俺の歓迎会
現在5時。俺のバイト先、創作居酒屋ひろしにて俺の歓迎会が7時から催される。一旦家に帰って着替えないとな。
「俺、比嘉を家まで送って行くー」
「おー、彼氏みたいじゃん」
「だろ! 俺絶対比嘉の彼氏になるから予行練習」
比嘉が驚いた顔で真っ赤になっている。ん? どうした? 特に照れさせるようなことは言ってないが。
充里、曽羽と別れて比嘉と二人で歩きだす。
「今日俺、バイト先で歓迎会してもらうんだよ」
「歓迎会? いいわね、楽しそうなバイト先ね」
「接客業だからいろんな客がいるけど、常連が多いみたいでまあ楽しいな。比嘉はバイトしないの? 部活もしてないのに」
「私は放課後忙しいから」
まーだストーカーを続ける気か。俺が好きだって言ってんのに。そこまで心動いてないと何気に傷付くわ。
でも、告って良かった。こうして比嘉と過ごす時間を増やすことができた。
「うち、ここなの」
「へー、立派な普通の家じゃん」
知ってる。前に紳士と比嘉の後をつけて来た。
前はコソコソしてたから気付かなかったけど、門柱の上にシーサーがいる。いいねー、俺シーサー好き。かっこいい。
「じゃーな! ちゃんと勉強しろよ。メッセージ送れよ」
「分かってるわよ。じゃあね」
比嘉が微笑んで手を振り、家に入って行く。あー、かわいい。送ってきて良かった。
比嘉と少しでも長く一緒にいたいからゆっくり歩いていたが、時間がヤバくなってきた。
軽くダッシュして家に帰り、急いで自分の部屋に入る。制服からお気に入りの濃いベージュでなんか知らんがキラキラした素材のシャツとハーフパンツのセットアップに着替える。ゆるっとしてて体の細さをカバーしてくれる感じがしてこれ好き。
蓮の顔見たかったけど、この時間は風呂だな。仕方ない。家を出てひろしまで歩いて行く。
ひろしの引き戸を開けると、にこやかな店長と見たことのないバイトさんが注文を取っているようで背中を向けていた。
「みんな上にいるから、上がってて」
「はい」
みんな? この店バイトさん何人いるんだろう。
事務所のドアは開いている。話し声が聞こえる。
入って行くと、橋本さんと工藤さん、そして見たことのない小柄な男の人と女の人がいた。
「あ! 入谷くん?!」
女の人が俺の顔を見てパッと笑って聞いてくる。ほんと、この店はよく笑う人が多い。接客業だからかな。
「はい、入谷統基です。よろしくお願いします」
「有田めぐみです。よろしくね!」
「はじめましてー、時東要です」
「よろしくお願いします」
有田さんはショートカットのかわいらしい人だ。橋本さんと仲がいいのか、大きなテーブルに並んで座っている。
時東さんは芸能人みたいな名前だが黒髪で顔自体は地味だ。細くて赤いフレームのメガネがインパクトある。工藤さんとはタイプが違う塩顔イケメンって感じだな。優しそうにニコニコと笑っている。
こっち座りなよ、と時東さんが隣の椅子を引きながら座ったので素直にありがとうございます、と座る。
店長と知らない人が生ビールとジュースを持って事務所に入って来た。
「ではー、入谷くんの歓迎会をしたいと思いますー。日野くん、こちら新しく入ったバイトさんの入谷くん」
「入谷統基です。よろしくお願いします」
「日野豊貴です。よろしくお願いします」
日野さんはまたタイプが違う。時東さんは小柄でニコニコでかわいい感じ、工藤さんは背が高くクールな感じのイケメンだが、茶髪で中肉中背の日野さんは無表情でぶっきらぼうな印象だ。3人の中では一番若そうに見える。不愛想ながらイケメンではある。この店は顔で採用を決めているんだろうか。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
みんなでグラスを合わせ、一口飲むと店長と日野さんは店に下りて行った。
「土曜日なのにバイト一人で大丈夫なんですかね」
