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俺と大人の罠

 彼女を家に送り届けるべく、蓮もクラスメートたちと共に慶斗が運転する車に乗って行った。

 小学生の子供のくせに彼女とか、かわいい弟でなけりゃークソ生意気な、とでも吐き捨てている所だ。蓮はかわいいし賢いから惚れる女子がいるのもよく分かる。


 テキパキと亮河が悠真に指示を出し、言われたことはソツなくこなす悠真の働きによりガキ共に荒らされた部屋があっという間にキレイになる。


「ねえねえ統基、子供がさー、お座りできるようになったの。見てよ!」

「お座り?」


 デレッデレの顔で孝寿がスマホを見せてくる。のぞき込むと、孝寿そっくりなかっわいい赤ちゃんがチョコンと座ってこちらを見ている。


「かわい!」

「かわいーだろー、俺の子供ー」


 孝寿から人をいたぶって喜ぶ邪悪さと人を操って喜ぶ非道さを取り除き、真っ白な汚れを知らない心を代わりに入れたようなまっすぐにこちらを見る瞳が印象的だ。

 他の写真も見ていくと、赤ちゃんと奥さんであろうキレイな女の人と孝寿と三人で幸せそうに笑っている写真もたくさんある。なんって絵になる家族なんだ。何コレ何かの広告?


「いいなー、孝寿。比嘉はきっと単にイケメンってより芸術性の高い美しい顔が好きなんだろーな。せめて俺も孝寿の顔なら比嘉ももうちょい俺のこと見てくれたかもしんない。孝寿は家で自分そっくりの赤ちゃんとこんなかわいい奥さんが待ってるんだ。いいなー、孝寿。俺なんかこのイケメンフェイスのせいで全く相手にされてねえってのに」

「え? 何? 愛娘の写真見ながらどんどん暗い顔になんのやめてくれる?」

「どうした? 統基。何かあったんなら話してみろよ」


 すっかりふてくされてソファにあぐらをかきだした俺を心配そうに亮河が見下ろす。悠真も邪魔な前髪を流して美しいアーモンドアイで俺を見つめる。クッソ、高身長美形イケメン共が。そういや、みんな結婚してんだもんな。慶斗以外はちゃんと幸せな家庭を築いてるんだ。


「話したって幸せなお前らには分かんねーよ! お前らみんな、キレイなお顔してていいな! どーせ、俺の顔じゃダメなんだよ!」

「いきなりキレてんじゃねーよ! めんどくせーヤツだな!」

「黙れ、美形! どーせ俺はイケメン止まりだよ。美形だなんて言われたことねーよ。くっそー、ムカつく! 孝寿の顔なら、そりゃー奥さんだってあっさりコロッと落ちただろーよ! いいな! 顔のいいヤツは!」

「俺全然あっさりコロッとじゃねーよ。奥さん、俺が会いに行った時には好みドストライクの彼氏がいて大好きだったし、8歳年上だから俺のことなんかガキ扱いでまるで相手にされなかった」

「え?」


 冗談かとも思ったが、孝寿はまるで笑ってない。本気で話してるみたいだ。


「孝寿兄ちゃん、高校生の時に結婚したって言ってなかった?」

「そうだよ。3歳でプロポーズして、家が遠かったからほとんど会えないまま17歳になってすぐ奥さんのマンションに押しかけて元カレから奪ってやって、18歳の誕生日に結婚した」

「1年がかり?!」


 孝寿のこの顔でもそんな時間かかってんの?!


「好みドストライクの彼氏がいてそんな年の差って、俺よりムズイ状況じゃね? よく1年もモチベーション保ったな」

「他の女は俺が声かけたらいくらでもついてきたから、そっちで発散してた」

「ちょっと待て。生涯一人の女しか愛さないんじゃなかったのか。この偽ロシアンブルーめ」

「ロシアンブルーって何なんだよ。奥さんと付き合う前の話だよ。付き合ってもないのに他の女に手ぇ出すなとかめちゃくちゃ言うような奥さんじゃねえからさ。付き合いだしてからは奥さん一筋」

