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女神と話をした俺もまた神なり

 比嘉が教室をこそーっと出て行くのを、俺含め数人は目撃していた。でも、誰も比嘉を呼び留められなかった。


 1年1組みんなで遊びに行こうって言ってんのに何も言わずに出て行くとか、神がかった美人はやっぱり格が違うな。入学したばっかで単独行動って、逆に勇気いると思うんだけど。


 高校デビューなんて考える必要ないんだろうな。どう立ち回ったって絶対いじめられたりするはずねえもん。あの顔ならよっぽどチヤホヤされる人生だったんだろうよ、これまで。そして、これからも保障されてるようなもんだ。


 超イージーモードじゃん。神に愛されて生まれてきて良かったっすなあ。


「あれー、比嘉は?」

「お! あの人のこと知ってんの?! めちゃくちゃ美人だよな!」


 充里が比嘉がいないことに気付くと質問攻めに遭っているが、充里もほとんど比嘉の情報なんかねえぞ。そいつ、すぐさま曽羽に乗り換えやがったから。


「比嘉さんていうのかー。やっぱりそうそう俺らなんかとは遊んでくれないんだなー」

「遊んでくれたところで、あんなにキレイな人と話ができる気がしないよ。緊張しちゃって」

「あんな人、現実にいるのね。幻かと思ったわ」

「幻みたいなものだよ。僕、あの人見てたらなぜか光で真っ白になって見えなくなったもん」

「私も! 人間、信じられないものを見ると脳が自動的にいないものとして処理するのね」

「もう女神だよ。恐れ多くて近付くことすらできないよ」


 クラスメートたちが比嘉の話で持ち切りである。

 俺が襲われた感覚は、みんなが感じていたものだったんだな。あれは脳が懸命に処理していた現象だったのか。


「俺、遠巻きながらあの人の動画撮ったんだよね。俺の動画チャンネルにアップしよー。絶対バズる!」

「やめろ、バカ! お前中学でネットリテラシー学ばなかったのかよ!」


 肖像権の侵害も知らずに動画チャンネルを管理しようとするんじゃない。とんでも発言に慌てて止めたが、間に合わなかったらしい。


「スマホ貸せ! どうやって削除すんだよ?!」

「いいじゃん、俺のチャンネルこまめにアニメ上げてんだけど全然見られないんだよねー。こう、ドカンと人が集まるような起爆剤が欲しいなって思ってたんだー」

「他人を使うな。起爆剤になるようなアニメを自分で作れ!」


「作ってるのは俺なんだよ。中学からふたりで作業分担してやってんだけど、ほんと見られないの。モチベだだ下がりよ、マジで」

「だから、他人でモチベ上げようとすんなっての!」

「お! 登録者数すげー勢いで増えてる! 早くもバズ……ってか、炎上してる! 怖っ」


 たしかに、ゾッとするような数字の増え方。机にスマホを投げ置いたから俺も二人と共にのぞき込む。


「マジだ! コメント大荒れだ! こんな捏造動画作ってないでまともなアニメの1本でも作れだの、こんな人間が存在するわけないだろ4ねだの!」

「うわ! 削除依頼まで出された!」

「もう消された! 運営、超仕事早い!」

「俺のツイもバズってる! 神作画の新作が上がったと聞いたのですがって、作画じゃねえよ!」

「あー! 登録者数がみるみる減っていく……一瞬で盛り上がって一瞬で消えた~……」


 ……なんか……都市伝説が生まれた瞬間を目撃してしまった。


 うなだれるクラスメートを見ながら、比嘉ってやっぱりすげーなって改めて実感する。たしかに、比嘉の写真だの動画だの見せられてもこんな人間いるわけないって感想しか出ねえわ。


 体だけはしっかり生身の人間っぽいけどな。

 階段上ったらえらい疲れてたみたいだった。むしろ女子の中でも体力なさそうに見えた。3階まで到達する頃には大丈夫かコイツって心配になるくらいヘロヘロになってたからな。


「なあパーマ、入学式の前にあの人としゃべってなかった?」

「パーマって俺かよ。ただのくせっ毛だよ、これ」

「パーマでもくせ毛でもいいんだよ! あの人としゃべってただろ! お前!」

「うそ?!」


 おおっと、教室中の全員が俺を好奇の眼差しで見ている。


「しゃべったはしゃべったよ」

 何の中身もない桜三中クオリティの話をな。


「お前同中だったの?」

「いや、今日が初対面。てか比嘉、遠い所から引っ越してきたらしいから、この学校に知ってるヤツなんかいねーんじゃね」

「そんな話までしたのか?! すごいな、お前!」

「すっげー! 女神としゃべるとか、お前も神か!」

「神だ! 神の降臨だ! お前は神だ!」


 神だと崇めるならお前お前言ってんじゃねえ、無礼者共が。これが日本の最底辺の高校に集いし高1たちのクオリティなのか。悲しい現実。


 俺は充里がいなくなったから必死で話を繋いだだけで、比嘉に話しかけたのは自由人なんだが……とりあえず、ひざまずく下々の者たちを椅子の上に立ち上がって見回す。悪い気はしない。


 充里が曽羽をひざの上に座らせてイチャついているのが目に入る。この事態を無視してふたりの世界に浸ってんじゃない。


「充里! この下界の人々をサッサと導け! 遊びに行くんだろーが!」

「お! そだな、まずはメシだな。マックがいい人ー?」


 やっと充里が稼働しだした。仕事しろ、言い出しっぺ。


 俺だって群れるのはめんどくさい。自分の部屋でゴロゴロしながらハマってる漫画でも読んでいたいのが本音である。だがしかし、女神サマと違って一般人の俺にとって、何事も初めが肝心。


 これからの高校生活を円満に過ごすためだ。みんなでパーッと遊びに行こう!

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