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クズな俺が欲しい答え

 バイトを終え、叶を送って家に帰ると玄関に見慣れないデカい靴がある。兄貴の誰か来てんな。


 リビングに行ってみるも誰もいない。蓮はちゃんと寝てるな、ヨシヨシ。

 明日から学校ないから風呂入る前にカバン部屋に置いてこよう。


 自分の部屋から出ると、ガチャッと音がした。振り返ると親父と花恋ママの部屋から孝寿が出てくる。


「何してんの」

「探し物」


 数枚の紙のようなものをヒラヒラと揺らして孝寿が笑う。何か企んでそうな顔。


「何それ」


 サッと孝寿の手から紙を奪うも、慌てた様子はない。見せたくない訳じゃないのか。

 紙じゃなくて、プリントアウトされた写真だ。


 色白でハーフっぽいプニプニしてそうなかわいい赤ちゃんが写っている。同じ赤ちゃんの別ショットの写真が5枚。


「南紗が生まれた頃の写真?」

「統基だよ、それ」

「え?!」


 今と全然違いすぎて、自分だなんて思ってもみなかった。あ、でも。


「マジだ俺だ。この右目のあざ」

「それ何なん」

「遺伝性何とかかんとか斑つって、生まれつきのあざなの。赤ん坊の頃はこんな濃いけど、成長と共に薄くなって大人になる頃には消えるから気にすんなって小学生の時に親父に言われた」

「もうないの?」

「たぶん」


 目をつぶって孝寿に見せる。


「まだ薄っすらあるわ。成人してもまだガキだと自ら語っておる」

「語ってねえ。あざに勝手に語らせるな」


 ふーん。俺、カワイイじゃん。誰かに抱っこされてニコニコ笑ってる。これ、誰の手なんだろ。


「なんで俺の写真なんか探してたんだよ」

「マクベスさんの写真残ってねえかなって探してて見つけただけ」

「マクベスさんの写真はなかったの?」

「なかった」


 なんだ……。俺も見てみたい。俺の産みの母親がどんな人だったのか。


「孝寿兄ちゃんは持ってねえんだ? マクベスさんの写真」

「いっぱいある」

「は?」

「統基、クリスマスまでバイトだったの? 制服のまま遊びに行ってただけ?」

「制服のままクラスの連中と遊びに行って、その後バイト」

「比嘉さんほったらかしかよ」

「ずっと一緒だった。叶がいるならショボい居酒屋でバイトしてても幸せな聖なる夜さ」

「お前、何言ってんの」


 冷たー。今の外気温より冷たいわ、絶対。


「慶斗に聞いたけど、比嘉さんとパパが鉢合わせたってマジ?」

「マジ。何その兄貴ネットワーク」

「統基は入れない大人だけのネットワークさ」

「俺も入れろよ。成人済みなんだから」

「あざが語ってるだろ。まだガキだと」 

「だから勝手に語らせるな」


 叶と親父の話をしながら玄関に来るとあの日を思いだして吐きそうなるわ。

 靴を履く孝寿を見ながらため息が出る。


「どしたん」

「お前がいらんこと言うからイヤなこと思い出した」

「何々、その俺の大好物」

「マジで人間性死んでるよな」

「どーせ比嘉さん絡みだろ」


 なんで孝寿はこうも叶と俺の付き合いを気にかけるんだろう。叶に興味は特になさそうなのに。


「ここで叶襲ってたら親父たちが帰ってきてさ」

「ここで? 野獣か、統基」

「我慢できねーもんはしゃあねーだろ。ちょうど合格通知来た日だったもんだから叶も一緒に祝いの寿司食うことになって」

「地獄ー」


 孝寿は爆笑しているが、笑い事じゃない。


「叶のパパが今年いっぱい単身赴任中なんだけどさ、叶がポロッと言っちゃって。必死にフォローしてたのに叶ママが寿司好きだってこれまた叶がポロッと言っちゃって」

「お母さんもご一緒に」

「そうなんだよ」


 孝寿が腹抱えて笑っている。親父に奥さんを会わせない選択をしている兄貴たち大正解。母親にまで触手を伸ばそうとしやがる、あのクソ親父。


「しかも、花恋ママと叶ママが本格的なバリバリの元レディースだったって共通点が分かって意気投合して」

「比嘉さんのママがー? 意外。イメージねえわ」

「俺も叶もびっくりした。すげーおっとりした人なのに」

「ゆーて花恋もフワフワした雰囲気よな、今は」

「うん、一度弾けると真逆に行くものなんかもしらん。叶ママ泥酔して二人して泊って行ったの。俺めっちゃ欲求不満なのに同じ屋根の下に叶がいながらひとり寂しく寝るはめになったんだよ」


 うわあ~、とさすがに孝寿も同情のうめきを上げる。


「統基かわいそー。この家無駄に広くて部屋余ってるもんなあ」

「それな。誰も泊りになんか来ねえのにちゃんとベッドやらローブやら無駄にそろってるもんだからさあ」

「ちょっとしたホテルよな。無駄すぎ」

「マジで無駄」


 孝寿にグチってちょっと気が楽になった。悶々としてねえで人に話すのって大事。


「しかし、親同士まで交流しだしたか。このまま結婚する気?」

「言っただろ。俺は孝寿兄ちゃんと違って焦ってねえから結婚なんかする気はない」

「クズのくせにクソ真面目。中途半端だな、バーカ。答えを持ってるのは統基じゃねーよ」


 え……。

 言葉を失った俺を孝寿が珍しく真顔で見る。


「……答えって何だよ」

「何でしょう」

「どうせ教えてくれねえんだろ」

「俺答え教えるの嫌い」

「知ってる。ヒントは?」

「今回は統基にヒント教えない」

「ヒントもナシかよ、ケチ」


 わっけ分かんねえな、コイツ。


「俺は選択肢を持ってるのが片方だけってのはフェアじゃないと思うの」

「は? 何の話?」

「俺、フェアプレーを愛するスポーツマンだから。恨みっこナシね」

「マジで何の話?」

「じゃっ! 俺愛する妻と子供の元へ帰るわ」

「愛するもんがいっぱいあっていいっすな」


 フッ、といい笑顔で出てったけど、皮肉だよ。


 ……クズのくせに――言われなくても分かってるよ。俺はクズだ。

 中途半端なのも分かってる。いちいちムカつくな、あいつ。どれだけ俺の心を読んでんだ。


 純真無垢に俺を信じてくれてる叶に隠し事をしたまま結婚なんて考えられる訳がない。

 だけど、言ったらきっと叶を傷つけ悲しませる。俺にはできない。


 言わずに進めない。だけど言えない。


 俺だって本当は今すぐにでも結婚したい。結婚じゃなくても何でもいい。叶がずっと俺のそばにいてくれるって信じられれば何だっていいんだ。


 いつまでこんな叶を縛るような付き合いを続けて許されるんだろう。


 そうだよ、俺は答えを持ってない。どうすればいいのか分からない。ただ、叶を失いたくないだけなんだ。

 孝寿には分かってんのかな……俺のほしい答えが。

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