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俺と行こう

 比嘉の様子がおかしい。

 日直だったのは昨日なのに、教室に入るなりまっすぐ黒板へと向かい何も書かれていないにも関わらず黒板消しをかけている。


 ……何やってんだ、あいつ。カバンくらい机に置けばいいのに、重くねえのか。


 俺の席は窓際の一番前なので、比嘉の奇行がよく見えている。カバンにぶら下がってるマスコットがゆらゆらして、目に入る。


「比嘉、アザラシのマスコットなんかカバンに付けてたっけ」

「あら、本当。いつの間に付いたのかしら」

「え? 比嘉が付けたんじゃねえの?」

「えーと、そうだったかしら。どうだったかしら」

「お前わりとマジに頭大丈夫か」


 勉強面で大丈夫じゃないのは知ってるが。

 美しい狂人は何やら笑顔で自分の席へと歩いて行く。


 様子がおかしかったのが気になって、立ち上がる。まだ来てない充里の席に座り、足を組む。箱作充里の席は比嘉叶の前の席だ。

 比嘉の机の上に置かれたカバンのマスコットを触ってみる。フニフニしてて奇妙な材質だ。でも、丸っこくて大きな目がかわいい。


「かわいいじゃん。これどこで買ったの?」

「水族館よ。前の家はわりと水族館が近かったから、家族で行った時に買ってもらったの」

「いいなー。俺水族館行ったことないんだよね」

「この辺りにはないの?」

「あるっちゃあるんだけど、終点まで行くの。電車で1時間半くらいかかるんだよ。車だと3時間以上かかる。繁華街を通るから渋滞に巻き込まれるんだよね」


 で、短気な所のある親父が渋滞嫌いだから、連れて行ってもらえなかった。友達と行くには水族館は入館料が高い。


「比嘉ってまだこの辺あんま知らない感じ?」

「そうね。引っ越して来てから学校と聖天坂にしか行ってないから」

「あー、日本で一番の高級住宅地だから見てるだけでもおもしろいよね。変な凝った家も多いし、デカい家ばっかで海外の映画の中に紛れ込んだみたいでさ」

「へー、そうなんだ? あんまり家は見てなかったから」

「何見てんの?」

「えーと、人かしら」

「金持ちってひと目で分かるジジイ見て何がおもしろいんだよ」

「わざわざジジイは見ないわ」


 お、この辺をあまり知らないんなら、俺も下山手は高校に入って初めて来たくらいだし、知らない者同士俺と一緒に街探検しよーぜって誘ったら乗って来ねえかな。

 自分が住む街を知るって大事だし興味あるんじゃねえかな。断られ辛そうだけど……。


「入谷はこの辺詳しいの?」

「俺も詳しくない! だから、あのさ」

「じゃあ、案内してもらうってわけにもいかないわね。愛良はずっと下山手に住んでるみたいだから街案内を頼んでみる?」

「案内かよー……」

「え?」


 諦めろ、と言われているかのようなタイミングでチャイムが鳴る。無言で立ち上がり、アザラシを最後になでて自分の席へと戻る。


 あー、比嘉に先制される前に【街探検】って単語を出せば良かった! あの一瞬の迷いが悔やまれる!

 くっそー、なんで街探検ごときであんな迷ったりしたんだ!

 ふがいない自分にイライラして、自分で自分の頭をわしゃわしゃにしてしまう。


「今日は、新入生の皆さんに下山手高校を知ってもらうため、学校探検をしまーす」


 教室に入って来た担任女教師りんりんが言う。

 学校探検って、小学校か。しかも、なんで入学して1カ月以上が経ったタイミングなんだよ。だいたいもう知ってるよ。


「下山手高校の恒例行事で、2年生3年生が全力で皆さんを楽しませてくれます。その名も下山手パーク、略してSYTPです。SYTPは二人一組でまわります。皆さん、自由に二人一組になってくださいー」


 二人一組だと?!

 さっきの失敗を活かすべき! すぐさま行動だ!


 みんなが席を立ち動き始めようという中、比嘉の方を振り返る。比嘉はこちらを見て座っていた。

 得意の瞬発力を発揮して、机の間を超スピードですり抜ける。


「比嘉! 俺と行こう、SYTP!」


 勢いに気圧された様子の比嘉だったが、うれしそうに笑うと言った。


「うん! 行こう、スワイテプ!」

「エスワイティーピーな。どんな聞き間違いだよ。お前、耳も大丈夫か」


 よし、勢いに乗せて比嘉ゲット! 二人一組、学校探検を全力で楽しませてもらおう! 比嘉と微笑み合う。


 さっさとSYTPに行きたいのに、なかなか二人一組が決まらない。あーもう、早くしろ!


 残っているのは、三人組の鎌薙、関、氷川が誰があぶれるか決めかねているのと、同じく三人組の穂乃果、恵里奈、背が低いのに高井結愛。後は普通にぼっちの津田と真鍋(まなべ)琉星(りゅうせい)、そして、阪口と釘城と一匹狼の細田莉奈。


「まどろっこしいから俺が決める! まず、阪口と釘城は素直にペアを組め! で、ずんぐりむっくりしてる同士で鎌薙と津田! 背が低い者同士で結愛と真鍋! あとは適当に恵里奈と細田! 残りの関と氷川と穂乃果! はい、二人一組完成!」


 強引にペアを作りそれぞれにスタンプラリーの台紙を渡す。


「ではみなさん、楽しんで来てくださーい! 1年1組の25人、SYTPスタート!」


 どうせなら、ペアになったら手を繋いで回りましょう、とかのルールがあればいいのに。他の子ならスタートの声と共にノリで手を握っていたと思うけど、比嘉になんて触れられるはずもなく、静かに俺たちのSYTPが始まった。

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