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俺の幼馴染の異変

 まだか。まだ来ないのか。


「何をソワソワしてるんだ、入谷」

「あー、ナティ。俺みんなに言いたいことがあるんだよ」

「普通にナティって呼ぶなよ! せっかく細田からOKが出た俺オリジナルの呼び名なんだぞ! 入谷までナティ呼びしだしたらまた考えなきゃいけなくなるじゃん!」

「え? そうなの? 大知が呼んでたから、なんかナティっていいなーと思って俺も呼んでみただけなんだけど」


 包帯まみれの金髪ツインテール細田莉奈に聞いてみる。細田は大きな絆創膏の貼られたほっぺに手をやり考えている。


「そこまで厳密にルールを決めてはなかったけど、そうだな。新しい呼び名を考え直せ」

「またかよ! もう出ねえよ!」


 大知が恨めしそうに睨んでくるが、え、これ俺が悪いの?


 やっと比嘉が後ろのドアから入って来た。


「比嘉! おはよう!」

「おはよう、入谷」


 ニッコリと笑う比嘉が超かわいい。俺の彼女だ!


「みんな! 俺はついに比嘉を落とした! 男子共は今後、マイ彼女・比嘉と話をしたくば俺を通すように!」

「え?! ちょっと、入谷!」


 俺の宣言にクラス中が注目すると、比嘉が赤くなって慌てている。どうした?


「マジで?! 入谷マジで比嘉さんを落としたの?!」

「マジだ! だから勝手に比嘉に話しかけるなよ!」

「元から比嘉さんに話しかけられるのなんて充里と入谷くらいなもんだよ!」

「お前ら非常識だから!」

「それもそうか」


 まあ、必要なかったかもしらんが宣言しておくに越したことはない。


「おはよー」

「充里! 紹介しよう! 俺の彼女の比嘉叶だ!」

「おお! ついに比嘉を落としたの? やったな、統基! 悲願が叶ったな!」

「叶った!」


 比嘉は真っ赤になって黙ってしまっているが、構わず充里に紹介する。


「入谷、さすがに恥ずかしいんだけど」


 強引に比嘉の隣を俺の席にしたから普通に隣に座った俺に比嘉が小声で訴える。


「何が恥ずかしいの? 俺の彼女なのが恥ずかしいの?」

「そうじゃなくて! 言いふらされるのが恥ずかしいの!」

「なんで恥ずかしいの? 俺みんなに知って欲しい! お前は俺の彼女だって!」


 比嘉が真っ赤になって固まってしまった。コイツは何がそんなに恥ずかしいってんだ。俺、何なら校内放送でもして全校生徒に知らせたいくらいなのに。


 チャイムが鳴ると同時にゴリラのような仲野とヒョロ長い行村が教室に入って来る。


「おー、ギリ遅刻じゃねーじゃん、マザゴリ」

「俺は比嘉さんのために生まれ変わったから! 遅刻なんかしねえしちゃんと勉強もして俺良い子になる!」

「おっせーけどな。比嘉は俺のもんだ。俺の彼女だから一切近付くな!」

「もー、入谷!」

「え?! マジで?! 比嘉さん!」


 絶望を浮かべた仲野がすがるように比嘉を見る。お前がとどめを刺してやれ、比嘉。


 俺と仲野に見つめられ、真っ赤な比嘉が首を縦に振った。


「そんな!」

「分かったら比嘉の視界に入るな! 比嘉の目が腐る!」


 仲野の背中を蹴ると、ヨロヨロと教卓前の席へと歩いて行く。


「えー、マジで付き合ってんの? 比嘉さんと?」

「そーだよ。いいだろ」

「いいなー、こんなキレイな彼女。俺もかわいい彼女欲しいー」


 独り言を言いながら行村も席に着く。

 キレイな彼女、か。甘いな、行村。比嘉はもちろんキレイだしかわいいが、比嘉の良さはそこじゃねーんだよ!

