私と友達の心理テスト
もう6月も最終週に入った。7月になるとすぐに期末テストが始まるから、最近私の専属ティーチャーからの課題が多い。
「はい、やって来たわよ」
「えらいじゃんー。さすが比嘉」
「私にできないことはないもの」
「できないことだらけだけどな」
チャイムが鳴って席に着く。待てども待てども、先生が来ない。あれ?
教室がざわめく中、体育教師の高梨先生が半袖のTシャツと短パンにビーチサンダルという涼しそうな格好で入って来た。
「鈴木先生は本日体調不良でお休みでーす。一時間目は自習~」
と、必要最低限の連絡事項だけ告げると、入谷の前の先生用の机に座ってポケットからスマホを取り出した。
「あ、あの、比嘉さん!」
「はい?」
呼ばれたので振り向くと、鎌薙くんと関くんと氷川くんが立っている。
「あの、良かったら一緒に心理テストやりませんか?!」
「よく当たるらしいんですよ! ぜひ!」
「よろしくお願いしまーす!」
「心理テスト?」
私も、女子の制服を着ている氷川くんの心理が知りたいわ。
「へー、心理テスト。何の?」
いつの間にか、私の隣の席の水無瀬さんの机の上に入谷が座っている。机に座られていいのかしら? と思ったけど、水無瀬さんは嬉しそうに笑ってるからいいんだろう。
「本当のあなたを丸裸に! あなたが異性を見るポイントは、ズバリここ!」
「異性を見るポイント?!」
「この心理テストで、あなたが恋人を選ぶ時にどこを重視しているのかが分かります。パートナー選びの参考にしてね」
「恋人を選ぶ時にどこを重視しているのかが分かります?!」
「大声でただ繰り返すだけかよ! 入谷!」
「やろーぜ、やろーぜ!」
「何やんの~?」
「充里と曽羽もやろーぜ! 心理テスト!」
入谷が鎌薙くんのスマホを取り上げる。充里と愛良も参加することになって、なんか、たくさんの人に取り囲まれて落ち着かない。
「次の5種類の動物の中から、インスピレーションで1種類を選んでください」
と言いながら、入谷が私の机の上にスマホを置き、画面をみんなに見せる。私ものぞき込むと、「うさぎ、パンダ、馬、くじゃく、カメレオン」と書かれ、イラストがあった。
この馬かっこいいわね。馬がいいわ。
でも、異性を選ぶポイントが分かるんだったわね。異性ってことはオスよね。だったらクジャクがいいな。求愛ダンスがかわいいしキレイだもの。
「俺、うさぎ!」
「俺はパンダだなー」
「私はカメレオンがいいなあ」
「比嘉は?」
「私はくじゃくね」
入谷がうさぎって意外ね。うさぎはとっても臆病でストレスに弱く繊細。本人はこの体格であの仲野を睨みつけるくらい気が強いのに。
クラスメートたちが次々に選んでいく。いつの間にかクラスのみんなが心理テストに参加している。
「結果発表~! うさぎの人!」
入谷が手を挙げながら周りを見回す。あんまりいないわね、うさぎは。
「寂しがり屋で甘えん坊さんなあなた。精神的にも幼くて相手に依存しやすいあなたが異性に求めるものは『自分の全てを肯定してくれる母のような包容力』です。未熟なあなたを導き、甘やかしてくれる人を選びましょう。どこがよく当たるってんだ! ぜんっぜん当たってねーよ!」
鎌薙くんのスマホを入谷が私の机にバシーンと叩きつける。
「やめろよ! 俺のスマホ!」
「うっせえ! こんなかすりもしねえ心理テストなんかさせやがって!」
「あはは! 実は当たってんじゃねえ? 寂しがり屋で甘えん坊!」
「入谷くんって精神的にも幼くて相手に依存しやすいんだねえ」
「正反対だわ! 俺に全部従わせてやるわ!」
「未熟なあなたを導き、甘やかしてくれる人を選びましょーね、統基!」
「やめろ、充里! 誰が未熟じゃい! 俺が導いて甘やかしてやるわ!」
意外すぎる結果ね。この心理テストの信憑性が問われるわ。入谷は強引だし、勉強見てくれるしダンスに付き合ってくれるし面倒見がいいタイプで甘やかされたいタイプには見えない。まるで当たってないじゃない。
「うさぎはハズレ! 次ー、パンダの人!」
パンダは充里含めそこそこいるかしら。うさぎよりはだいぶ多いわね。
「お人好しでサービス精神が旺盛なあなた。みんなに喜んでもらいたくて気の利くあなたが重視するのは『しっかりと自分の世界を持っている個性』です。余計な気を使わなくてもずっと一緒にいられて居心地の良いマイペースな人を選びましょう」
これは……結構当たってるんじゃないかしら。充里はいつもクラスの中心になってまとめ役を買って出てくれているイメージだわ。私にだって入学式が始まる前から話しかけてくれたし、サービス精神の塊のような子だもの。
「絶対違う! やっぱり大ハズレじゃねーか、この心理テスト!」
「なんでだよー。当たってんじゃん。お人好しでサービス精神旺盛だろ、俺ー」
「充里はやりたいことをやってるだけの自由人じゃねーか! 褒めすぎだよ、これ」
「充里はみんなに喜んでもらいたくて気が利くんだねえ」
「自分が喜びたいからやってるだけ!」
「でも、マイペースな人を選びましょうって、愛良にピッタリよね」
「それは異議なしだな。マイペースなド天然だからな」
ちょっとこの心理テストの信憑性が出てきたわね。次の結果が楽しみだわ。
「次ー。馬の人! あれ、いねーの?」
見回すと、誰も手を挙げていない。あら、私は最初に馬がいいって思ったけど、誰も選ばなかったんだ?
