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俺たちの新しいクラスメート

 チャイムが鳴り、みんな席に着く。

 いらん恥かいて汗びっしょりの俺も窓際一番前の自分の席に行こうとしつつも無意識に比嘉を見たら、比嘉が悲しげに隣の那波の机を見つめていた。


 一度は比嘉さん感じ悪ーいとか言われたりもしたけど、勉強アプリ教えてくれたり夏休みにも一緒に花火したり宿題写したり、人見知りの比嘉にとっては仲がいいクラスメートの一人だったのかもしれない。


「比嘉、宿題持って来た?」


 どうせ空いてるんだからいいや、と那波の席に座る。真鍋の席だった充里の隣に曽羽も座った。


「うん、せっかく愛良の写させてもらったし」

「私はカバンごと家に忘れて来ちゃったよ」

「え? 愛良、手ぶらで学校に来たの?」

「そうみたい」

「なあ、曽羽。制服も違うくね?」

「あれ? ほんとだ。中学の制服着て来ちゃった」

「さすが常軌を逸してるな、ド天然!」


 天然すぎて俺は引いたけど、比嘉は笑った。良かった、笑った。ありがとう、ド天然。


「那波も真鍋も、何か言ってくれても良かったよね。あの時にはまだ学校辞めるって決めてなかったのかなあ」


 せっかく出た笑顔を暗い顔に戻すんじゃない、ド天然。


「神様って平等なんだな」


 珍しく充里が真顔で那波の机を見つめてつぶやく。


「平等?」

「だって、高校生に子供なんてできても学校辞めなきゃならなかったりしんどいだけじゃん。なのに、神様は容赦なく高校生にでも平等に子供を授けるんだなって」

「ああ……たしかに。充里も他人事じゃねえだろ。お前しょっちゅう曽羽んとこお泊りしてんじゃん」

「半分はラブホ」

「場所の問題じゃねーんだよ」

「だーってさあ、俺が父親になんかなると思うー?」

「思わねえ。でも、きっと真鍋だって父親になるつもりなんてなかったよ」


 珍しく静かに話していたら、バシーン! とすごい音を立てて後ろのドアが開いた。びっくりして見ると、仲野と、いつもつるんでいる行村(ゆきむら)が入って来る。


 仲野は190センチを軽く超えていそうなデカい体にデカい顔、金髪なのもあってもうゴリラにしか見えない。


 行村は背が高く長めの金髪で大きめのピアスをしたチャラそうなイケメンだけど、ボーッとした印象の顔した覇気のない男だ。


 仲野が一番後ろの席に座る俺を見る。

 また因縁つける気かよ、めんどくせえ。


「なんで入谷がそこに座ってんだよ。絶対そこじゃねえだろ、イなんだから」

「比嘉の隣が俺の席なの」


 キャー! と女子の歓声が上がる。ワルイと悪名高き不良がこの平和なクラスにやって来たことで、今恐らくみんなが仲野を見ているのだろう。


 威嚇するように仲野がそのゴリラフェイスを接近させてくるが、この俺が注目を集めている状況でその程度でひるむと思ったら大間違いだ。


「そこは俺の席だ。どけ」

「お前に俺の前の席やるよ。お前目ぇ悪そうな顔してるから」

「ふざけてんじゃねえぞ、お前」

「ふざけてんのはお前の顔だよ」

「お前、そんなちっせー体して俺にケンカ売る気か」

「お前こそ、そんなゴリラみたいな顔して人間だとか全人類にケンカ売ってんだろ」


 やべえ、コイツ怒りゲージ溜まっていくのが目に見えるように下から顔が赤くなっていっておもしろい。愉快になっちゃって止まんない。こんなデカいヤツに殴られでもしたら地獄なのに。


 徹底的にやり合いたいけどキレられると怖そう、どうしよう、と思っていたら、前のドアから体育教師の高梨が入って来た。


「何を突っ立ってんだ、仲野ー。チャイムが鳴ったら席に着けー」

「げ。なんで高梨なんだよ。1組の担任は鈴木だろ」

「鈴木先生は結婚にあたり退職された。次の担任が決まるまで俺が仮担任としてこのクラスを受け持つことになったー」

「へー、りんりん結婚することになったんだ?」

「見事34歳最後の日に入籍を済ませ、今は旦那と一緒に沖縄で暮らしている」

「沖縄?! 婚活相手が沖縄だったの?!」

「鈴木先生は全国各地の婚活パーティに参加されていた」

「すげー執念!」

「無事、子供を作っちゃえば結婚できるだろうプロジェクトの成功を祝って、拍手!」

「しづらいプロジェクトだな! 教師のくせに!」


 やっぱりこの学校、教師までバカばっかりだ!


「仲野も早く座れ。俺が仮担任の間だけでいいから問題起こすなよー。お前は毎日毎日近隣住民の皆さんやら警察からしょっちゅう苦情入るし電話がかかってくるから7組の担任かわいそって思ってたら俺に回って来るとか冗談じゃねえよ。やる気失くすわー」

「高梨、元からやる気ねえじゃねーか」

「7組の担任が1組持つはずだったのに仲野が1組だって知ったらストレス性蕁麻疹が止まんないとか言って休職しやがったの。絶対仮病だよ、仮病。俺、担任なんかやったことないのにさー」


 だからと言ってこんな教師が仮とはいえ担任だなんて、この学校相当な人手不足でもあるのか。


「ちっ」


 と悪態をつきつつも、仲野が大人しく高梨が指差す教卓の真ん前に座る。

 夏休み前はあそこに座っていた曽羽が真鍋の席に、俺が那波の席に来て空いていた二席の内、前の俺の席には行村がちゃっかり座っている。


 ほお、意外にも素直に言うことを聞くってことは、仲野のヤツ高梨が苦手なんだな。散々悪評垂れ流したせいで、体育教師かつ生活指導担当でもある高梨に目をつけられているんだろう。