「日野くんはできる子だから大丈夫でしょ。忙しくなったら僕が下りることになってるから気兼ねなく食べて飲んでね」
時東さんが俺の前にひろしのメニューを広げてくれる。工藤さんがビールを飲みながらツッコミを入れる。
「飲ませちゃダメだよ、時東さーん。入谷くん未成年だから」
「そっか、高1だっけ。見えないね。大人っぽい」
橋本さんにも言われた。俺大人から見ると大人っぽいのかな。
「みなさんはいくつなんすか?」
「僕が最年長で26歳。でー、健ちゃん2個下だったかな」
「そうそう、24歳」
「次が私かな、22歳。日野くんとめぐちゃんってどっちが年上なの?」
「日野さんだよ。日野さんが二十歳で私が19歳」
「有田さんも未成年じゃないっすか」
「でも飲むけどね」
「めぐちゃんお酒強いもんねー」
一番年が近い人で19か。やっぱり大人の世界だな。
話を聞いてると、この店は2年前にオープンしていて時東さんと工藤さんがオープニングから、橋本さんと有田さんと日野さんも1年以上働いているらしい。
通りでみんな仲がいい訳だ。
和気あいあいと宴が進む。時東さんは店を手伝いにも行ってるからほとんど食べてないし飲んでないけど、他はみんな酒ガバガバ飲むな。
俺はジュースを飲みつつ、すでに腹ポンポンだ。
「唐揚げおかわり来たよー」
「ありがとう、時東さーん」
「時東さーん、俺ビールおかわりー」
「私レモチュー」
「はーい」
最年長ながらいじられキャラっぽい時東さんが忙しく階段を上がったり下りたり働いてくれている。
「入谷くん、絶対モテるでしょー」
「まあ、それなりっすかねー」
「入谷くんがモテないとか言うと逆に嫌味だよね」
「うん、モテてきた感じがする」
「分かりますー?」
「否定しないなあ、入谷くん」
酒のおかげか、初めっからにこやかだった女子二人と違い固い表情だった工藤さんも笑ってくれるようになってきた。
「ビールとレモチューお待たせー」
「ありがとう、時東さーん」
「時東さーん、梅酒ロックくださーい」
「はーい」
容赦なくこき使うな、この人たち。
「入谷くんもちょこっと飲んでみなよ。チューハイはジュースみたいで飲みやすいよ」
運ばれてきたジョッキを橋本さんが俺の前に置いた。未成年は飲酒ダメ絶対、だが、高校生に初めての酒を飲ませてみたい先輩の空気を感じて飲んでみる。
「あー、ほんとだ。普通に飲める。うまいっすね」
「ビールは?」
工藤さんが自分のジョッキを渡してくる。
「まず! こんな苦いもんわざわざ飲んでるんですか、工藤さん」
「俺も初めてビール飲んだ時は何がうまいのか分かんなかったわー」
「梅酒ロックお待たせー」
「ありがとう、時東さーん」
「時東さーん、カルピスチューハイー」
「はーい」
ん? 今なぜ注文した?
やってきたカルピスチューハイを橋本さんが受け取り俺の前に置く。
「レモチュー飲めるなら飲めると思うよ」
「え、俺が飲むんすか、これ」
俺未成年なんだけど、大人たちが酔っ払ってて誰も止めない。仕方ないから飲む。うん、普通にうまい。ただのカルピス。
「うまいっすね」
「おおー、飲めるんだー」
「入谷くん、一緒にチューハイ全種類制覇しようよ」
「いいっすよ」
橋本さんと競うようにチューハイを飲んでいく。俺母親似なのか見た目は全然親父に似てないけど、ゆーてもホストの息子だし全然平気。
「それだけ飲めるんなら日本酒もいっちゃう? 私も飲んだことないの。一緒に飲もうよ」
「いっすよ。俺何でも飲めそう」
「さすがー。お酒強い男の子ってかっこいいー」
「そっすかー」
橋本さんが注文した日本酒がやって来る。なんかテレビで見た節分のマスみたいなヤツの中に時東さんがグラスを置いて、デカい瓶から酒を注ぐ。
ダメじゃん、時東さん、めっちゃこぼれてるよ。酔っ払ってんのかな。時東さん、かーわーいーいー。
いつの間にか二人に分身している時東さんをケタケタ笑いながら見ていた。




