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統基の卒アルは地雷がいっぱい

 統基の家は外見も大きいけれど中もものすごく広い。玄関だけでもうちの客間くらいある。

 リビングに通され、入ってすぐ右手に大きなダイニングテーブルがある。分厚くてとても重そう。高そうな椅子とテーブルだなあ……。


 リビング半分くらいがソファスペースで、大きなソファが真ん中のテーブルを囲むように3つ、正面には大きなテレビがある。


 お父さんが有名人だとは聞いてたけど、思っていた以上にすごいお金持ちだわ。全部のサイズ感が大きい。

 でも、物は少なくて片付いている。なんか、シンプルでホテルみたい。


「広いだけでつまんねー家だろ。母親が生活感あるの嫌がるんだよ」

「ああ、それでホテルみたいなんだ。キレイなおうちね」


 黒髪で短髪のメガネをかけた穏やかそうな紳士がソファを指し示す。


「どうぞ、座って。統基の兄の亮河です。よろしくね」

「比嘉叶です。よろしくお願いします」


 身の危険を感じたヒョウモントカゲモドキの鳴き声みたいだわ。見た目は紳士なのに声かわいい。


「俺も統基の兄の慶斗。統基の彼女がこんな清楚系だとは予想外だわー」

「ケイと言ってたもんね。統基の彼女だったら当然のようにギャルだろうなって」

「え?」

「あ、俺、統基の兄の悠真です」


 兄? え、兄3人目? 弟さんもいるのに、男ばっかりなのかしら。


「比嘉さんの隣とーった! 俺、統基の兄の孝寿! 塾講師のバイトしてる大学生」

「あ! 何度もお世話になってました。ありがとうございます」


 兄4人目! びっくりだわ。統基ってこんなに兄弟多かったんだ? 普段弟さんの話ばかりで、まさか4人もお兄さんがいるとは思ってもみなかった。


「コレあげる。さっきコンビニで見つけたの。ボクとおそろいなんだよ」

「かわいい」


 丸っこいトラさんのキーホルダーを受け取る。寅年だからトラなのかしら。ちょうど自転車の鍵に付けるものが欲しかったから、さっそく付けてみる。


「ピッタリだわ。ありがとう。蓮くんだよね」

「うん! よろしくね、お姉ちゃん」


 お姉ちゃん!