「なるほど、他の女とやることやって発散しながら奥さんを1年がかりで落としたって訳か。やっぱり付き合ってなければセーフなんだ」


 だって、今の孝寿は立派な愛妻家だ。付き合う前はフリーダムでもいいんだ。

 良かった、俺は比嘉が好きなのに何やってんだろうと思ったけど、堂々と比嘉を好きだって言っていいんだ。


「何の話? 比嘉さんの話?」

「いや、もっと年上の女の話。俺実は、バイト先の歓迎会でなんか流れで酒飲んじゃって、気が付いたらバイト先の先輩とラブホのベッドで寝てたの」

「は?! 高校生が何してんだよ」

「マジそれ。俺酒のせいで何っにも覚えてないの。なんで未成年が酒飲んじゃダメなのか分かった。未熟な俺らじゃ酒に自我を乗っ取られちゃうんだ。理性なんかなくなるんだよ」

「高校生でそれが分かるだけ統基は賢いよ。ケイなんかいまだに酒の怖さ分かってないから、またやらかして今はバツ2だけどバツ3待ったなしだからね」

「どこまでクズなんだよ、あいつ」


 初恋の人も今頃草葉の陰で泣いてるよ。

 ……もしかしてだけど、亡くなった初恋の人のことをまだ忘れられない、ってことはないよな、あのクズが。


「その一回っきり?」

「いや、比嘉に彼氏ができて俺超へこんじゃったし、なんかなし崩し的に毎週土曜日にホテルで会ってる」

「ホテルで会ってるって何」

「その先輩が外で会って学校のヤツらに見られたら困るだろうからって気ぃ使ってくれて」

「お前なあ……。統基、俺がためになる話をしてやるよ。俺は高校時代、奥さんと付き合うまでは日替わり状態だったけど、同じ女と二度はしないと決めていた」

「どこがためになる話だよ! 手あたり次第なだけじゃねーかよ!」

「ポリシーを持てって話だよ」


 玄関のドアが開いた音がし、蓮がスマホを手に嬉しそうに飛び跳ねながらリビングに入って来る。


「どうした? 蓮」

「奈子ちゃんとメッセージの交換したの! あ! 返事が来てる!」


 いいっすなあ。彼女とラブラブメッセージタイムっすか。

 蓮がダイニングテーブルの椅子の上に正座してスマホに夢中になっている。


「ただいまー」

「おかえり、クズ」

「何だよ、いきなり」


 リビングに入って来た慶斗が顔をしかめる。だって、お前クズじゃん。


「なあ、初恋の人に告白できなかった後悔をどう乗り越えたらそんなクズになるの?」


 俺の素朴な疑問に、思いのほか慶斗の顔が曇る。あれ……まさか、マジでまだ好きなんだろうか。


「乗り越えられたのかどうかすら分からない。でも、時間が俺を大人にしてくれた。今は、行きたがってたキャンプに行けて、疲れ果てるくらい楽しめて良かったなって、思ってる」

「慶斗……」


 初恋の子の面影を追うように、中空を見つめる慶斗はクズには見えない。もしかすると、一人を思い続けている真のロシアンブルーは慶斗なのかもしれない。


「あと女。女でできた傷は女で癒すに限る」

「やっぱりクズだな、お前!」


 一瞬でもこんなヤツをロシアンブルー認定するとは、俺もしくじったわ。


「統基も同じじゃん。お前もクズだよ。違うのは統基は年上の女の罠にハマったってとこくらいかな」

「え? 罠にハマった?」

「いくら酔ってたって全く覚えてないなんてありえない。気付いたらホテルで寝てたっていう、その当時の状況を思い出せるだけ言ってみ」

「聖天坂のバイト先で俺の歓迎会してもらって、なんかガンガン酒飲んで、10時になったからって帰ったんだけどなぜか先輩が一緒にいて、気が付いたら12時で天神森のホテルのベッドで寝てた。もー、酔いがどっか行くくらいびっくりした」


 うんうん、とうなずきながら聞いていた孝寿が、名探偵のように人差し指を立てる。


「聖天坂から酔っ払いの足で天神森まで行って、酔いが醒める程度寝てたんならやっぱり時間的にも不自然だ。ホテルに入って即寝ただけの可能性の方が高い。起きた時、服は?」

「着てた」

「ほら」

「え?! だって、天音さんが1回も2回も同じでしょって言うから、俺も0と1じゃ大違いだけど、まー1回やってんなら2回も100回も同じかと思って……え?!」


 あーあ、と兄貴たちがそろって呆れたように俺を見る。え?!


「だーかーら、年上の女にだまされたんだよ。0を1にしたのはお前だ、バカ」

「ええ?!」


 ……忘れてた。そうだ、俺すっかり忘れてた。

 大人って、平気で嘘つくんだった!

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