢ー」

「分かる! 俺も小さい女の子好き。小さくって女の子ーって感じのギューッってしたくなるような子。まさに比嘉!」

「高井の方が背が低いからって手ぇ出すなよ!」

「俺ゃ背の低い女と見れば手を出すゲス野郎か。俺は比嘉にしか興味ねえわ!」

「統基は結局比嘉なんだよなあ」

「そりゃ俺だから」


 あははは! と笑ってる声を聞きながら、顔に熱が集中するのを感じる。

 私のいない所でも、こんな風に私の話してたりするんだ……。


「協力ってどうしてくれるんだよ?」

「そーだなー。結愛は乙女で甘えん坊だから、なんか男っぽい所見せたらいいんじゃね? 頼れる男的な?」

「どうやって見せんの?」

「そーだなー。遊園地でも行って、ジェットコースターとかお化け屋敷とかで俺全然怖くねえよ的な?」

「お! いいねえ! 俺、絶叫系大好きだから怖くないし!」

「そんでまー、結愛が怖がってたら手でも繋いでみたらいいんじゃない? 俺が守ってやるよ的な?」

「なんか入谷、適当に言ってねえ?」

「ん? んなことねえよ? 一応脳みそ3%くらいは使ってるよ?」

「もっと使えよ!」

「俺、遊園地のクーポン持ってるよ。7%オフのラッキーセブンクーポン」

「ありがたいけど7%かー。入谷の脳みそ使用率よりは上だけど消費税率より低いじゃん」

「いいじゃん、ラッキーセブンとかご利益ありそうじゃん」


 入谷たちが生物室に入って行くと、おしゃべり三人組がワッと盛り上がりだす。


「どうするの、結愛! 渡辺くんに遊園地誘われちゃうよ!」

「ええーどうしよう? 私ほとんど渡辺くんとしゃべったことないからどんな人か全然分かんないよ」

「幼稚園児の話とか、優しそうではあったよね」

「うんうん、髪の色は派手だししゃべり方とか荒いけど、見るからにいい人そうなオーラ出てるもんね」

「渡辺くんは本当に優しくていい人です……」


 え?!


 背後から声がしたから振り向いたら、黒髪のボブで黒ぶちのメガネをかけた大人しそうな女子生徒がうつむきがちに立っていた。えーと……誰?


「あ、近藤(こんどう)さん」


 小田さんは知っているみたいで、名前を呼ぶとその人は顔を上げて一筋の涙を流しながら笑った。


「私、6組から来たから誰も知ってる人がいなくて、不安だったんです。でも、渡辺くんがこまめに声掛けてくれたり、優しくしてくれて、とっても嬉しかったんです。てっきり私のことが好きだから優しくしてくれるのかと思ってた……私じゃなかったんだ……悲しいな……てへっ」


 そう言い置いて、その人は生物室に入って行った。


「恵里奈、あれ誰?」

「6組がなくなって二学期からうちのクラスに来た近藤なぎささん」

「あ、同じクラスの人だったんだ? 全然気付かなかった」

「え? いた?」


 チャイムが鳴り、慌てて生物室に入る。見回すと、たしかに渡辺くんの後ろの渡部くんの後ろにいつの間にか机が追加されていたようで、そこに近藤さんが座っている。


 私も全然気が付かなかった。存在を悟らせない、忍みたいな人だわ。

 仲野と行村くんだけじゃなくて、クラスの人数がいつの間にか26人に増えてたんだ?

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