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私は妖怪・タカネの花子さん

 次は、化学だ。化学室に行かないと。化学の教科書とノート、筆箱下敷きを持って愛良と教室を出た。


「あ! 比嘉! 曽羽! こっちこっち!」

「え?」


 声の方を見ると、廊下で里田さん、背が低いのに高井さん、小田さんに囲まれた入谷が手招きしている。


「どうしたの?」

「どうせ行き先は同じ化学室なんだから、一緒に行けばいいだろ」

「うん、そうだねえ」


 綿菓子みたいなフワフワした声で愛良が笑っている。

 そうかなあ。別に、行き先が同じだからって一緒に行く必要はないんじゃないかしら。実際、そう言った入谷自身も私たちと一緒に行くでもなくもう男子たちの輪に入っている。


「化学室って新校舎だっけ?」

「そうそう」

「何階だっけ? 3階? 4階?」

「あれー? 分かんない、覚えてない」

「あ、よ……4階!」

「4階かあー。新校舎とこっちとどっかで繋げて欲しいー」

「そうだねえ」


 しゃ……しゃべれた!

 良かった、毎日来た時と帰りに校舎入り口にある校内図を見ていて本当に良かった! 自信があったからすかさず言えた!


「穂乃果! 入谷に告ったってマジ?」


 同じクラスの深沢(ふかざわ)友姫(ゆき)さんと吉永(よしなが)あむさんが駆け寄って来た。

 え? こくった?


「マジー。下山手高校のラスボスの前に撃沈だよー」

「何、ラスボスって」

「こないだ2組の舞香(まいか)が言ってたの」

「あー、舞香も入谷にフラれたんだよね」

「誰にも攻略できないから、ラスボス」


 ああ、告った。告白したってことか。え、入谷二人も告白されてるの?!


「なんでモテるのに彼女作んないんだろうね?」

「そりゃー、大好きな幼馴染がいるからよ」

「あ、なんだっけ、7組の変わった名前の子でしょ。関西弁の」


 ああ、ツインテールの子か……入谷の友達だろうとは思ってたけど、幼馴染だったんだ。仲がいいはずよね。

 やっと階段を下り終え、一旦中庭に出て新校舎に入る。


「え? 知らない。私は充里のことを言ってたんだけど」

「充里! あはは!」

「でもさ、充里の方がだいぶ体デカいじゃん。入谷が受けってあり得なくないー?」

「あり得ない!」


 爆笑してた里田さんたちが、あ、と愛良の方を見た。


「ごめん、曽羽さん。彼氏を勝手にBLの世界の人にしちゃって」

「うん、ちゃんと充里と入谷くん、仲いいよ」

「え? あ、そうなんだ? ……え?」

「充里じゃないにしてもさ、好きな子がいるのかなあ」

「でしょー。好きな子がいなかったらとりあえず付き合うんじゃない?」

「だよねー。これだけ断ってて誰が好きなのか気になるよね」

「女子総当たりで告って炙り出しちゃう?」

「学校の中にいるとも限んないじゃん」

「あー、そっかー」


 みんな、どうしてあんな速さで階段を上れるのかしら。ペースについていけなくて、話し声が聞こえなくなってしまった。


 やっと化学室にたどり着くと、すぐにチャイムが鳴る。間に合って良かった。ああ、疲れた。


 教室と同じ席順だから、人の間から入谷の後ろ姿が見える。

 入谷、モテるんだ……。好きな子かあ。いるのかしら。入谷に好きな子なんて。


 化学の授業の間中、入谷を見ながらずっと同じことを考えていた。


 教室に戻ろうと廊下を歩いていると、開け放たれた前のドアから入谷が後ろの席の小田さんと笑ってしゃべってるのが見える。

 ……小田さんが好きなのかしら……。


 人の多い休み時間の廊下でボーッと教室の中を見ていたものだから、歩いている人とぶつかってしまった。


「あ、ごめんなさい」

「わりー、わり――比嘉さん?! ごめんなさい! 決してわざとじゃなかったんです! 本当です! すいませんでしたあ!」


 ……ちょっと肩が触れた程度なのに、ものすごい勢いで走って行ってしまった……。


 教室に入って入谷を見ると、小田さんの姿はなく今度は男子たちと5人くらいで話している。本当にみんなが友達って感じだなあ、入谷って。

 あ、そうだ、ドリル。土日の間にちゃんとやったから、入谷に見てもらおう。


 入谷は椅子の上であぐらをかいている。周りの男子たちは立ってるから、近付いて行っても全然気付いてもらえない。

 どうしようかしら……。


「すごいよな、入谷」

「マジで。比嘉さんってマジでリアル高嶺の花子さんじゃん、マジで」

「よく平気で話しかけるよなあ」

「僕いまだにひと言も会話できてねえんだけど」

「俺も俺も。緊張しちゃってさあ」

「ぶわはははは!」


 ……タカネの花子さん?

 って、何だろう? トイレの花子さんしか思い当たらない。


 トイレの花子さん。小学校のトイレに現れると言われる、女の子の妖怪。


 ……妖怪扱いされてしまっている……。

 そうか、だから、さっきちょっとぶつかっただけでも呪われると思ってあんなに必死で逃げて行ったんだ……。


「ぶわっはははは!」


 入谷が爆笑しながらまたヤンキーみたいに机の上に座る。本当に楽しそうに笑っている……。

 入谷も、私を妖怪だと思ってたのかしら。


「お前ら全員、見た目に囚われすぎなんだよ。話してみたらあいつ――あ、比嘉! ああ、ドリルちゃんとやっ……」


 入谷と目が合ってしまって、クルリと後ろを向いた。

 ……涙出そう……。


 ドリルを手に持ったまま、急ぎ足で廊下へと脱出。とりあえずトイレにでも行こう。私、花子さんだし……


 突然、後ろから誰かに手首をつかまれてびっくりした。思わず振り向いたら、入谷が見たことない真剣な表情で私を見ていた。

 痛いくらい、しっかりとつかまれている。


「……私に……触っても大丈夫なの?」


 私に触れてしまっても逃げない。入谷は、私が怖くないの?

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