表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

235/240

私が一目惚れしたのは7歳年下の高校生

 一目惚れした男の子は、7歳も年下の高校生だった。


 あの日、いつものようにバイトしてたら突然店の引き戸を勢い良く開けて入ってきた男の子。

 泣きそうに顔をゆがめているのに、目だけはすごく強くて一気に惹き込まれた。


 体の小さな高校生なのに、相手が大きくても年上でもひるまない正義感。いかにもモテそうなのに彼女がいたことないっていうギャップ。実際、褒めたり頼ったりしたらすごく嬉しそうに笑って、彼のピュアさに怖いくらいハマっていった。


 私と彼が出会った時、すでに彼には好きな子がいた。

 でも、男子高校生なんて体の関係に持って行けば簡単に落とせると思っていた。


 だけど、何度体を重ねてもまるで心はつかめない。

 私ばっかりどんどん好きになって、そんな関係を彼が嫌がってるのは分かっていたのに彼の若さと優しさにつけこんだ。


 彼が彼女には言う「好きだよ」。

 彼女を思うだけで体が熱くなって、ギュッと強く抱きしめる腕。


 私と彼女の間にはこんなにも差があるんだって知った。

 私には見せない力強さ、愛情に満ちて落ち着いた温かい声。


 心からそれを言われる彼女が羨ましくて妬ましくて、私の方が先に出会っていればって悔しかった。


 彼が手に入ることはない。

 そう思い知らされて、だったらせめて、彼と繋がった存在がほしいと願った私は一番愚か。

 彼の子供がほしいって。


 中学の頃からノリの軽い大人とばかり付き合って、初めて子供ができた時はまだ高校生だった。

 子供を産むなんて現実的に無理で、号泣しながら、でも他にどうしようもないと決断した。


 2回目は、どうしてあんなに泣いたんだろうって逆に不思議なくらい淡々としてる自分がいた。

 病院に行って手術の日を決めて、当日はただ寝ていればいい。日帰りで終わる簡単な手術。


 7つも年下の彼に説教されて、初めて自分のしてきたことの大きさに気付いた。


 彼を宿した人が私みたいなバカだったら、彼と出会えてなかったんだって。こんなにも人を好きになることもなかったんだって。

 私の軽率な選択が誰かの人生を変えてしまったかもしれない。何より、私が消した命は彼と同じひとつの命だった。


 いいかげんに生きてきた私の元に初めて望んで来てくれた命。

 彼に責任取ってって泣いたら、真面目な彼はきっと彼女と別れて責任を果たそうとしただろう。


 だから彼の前から姿を消した。

 あの時は本気でそれが彼にとって一番いいと思ったから。まさか、そのせいで彼に大きな後悔を背負わせていただなんて思いもしなかった。


 私があの子の立場だったら、絶対に私を許せない。彼の気持ちを考えもしない、身勝手で自分勝手な願望を叶えてしまった私なんか。


 皮肉なことに、彼との繋がりがほしくて望んだ命が今の大切な家族に繋がった。

 縁って本当に不思議で奇妙でどうしてこんな遠回りにしたのか神様に聞きたい。


 私の方が先に彼と出会っていればって何度も何度も思ったけど、もしもそうでも、あの子が現れた途端、心変わりされていただけ。


 あの子は私のことも彼のことも憎んでいない。


 ただ後悔にとりつかれた苦しみから彼を救いたい一心で、あんなに怯えた様子で、たったひとりでやって来た。

 彼のためですらない。自分の願いを叶えるために。


 あの子がいるからずっと後悔を負い続ける。

 だけど、あの子がいればきっと大丈夫。統基を救えるのは私じゃない。あの子だから。


 ああいう男は大人になるにつれもっと私みたいな女が寄って来ると思うけど、がんばってね。


 自動ドアを開けて店内に入ると、暖かい空気にホッとする。


「こんにちは」


 レジのおじいちゃんに声をかける。おじいちゃんはいつものように渋い顔をしながら肉まんをホットボックスから取り出した。


「今日も来たのか。タイミングがいいから仕方ない。これ食べなさい。ちょうど温まったところだ。外は寒い」

「ありがとうございます」


 おじいちゃんがくれたオモチャで遊んでいるひ孫をのぞき込んで、強面な顔がデレデレにゆるむ。


 ふふっ。ほんと、おじいちゃんったらツンデレなんだから。

 知ってるんだよ。本当は私のこと、べっぴんで気が利く優しい器量よしのいい嫁だって思ってるんでしょ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