 新学期というのは、やたらとプリントをもらう。

 二学期の学校行事か……すげーな。遠足に体育祭に文化祭プラス中間テストに期末テストって行事だらけじゃねーか。もっと年間行事をまんべんなく散らせよ。俺の誕生日も二学期なのに埋もれそう。


「今日はこれで終わりー。また月曜日なー」


 高梨がさっさと締めて早々に教室を出て行く。マジであいつが担任で大丈夫か。

 高梨なんかどーでもいいや。早く終わったし、比嘉と昼メシでも食いに行きたい。


「比嘉、昼メシ――」

「馴れ馴れしく比嘉さんにしゃべりかけてんじゃねーよ!」


 一番前から仲野がドタドタと走って来て俺の机にバンッ! とゴリラのようにゴツい手でデカい音を立てる。


「うるさ! お前、発する音が全部うるっせーんだよ! ゴルゴリ!」

「ゴルゴリ?」

「待って! 当てようぜ! 仲野がゴルゴリだろ? ゴリラは分かるんだけど、ゴルって何だ?」


 比嘉が首をかしげてる間に、充里が唐突にゴルゴリをクイズにしだした。


「ゴルフ?」


 曽羽が虹色綿菓子みたいなフワフワ声と笑顔で答える。


「ド天然よ、仲野のどこにゴルフの要素があるんだよ」

「ゴルフのボール飛ばすヤツで殴って遊べるゴリラ」

「なるほど、ゴルフクラブゴリラか、ゴルゴリだな。ってサラッと毒を盛ってんじゃない」

「ゴールドじゃねーの? 髪の毛」

 

 行村が自分の金髪を人差し指でクルクルと触りながらやって来る。


「大正解! ゴールドゴリラでゴルゴリ」

「いえーい!」


 行村はボーッとした顔をしているくせに察しがいい。ハイタッチで初対面の行村と親交を深めていると、また仲野がバンッと俺の机を叩く。


「ムカつくんだよ……入谷も箱作も!」

「えー俺もー? なんでー?」

「ヘラヘラしてるくせに入学式も始まる前から比嘉さんと仲良くなりやがって!」


 ……比嘉? なんで比嘉?

 比嘉を見ても、驚いてる様子で固まっている。比嘉に心当たりはなさそうだな。


「そんな理由かよー。バッカじゃねーの。俺と統基はあの朝学校に一番乗りしてたんだよ。今日も遅刻してきてたような半端なお前とは、かわいい女の子を求める覚悟が違うんだよ!」


 珍しくタンカ切ってカッコ良く言い切ってるが、充里にはその時中学から付き合ってる彼女がいたことを忘れるな。


「お前もしかして比嘉のことが好きなの? そういや、出身中学が同じなんだっけ」

「それで比嘉と仲いい俺らがムカつくのー? ヤキモチー?」


 ワナワナと体を震わせ、怒り爆発寸前な様子で仲野は頭まで真っ赤な顔をしている。


「俺なんかずっと、比嘉さんを見つめるだけだった。ずっと比嘉さんを見つめ続けてた。比嘉さんは俺の存在に気付いてはいなかったけど、この学校でも俺は入学式の日からずっと比嘉さんを見つめていた」


 ちょっと待て。まさか……いや……いや、うん、ちょっと待て。


「ゴルゴリ、かなり遠くの中学校だったんだろ。まさか比嘉が引っ越したのを追いかけてこの学校に来たんじゃねえだろーな」

「比嘉さんが引っ越したというニュースは糸満市を駆け巡った。俺はすぐさまママンに頼んで探偵に比嘉さんの引っ越し先の高校を調べさせ、そっこーで俺も引っ越しこの高校へ入れるようにママンがすべて手配してくれた。俺のママンは世界一優しい自慢の賢母だからな」

「多い多い。情報が多いんだよ、いっぺんにしゃべるな! まず、糸満市ってどこ?」


 ゴリラの顔を見てると寒気がした上に吐き気まで催しそうだったから、比嘉に聞く。


「沖縄県糸満市よ」

「沖縄?! お前沖縄から来てたの?!」

「そうよ。言ってなかったかしら」

「初耳だよ! そこまで遠いとは思ってもみんかったわ! 陸続きじゃねーのかよ! 海越えちゃってんのかよ!」

「今日は初耳が多いわね」

「うん、いい日だよ。って何も良くねえ! てか何、ゴルゴリ、ハイレベルすぎるストーカーじゃねーか! 比嘉を追いかけて遥々沖縄から来たのかよ?!」

「そうだ。俺のママンは海よりも心が広いから国内で良かったわね、と飛行機の中で聖母のように微笑んでいた」


 おおう、またブルブルッと寒気がする。


「さっきからママンて何、ママンって。お前そのゴリラフェイスでお母さん大好きなマザコンだったりするの?」

「子供がママンを大好きで何が悪いことがあるのだろうか。マザコンという言葉が間違っている。マザラブにするべきだ。ママンをラブなのは推奨されるべきこと」

「多い多い多い。お前ゴリラの上にストーカーでその上マザコンなの? 変態じゃん! 比嘉の視界に入るな! 比嘉の目が腐る!」


 思わず比嘉の前に立ちはだかる。


「ストーカーだなんて……気持ち悪い」


 心底嫌そうな比嘉のつぶやきが聞こえるが、お前もストーカーのくせにお前が言うな。同類だよ、同類。同族嫌悪なんだよ、それ。

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