 見てみろ! 今もまさに爆発すんじゃねーかってくらい赤くなって両手を口元を覆って照れまくっている! あー、かわいい。


 放課後、今日もバイトだけど限界の時間まで比嘉とお話していたいのに釘城に声をかけられる。


「入谷の幼馴染だって女の子が呼んでるわよ」


 釘城が指差す前のドアを見ると、あかねが手を振っている。釘城の席はドアから全然離れてるのに、なんであかねは毎度釘城に伝言するんだ。


「お前としゃべってる時間なんか俺にはねえんだよって言っといて」

「自分で言いなさいよ!」

「行っておいでよ。私日直だから日誌書かないといけないし」

「ええー。バイトまでそんな時間ねえのにー」


 渋々立ち上がり、後ろのドアから教室を出てあかねへと歩く。


「何だよ。俺お前としゃべってるような無駄な時間ねえんだけど」

「ひどいな、入谷! 全部聞こえとった上にほんまに言うんか! ちょっと来てえや、うち入谷に聞きたいことがあんねん」


 それが無駄な時間だって言ってんのに、話の通じないヤツだな。


 わざわざ階段を下りて中庭に出る。新館校舎前の池のほとりにあかねが座る。相変わらず大人っぽい顔にツインテールが似合ってないが、短いスカートで無造作に座って足を組むから一瞬パンツ見えねーかなと思う。


「うちの足キレイやろ。目が釘付けなっとったな」

「まーお前の顔見るくらいなら足見るわ」

「どういう意味やねん! 話をする時はちゃんと相手の顔を見い!」

「うっせえな、何なんだよ」


 顔を上げると、思いのほかあかねは真面目な顔をしていた。


「比嘉さんと付き合いだしたってほんまなん?」

「うん。比嘉は俺の彼女で俺は比嘉の彼氏だよ」

「うちがずっと好きやでって言ってたのに」

「お前、さーなんとかと付き合ってんだろ」

「斉藤翼や。さーしか覚えてないんかい」

「俺お前に一切興味ないんだもん」

「ほんまに、入谷ずっとうちに興味持たんかったな」

「え……」


 いつもギャンギャンうるっせーあかねが、珍しくうつむいてしんみりと言う。


「うち、一応本気で入谷のことが好きやってん」

「そうは見えんかったが。なんか恒例行事みたいに告って来てたけど」

「なんで通じんかったんやろ? 比嘉さんほどやないけど、うちかてかわいいし、スタイルなんかちんちくりんの比嘉さんよりいいくらいやのに」

「俺の彼女だっつってんのにちんちくりん言うな。俺はお前とは真逆のああいう小さくて女の子ーって感じのギューッてしたくなるようないじらしいかわいらしい子が好きなの」


 スタイル自慢のあかねが細くて長い足をわざとらしく上げて組み替えるから、無意識に目が行く。


「ああいうキャラになれないんだもん」

「え……あかね?」

「私は比嘉さんより背も高いし足も長いし胸もあるからダメだったのか」

「ケンカ売ってんのか、お前。曽羽よりは背も低いし足も短いし胸なんか完敗だろーが」

「てことは、見た目じゃなかったのかな。だって顔以外は私の方が勝ってるでしょ」


 言ってることは強気だけど、表情と言葉がまるで一致していない。いつものあかねと様子が違って落ち着かない。


 小学校1年生で同じクラスになって以来の付き合いの幼馴染で、関西弁でうるさい女のはずなのに、なんで標準語で静かに語ってんだよ。


「入谷……ずっと、好きでした」


 好きやって、あかねの口から何度か聞いた。あー、そう、としかこれまでは思わなかった。何なら、あー、またか、と思ってた。


 これが、あかねからの最後の告白なんだろう。


「ありがとう、あかね」


 なんだか、あかねの言葉が初めて胸に染みた。


「なんで今になって笑って言うの?」

「泣くなよ。俺が泣かしてるみたいじゃん」

「泣いてない」

「なんか、お前の本当の気持ちが聞けた気がしたの。関西弁はお前の言葉じゃないんだもん」


 空気が止まった。え? 何、この沈黙。


「そんなことあるかい! 関西弁はうちのアイデンティティや!」

「びっくりした! 急に大声出すなよ」

「うちは大阪生まれやから、どうしても関西弁になってまうねん」

「だから、お前大阪にいたの2歳までだし生まれはブルックボンドだろ」

「ブルックリンや! いつになったら覚えるねん!」

「分かった分かった、ブルックリンね」

「よう覚えとき! ほなな!」


 あかねが勝手にさっさと歩きだす。お前はカバン持って来てるからこのまま帰れていいな。俺お前に呼び出されたせいで階段上って教室戻らなきゃなんないのに。


 比嘉のいる教室へと校舎に入る時に、あかねが見えた。こちらを振り向いて見ていたけど、目が合うとまた前を向いて歩きだした。


 あいつの関西弁へのこだわりは一体何なんだ。2歳までしかいなかったのに、そんなに思い入れがあるもんかね。

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