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私たちのマラソン大会

 今日は土曜日だけど、土曜授業で学年別マラソン大会が開催される。1年生が1時間目に走り、2年生が2時間目、3年生が3時間目に走って終わり。

 女子が内側のラインに沿って3キロ、男子は外側を5キロ走る。はあ、運動場に立っているだけで疲れるわ。


「なんでこんな梅雨真っ盛りにマラソン大会なんだよ! 高梨!」

「蒸し暑くてたまらんわ! 普通は冬にやるもんだろうが!」


 入谷と充里が半袖Tシャツにハーフパンツ、ビーチサンダルの体育教師・高梨先生に猛抗議をしている。私も同感だわ。


「先生の立場になって考えてみろ。俺は寒いのが大嫌いなのに冬に高校生が走ってんの見るだけなんて地獄なんだよ。お前らは走って温まっても俺は寒いんだよ。でもカリキュラムにあるからマラソン大会はしなくてはならない。他の行事との兼ね合いもある。ここしかねーんだよ」

「全部高梨の都合じゃねーか! お前が生徒の立場になって考えろ! こんなもん熱中症になるわ!」

「そこは対策をしてある。これを見ろ」


 高梨先生が内側のラインの更に内側と外側のラインの更に外側、それぞれ3か所に設置されている台を指差した。


「男女それぞれ3か所の給水ポイントを設置した。熱中症予防のため、紙コップ一杯の水を必ず飲むように!」

「腹チャポンチャポンなって走れねーよ!」

「はーい、用意ー、スタート!」

「無視すんな!」


 高梨先生がスタートの笛を吹く。1年生たちが男女に分かれて走り出す。


 ポニーテールにまとめた髪が揺れているのを感じながら走る。

 あ、もう最初の給水ポイントだ。冷たい! 熱中症対策だけあって、ものすごく冷たい水だわ。


 こんなに冷たい水を1周走るのにつき3杯も飲むなんて、私の繊細なおなかが音を上げないかしら。

 次の給水ポイントに設置されているゴミ箱に紙コップを捨て、新たな紙コップを手に取り、水を飲む。この紙コップの消費量、ものすごくもったいなくないかしら。

 各ポイントで水を入れる先生方も大変そうだわ。


「比嘉! お前すっげーフォームで走ってんな。走り切れる気がしねえけど、がんばれよ!」

「うん」


 入谷が外側のラインを走りながら私を追い越していく。もう1周走ったんだ。

 愛良も私を追い越していく。もう1周走ったんだ。愛良は運動神経いいものね。


 3杯の水を飲みながらやっと1周走った。ああ、しんどい……。


「比嘉! 1周達成おめでとう! がんばれよ!」


 入谷に返事をする元気はもうないから、とりあえずうなずく。


 懸命に走る。ツラいけど、度々私を追い抜いて行く入谷が激励してくれるおかげで気力を取り戻す。愛良はまだ爽やかに私の横を駆け抜けて行く。すごいなあ。


 やがて、体力も限界ながら冷たい水のせいでおなかが痛くなってきた。嫌な予感が的中してしまった。

 飲まないでおこうかしら。でも、高梨先生はコップ一杯の水を必ず飲むようにって言ってたわ。ルールは守らないと。


 でも、ただでさえ痛いおなかに冷たい水を飲むことでおなかがギュウっとつねられたように更に痛みが増す。


「お前ら、ちゃんと水を飲めー」

「この水、冷たすぎるんだよ! 腹壊すわ!」


 そうよね、入谷。私もそう思うわ。私はすでに壊した。


「比嘉! よろめいてっけど、大丈夫か? 無理すんなよ」


 入谷が追い抜きざまに声を掛けてくるけれど、もう顔を向ける力も残ってはいない。おなかが痛い。痛くてたまらない。


「先生! 足釣った! 棄権します!」

「先生! 足が肉離れを起こしたと思います! 棄権します!」

「お前ら勝手に休んでねえで保健室行けー。保健の先生にちゃんと診断してもらって来ーい」


 棄権か。棄権という手があったわ。私もおなかが痛いので棄権します! って先生に言おうかしら。でも、おなかが痛くてトイレに行きたいと言うのも恥ずかしい。だけど、おなかが痛すぎる。なのにまた給水ポイントがやって来る。

 震える手で紙コップをつかみ、冷たい水を口に流し込む。もうダメだ。限界。おなかが痛い。


「比嘉!」


 入谷の声がするけど、とても構っていられない。


 もう水は飲まないでおこう。もうおなかが無理。


「はい! 水!」


 え? 次は高梨先生がいる給水ポイントだ。水を飲まない生徒が多かったのか、先生自らが紙コップを手渡している。


「はい! 水!」


 仕方なく、紙コップへと手を伸ばす。どうしよう。飲まずにおなかが痛いからトイレに行きたいですって言おうかしら。倒れてしまいそうにおなかが痛い。


 倒れそう――背中にドンッと衝撃がぶつかってきた。台の上に倒れ込み、紙コップへと伸ばしていた手がコップを弾いてしまい、水が高梨先生にかかる。


「冷てえ!」

「ごめん! 先生! 俺超腹が痛くて! トイレ行って来ていいっすか!」

「おーいいぞー。むしろ漏らすなー」

「比嘉! 頼む! 俺をトイレに! トイレに連れてってくれ! 早く!」

「え?!」


 入谷が私の手首をつかむと、自分の肩で私を担ぐようにして走り出した。

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