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俺の気持ちがノンストップ

 比嘉と二人でダンスレッスンもいよいよ最終局面。明日は体育でダンスがあるから、今日のうちに完成させて自信を持たせたい。

 自信過剰なくせに、ダンスには苦手意識が強そうだった。体育で実際にできなかったからかな。さすがに、できなかったのに自信満々だったらただのバカだ。


 あの動画を選んで大正解だった。振り付けは、男子がしゃがんで両手を前に出してる時に女子は立ったまま両手を出す、次は逆に男子が立って女子がしゃがむ、そして男子もしゃがんで手を合わせて最後決めポーズ、というとてもシンプルで分かりやすいものだ。同じ振り付けを三回繰り返すだけ。

 だがしかし、あの比嘉ならばスムーズにできないだろうと読んでいた。案の定、何度も間違えて何度も手が当たる。


 初めこそ超ドキドキしたものの、人間繰り返せば何でも慣れるんだよ。徐々に手が触れることに慣れていき、偶然を装って触れるだけではなく意志を持って手を合わせることまでできた! しかも頭ポンポンもやってのけた! いやー、やったね、俺!


 緊張で死ぬかと思ったし高低差なしでは躊躇するけど、あの顔さえ見えなきゃできた! よっしゃ!

 次の目標は、顔見ながら頭ポンポンかな! うわー、できる気がしねえ!


 今日も比嘉と昼休みに階段を駆け上り屋上に出る。初日は朝に雨が降ってたから濡れてたけど、その後は晴れか曇りの日が続いている。


「やるぞ! 比嘉!」

「うん! 今日こそ完成させる!」

「できる! お前ならできるよ!」

「うん! 私ならできる!」


 自分で言うと急におかしな人になっちゃうんだけど。何言ってんの、コイツ。


 まあ、ほとんどできてるから今日できるとは思う。だって、あと最後の決めポーズだけなんだもん。異常に体が固いとかよっぽどの問題がなきゃ完成する。


 こんな1分くらいの簡単なダンスに5日もかかるなんて、マジで神は二物を与えない。てか、比嘉って神から見た目の良さしかもらってなくないか。その分、人知を超えた顔してる。ステータスを見た目女神に全振りされとる。


「最後、これな」

「二人でお猿のポーズをするのね」

「猿? ……見えなくもないけど」


 独特な目ぇしとんな、コイツ。


 すぐに完成すると思ってたけど、やはりそこはさすが比嘉。いきなりまた俺に釣られてしゃがんでしまったり、昨日はできたとこができなかったり一進一退を繰り返す。


 ……やべえな。こんな時間かかると思ってなかった。昼休みだけで仕上がるかな。


「なあ、放課後どうしても無理なの?」

「うん、放課後はどうしても無理なの」

「うーお、即答」


 よっぽど無理な理由があるのか。なんで言わないんだろ。俺も聞いてないんだけどさ。バイトだったらバイトだから、とかサラッと言いそうなものなのに。


 え、待って、まさか、彼氏がいてデートとか?


 ……可能性に気付いてしまったら、もう聞けねえぞ。しまった、気付く前に「えーなんで?」って気軽に聞いときゃ良かった。可能性に気付かないうちは、そこまで気にならなかった。


「入谷? どうしたの? 時間なくなっちゃうよ」

「あ、何でもない。よし、じゃあ次で最後だ、気合入れてやれよ!」

「うん!」


 曲を再生する。俺がしゃがむと、楽しそうに笑ってる比嘉の顔があった。慣れるとダンス自体は好きになったようで、笑顔で踊る姿はとてもかわいらしいが、今この位置で見えちゃいけない笑顔だ。


「いきなり間違ってんじゃねーよ!」


 比嘉が差し出してる両手に俺の両手をバチバチとぶつける。あ! って顔をした比嘉が慌てて立ち上がる。


「もう一回やる時間ないかしら」

「すぐやり直そう」


 急いで先頭まで戻す。比嘉と向かい合わせからしゃがみ込む。よし、比嘉の顔なーし!

 立ち上がって手を前に出し、しゃがんでる比嘉の前に再びしゃがみ込み両手を合わせ、立ち上がって決めポーズ。それを三回繰り返す。

 と、同時にチャイムが鳴った。


「できた!」

「できた!」


 チャイムが鳴り響く中、やったあ! とピョンピョン飛び跳ねながらハイタッチをする。こんな短い簡単なダンスができただけなのに、めちゃくちゃ嬉しい。すげー達成感。


「マジで苦手なことがあると、できた時の達成感ヤバいな。努力した甲斐があったってすげー思う!」

「でしょ!」


 できなかった張本人だってことを忘れさせるくらい、輝く笑顔を惜しみなく見せつけてくる。

 うわ、めっちゃかわい……。

 比嘉がこんなテンション高くはしゃいでるのなんて初めて見た。自信満々に堂々としているのが比嘉だ。


 だからこそ、こんなキャッキャしてる姿見せられたら何かが溢れて止まらなくなる。


「比嘉! 俺、俺……」


 好きだ。お前のことが、めっちゃ好きだ。


「何?」


 笑顔で首をかしげて聞いてくる。かわいい!


 かわいすぎて、もう、言いたいんだけど、言葉が出かかってるんだけど、言って大丈夫かな……。


 せっかく友達として、ここまで仲良くなれた。比嘉のことを友達だと言ったのは俺の方だ。

 ただの友達だって言われてた相手から、いきなり好きだなんてドン引くんじゃねえかな。


 最悪、嫌われたり気まずくなって避けられたりして、友達ですらいられなくなるんじゃ……。


「どうしたの? 予鈴鳴ったから教室に戻らないと」

「ああ、そうだな。急いで教室に戻ろう」


 扉を開けて校内に入る。


「あ、せっかくできるようになったからさ、教室でやる?」

「ううん。誰かに見せるために練習してた訳じゃないもの」

「そっか」

「入谷に見てもらえたから満足。入谷と友達になれて良かったわ」


 比嘉が俺の後ろから階段を下りる。普段は比嘉の背が低いから上から見下ろす形になるけど、段差のおかげで比嘉の顔が全部見えるって感じがする。かわい……!


 あー、良かった、助かった……。

 危ねえ。俺、勢い余ってとんでもねえこと言おうとしてた。ギリギリの所で冷静になれて良かった。さすが俺。


 比嘉は俺を友達だと思ってるんだから、一方的な気持ちなんて言わないのが正解だ。俺たちは友達だってことを忘れてはならん。

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