「じゃあ、馬は飛ばそ。くじゃくの人!」
手を挙げて見回すと、何人か手を挙げている中、サッと鎌薙くんが手を挙げた。
「鎌薙、比嘉が挙げてるの見てから挙げただろ! インスピレーションで選べって言ってんのに!」
「そっ、そんなことねーよ! インスピレーションでくじゃくがいいって思ったんだよ!」
「同じ答え選んでるよアピールですかー。やることが姑息なんだよ! ちっせー男だな」
「そこまで言うことないだろ!」
鎌薙くんがこちらを見て慌てている。これ聞いた時から思ってたけど、インスピレーションって何かしら。
「くじゃくを選んだあなたはー、天性の華やかさがあって人を惹きつける魅力のあるあなた。常に羨望の眼差しを向けられてきたあなたが異性に求めるものも『周りから羨ましがられるようなルックスの良さ』です。まずルックスが好きになれない人は恋人候補にはなり得ません。ぶわはは! 鎌薙バーカ。お前のどこに華やかさやら人を惹きつける魅力があるんだよ!」
あら、私別に異性に周りから羨ましがられるようなルックスの良さなんて求めてないけど。やっぱり信用ならない心理テストなのかしら。
「当たってるじゃん、那波ー。イメチェンしてからすっかり自信ついたもんね」
「たしかに私、ルックスのいい人が好きかも……」
「へー、そうなんだ。那波すっげーかわいくなったもんな! がんばってイケメンダンサー落とせよ!」
「だから私、落としたいダンサーはいないんだってば!」
手を挙げていたのは、水無瀬さんとか背が低いのに高井さんとか里田さんとか小田さんとか、たしかに華のあるかわいい人が多いわね。この心理テスト、結構当たっているのかもしれない。
「ラスト、カメレオンねー。カメレオンの人!」
愛良、津田くん、渡部くんなどなど、カメレオンを選んだ人たちは見た目にはバラバラね。
「とらえどころのない不思議な魅力に溢れているあなた。ただ自分の気持ちがうまく伝わりづらい面もあるため、「恋人ならではのスキンシップ」が得意な人を求めています。言葉にしなくても互いの愛情が伝わるような関係が理想でしょう。だって! 恋人ならではのスキンシップって何だ?」
「チューとかハグとかじゃね」
「おー、これに関しちゃ当たってるかもー。充里スキンシップの鬼だもんな」
「曽羽ちゃん、かわいいんだもんー」
充里が言いながらもう愛良をハグしてる。
本当にカメレオンは当たってるかも。津田くんはよく知らないけど、渡部くんは独特の感性を生かした今の動画チャンネルは好評だって前に誰かが言ってたわ。見た目にも、常に謎の言語の書かれたスカーフをしてるのがすごく不思議。私は魅力とは感じないけど、感じる人もいるのかもしれない。
愛良なんてもう、この前靴下に穴開いてたって言ってマジックで肌を黒く塗って「これで大丈夫だね」って笑ってたもの。何が大丈夫なのか分からなくて不思議だったわ。「そうか、これで眉描いたらきっと落ちないねえ」ってひらめいた顔してたから本気で止めた。
「なあ、入谷! 細田がまだ手ぇ上げてないぞ! 聞かないと! 聞かないと!」
渡部くんが細田さんを指差す。
「なーに大知、細田の異性を見るポイント知りたいのー?」
「そっ、そんなこと言ってねえだろ! ただ、みんな参加してんのに細田だけ参加してないとか、アレじゃん?」
「どれだよー。しゃあねえ、大知の代わりに聞いてやるよ。細田!」
スマホを熱心に見ていた細田さんが涙目で振り向いた。
「くだらない狂騒にボクを巻き込むんじゃない! 我が拠点で聖猫幕露萬詐亜がメシアを待っているんだ! 確かな腕を持った獣医を速やかに探さなければ!」
「獣医? 拠点ってどこ?」
「我が家だ!」
「せいびょうって何?」
「聖なる猫だ!」
「ああ、猫の名前がバクロマンサーなのね。メシアを待ってるってどういうこと?」
「今朝、突然倒れたー! わあああん」
「飼い猫が病気になったってことか! 中二病めんどくせえ!」
まあ、飼い猫が……細田さんが号泣してしまうのも無理ないわ。
「そんな泣くくらいなら休めば良かったじゃん」
「学校をサボるなんて不良な真似はしない!」
「真面目ー」
「ほ、細田! 俺すっげー腕のいい獣医知ってる! すぐに連れて行こう! きっと大丈夫だから、泣かないで!」
「ほんと?!」
渡部くんと細田さんが連れ立って教室を猛スピードで出て行く。
「あ? 今誰か出てった?」
「誰も出てってない! 全員いる!」
「そっか、気のせいか」
高梨先生がまたスマホに目を落とす。セーフ! って入谷が笑ってるけど、ごまかせるものなのかしら?