 かわいい弟ができたみたいでとても嬉しい。


「初手でプレゼントとかやるじゃん、蓮。奈子ちゃんに言いつけてやろ」

「奈子ちゃんにも同じの買ったんだ。お年玉もらったからお金使いたくてしょうがないの」

「いきなり散財しないで、計画的に使わないとダメだよ、蓮」

「いーじゃん、いーじゃん。金はある時に使わねーとない時には使えねえんだから」

「お前にも言ってるんだよ、ケイ」

「おい、お前ら俺がトイレ行ってる隙に叶に変なことしてねーだろうな」


 統基、トイレ行ってたんだ。怖い顔して私の隣に座る。


「統基はお兄様を何だと思ってんだ」

「クズ」

「ひっでー。俺だって未成年と客にだけは手を出さねえの。リョウが超厳しくチェックすんだもん」

「ケイを野放しにしたら絶対に問題起こすから当然のチェックだよ」

「必要必要」


 あははは! とみんなで笑っている。いいなあ、何の話か分からないけど、揺るぎない関係があるから何でも言い合える安心感みたいな。私もきょうだいが欲しかったわ。


「僕そろそろケーキ作るよ。アレルギーある?」

「ないです、大丈夫です」

「良かった」


 優しく笑って、一番年上そうなお兄さんがキッチンへと向かう。まるで似てない印象だったけど、統基が目を細めて笑った顔によく似てる。


「なんで統基なんかと付き合ってんの? もっと誠実でまともな男が他にいくらでもいるのに」

「俺が不誠実でまともじゃねーみたいに言うんじゃねえよ」

「否定できねーだろうが。比嘉さんならもっといい男と付き合えるのにもったいなー」


 女優さんみたいなお兄さんが意地悪に統基を睨みながら笑う。わー、さすが兄弟。目つきの鋭さが統基とよく似てる。


「そんな、私なんて友達もできなかったくらいで」

「あー、分かる。顔が良すぎるとみんな一歩引いてっちゃうんだよね」

「サラッと自分の顔を良すぎるとか言っちゃってんじゃねーよ。恥を知れ」

「事実だから」


 あごに手をやってポーズを取るお兄さんがすごくキレイ。ポーッと見ていると、こちらを向いて笑った。


「ねえ?」

「ええ、本当にキレイですね」

「付き合わなくていいから、叶」

「比嘉さんも付き合わなくてもいいんだよ」

「どうゆう意味だよ、孝寿!」

「呼び捨てすんな。そのまんまの意味」

「叶、俺の部屋行こう」


 統基が私の腕をつかんで立ち上がった。

 え、どうしよう。お兄さんを見ると、笑って手を振っている。あ、行っていいのかな。


 階段を上がって、すぐ右手の部屋に入った。統基の部屋はあのリビングダイニングほどの広さはない。私の部屋よりも少し広いかな、くらい。


 でもベッドが大きい。大きくてシンプルな学習机に、壁一面の本棚には漫画がギッシリと詰まっている。


「すごい。漫画喫茶できそう」

「だろ」

「たしかに、これだけあれば何日も徹夜で読めちゃうね」

「は? あー、あー……だろ」


 統基が部屋の真ん中の黒い縦長の物をカチッと言わせると、赤く灯ってみるみる部屋が暖かくなっていく。


「すごいわね、このストーブ」

「俺のお気に入り」

「部屋もキレイにしてるのね」

「まあね」

「自分で掃除してるの?」

「他にしてくれる人なんかいねーもん」


 そっか……やっぱり統基はしっかりしてるなあ。私は掃除もママ任せだわ。反省……


「あ、卒アル。見ていい?」

「卒アル? あー、いいけどおもしろい写真なんかねえよ」

「へえ、真面目な生徒だったの?」


 言いながら中学校の卒業アルバムをめくると、表紙裏にマジックで大きく大チュキとハートがたくさん書かれている。


「あ……なんか、女子が悪ノリしやがってさー。ひっでーよな。人のアルバムを何だと思ってんだか」


 表紙めくっただけで陽キャ感がすごい。私のアルバムなんて、最後の寄せ書きコーナーすら無地なのに……。


「何組?」

「3組だったかな」


 ベッドに座らせてもらって、ひざに卒アルを乗せる。統基も隣に座ってのぞき込んでくる。


 3組……入谷統基、と書かれた上の写真には、今の統基よりも少し髪のクルクルが大人しくて今よりは肌の白い大きな目のかわいい男の子がムスッとしている。


「この時、機嫌悪かったの?」

「何かあったっけ? あ! 思い出した! 順番待ちしてる間ヒマすぎて遊んでたら超怒られてさ、いざ撮る時になったら笑えって言われて、さっきまで笑ってたのに邪魔されたんだよって謎の対抗心で笑わなかったらそのまま使われちゃったの」

「ふふっ」


 統基らしい。見た目は結構変わってるけど、中身は変わってないのね。


「充里も佐伯もちゃっかり笑ってんだよなー」

「ほんとだ。二人とも変わってないね。統基はだいぶ変わったのに」

「そう?」

「なんか、改めて見ると入学式で初めて見た時よりクルクルが強くなってる気がする。肌も黒くなってるような?」

「マジでー。まだ成長期継続中なんかな」

「成長期で天然パーマや肌の色が変わるって珍しいよね」


 いきなり口に口を付けられて、びっくりした。


「急……」

「だーって、ジーッと顔見てくんだもん」


 顔に熱が集中していく。すねたような統基がかわいい。


「さっき孝寿の顔ポーッとして見てただろ」

「あ」

「孝寿がキレイな顔してんのは認めるしかねーけど、俺けっこー傷付いたかんな。どーせ俺の顔はこんなだよ」


 え、もしかして本当にすねてるの? 統基が?


「やだ、かわいい」

「何がだよ」


 えー、嘘。学校では統基が誰かに負けたと思ってすねることなんてまずない。なんてかわいいの。今日来て良かった。


「ふふっ」

「笑ってんな」


 不機嫌そうな統基とは反対にすごく楽しい。ページをめくっていくと、一泊移住や修学旅行、文化祭などの行事の写真だ。


「いっぱい写ってるわね」

「あー、充里とか写りたがりだからネ」

「統基もでしょ」


 すごい……ザ・陽キャ。楽しそう。いいな。私も中学時代に統基と出会いたかった。


 寄せ書きコーナーには隙間なくたくさんのメッセージが書かれている。


「めちゃくちゃ告白されてる……」

「あー、ただのノリだよ、ノリ。入谷にはこーゆーメッセージ書いときゃいいや的な」


 ノリでこんなメッセージ書けちゃう女の子が周りにたくさんいたんだ……中学時代に出会ってたって、とても仲良くなれた気がしない。

 誰とも話すことなく終えた中学3年間。自分と違いすぎて、なんか、もう……。


「叶? どうしたの?」

「どうして、統基が私と付き合ってるんだろうって思っちゃって。私でいいのかなあって……ねえ、私といて、つまらなくない?」


 思い切って顔を上げると、ガバッと抱きつかれる。


「マジかわいい。つまんねえワケねーだろ。叶じゃなきゃダメなんだよ。他の誰でもイヤなの」


 嬉しい……泣いちゃいそう。

 統基が私の頭をポンポンと叩きながら目を細めて笑った。


「いいかげん分かって。俺は叶がめっちゃ好きなの」


 分かって……。


 分かってたはずなのに、なぜか不安になってしまった。どうして、好きな人の言葉なのに信じられなくなっちゃったんだろう。

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