俺たちのロミジュリ
「充里、1カ月バイト代わってくれ」
「さすがにひどくねー」
「比嘉さんと過ごしたいんだな、入谷。かわいそうに」
「代わってあげなよお、充里」
充里の机に手をついて頭を下げる俺を友人たちが援護してくれる。ありがたい!
「じゃあ、曽羽ちゃんも一緒にバイトしよー。バイト代半分こしてさー」
「うん、いいよー」
バイト代半分こって何だよ、自由人が。
「文化祭当日には比嘉さんはおらんのやろ。ジュリエットの代役誰にするん?」
「代役は立てない。叶と練習して、本番だけお前が2公演でジュリエットやってくれ、あかね」
あかねがニヤリと笑う。
「お前、普通に標準語しゃべれるだろ、エセ関西人」
「誰がエセ関西人や!」
「おはよう」
叶が登校してくると、クラスメートみんなが若干憐れむような目を向ける。
「やっと来たか! 練習すっぞ! 絶対にロミオとジュリエット3公演を成功させる!」
「おー!」
俺が拳を振り上げると、嬉しそうに叶も続く。
「お……おー!」
「やるか!」
「本番までもう1カ月切ったんだもんね!」
みんな、変な気は使わないでくれ。俺も叶も、本番に叶がいないことは忘れて、全力の全力で練習する!
「比嘉さんが1年もいなくなるなんて……」
空気の読めないゴリラが目に涙を溜めてつぶやいた。その背中を上靴で踏みつけ体重をかける。
「マザゴリには1ミリも関係ねえんだよ! お前は黙って曲作ってろ!」
「曲?!」
「いい脚本書きやがったご褒美だ。公演最後に歌わせてやる」
「ありがとう!」
仲野はマジで一晩で3つものシナリオを書き上げた。しかも、俺が適当にこじつけたコンセプトをちゃんと盛り込み、子供向け、コメディ、ハッピーエンドのラブストーリーでかなりの完成度。文句のつけようがない。
俺たちのロミオとジュリエットは、途中までは本家と同じ。
俺、ロミオが舞踏会に紛れ込んで叶演じるジュリエットと出会い、恋に落ち、定番のどうしてあなたはロミオなの、をやる。
駆け落ちに踏み切った俺たちは、充里神父の元で結婚式を挙げるが、俺の親友役の行村が殺され、俺は犯人である仲野を殺す。
配役も仲野に任せたというのに、俺に殺される役を自らにあてがうとか超気持ち悪い。
俺は街から追放され、叶の両親が勝手に婚約者を決めてしまい、追い詰められた叶は充里に相談。
ここで、充里神父は仮死状態になる薬ではなく、トキメキ☆急行列車の切符を叶に渡し、俺の切符を使いの者・曽羽に託す。
無事に切符を受け取った俺は街のヤツらに見つからないように駅へと向かい、汽車の陰に隠れながらまだかまだかと叶を待つ。
両親や婚約者の妨害にも負けず、発車のベルが鳴ると同時に現れる叶。
汽車に乗り込み、振り返って走り始める車内から叶へと手を伸ばす。
「ジュリエット!」
俺の手を取り、無事に乗り込む叶。
「来てくれてありがとう、ロミオ」
「本当に俺でいいのか、ジュリエット。俺は敵の家の男、俺を選べば君の両親が悲しむというのに」
「私が生きていく場所はあなたの隣です。永遠の愛を誓ったでしょう」
「ジュリエット!」
固く抱きしめ合う二人。
「二度と君を離さない」
「愛しています。永遠に」
「こうしてロミオとジュリエットは、遠く離れた未開の地で天寿を全うしました」
「なあ、最後のナレーションいるか?」
「いのちだいじに、とのメッセージを伝えたい。必要だ」
「マザゴリがそこまで強いこだわりがあるって言うならいっか」
このゴリラが生み出したとは思えぬクサいほどラブストーリーなエンディング。
「何百回と繰り返したおかげでスムーズに言えるようになったな」
「そうね、もう何も考えなくてもセリフが出てくるわ」
叶はセリフ覚えが悪い上に、照れまくって「愛しています」がまるっきり言えなかった。
よくぞこのセリフを入れた。マザゴリ、グッジョブ!
「これ小柄な比嘉さんだから引けるけど、明日阿波盛乗せて引けっかなあ」
汽車役の緑川と和中が叶とあかねを見比べて不安に顔を曇らせる。
汽車は段ボールを積み上げて作られており、動力は人力である。
「ぶっ殺されたくなければ、引け! 力の限りを尽くせ!」
ラストシーンなのに腕力不足で汽車が動かねえとか台無しだ。
「これもう、大成功間違いなしだな!」
「プロの役者より練習したと思う」
「それな」
「片付けて帰るか!」
叶も着替えてジュリエットの衣装を俺のロミオ衣装の隣に置いた。わずかに口元だけ笑いながら衣装を見ている。
「まだ残ってたのか。他のクラスはとっくに真っ暗だっつーのに。鍵閉めるからサッサと出ろ」
「今帰るとこだったんだよ!」
高梨が鍵束をクルクル回しながら急かしてくる。
教室のドアを閉め鍵をかけると、叶に向かって高梨らしかぬ微笑みを見せた。
「元気でやれよ、比嘉。また1年後!」
「また来週! のノリじゃねーか!」
あははは! とみんなで笑って教室を後にする。
「ブルックリンって結構有名な都市なんだすなあ」
「あのニューヨークにある街なんだもんね」
「比嘉さん、明日からニューヨーカーかあ。カッコいいー」
うちのクラスの女子カーストトップの3人、穂乃果、恵里奈、結愛が叶を取り囲む。羨望の眼差しで見られた叶が戸惑って笑っている。
正門をくぐると、クラスの半分とはここでお別れだ。
「また1年後ね、比嘉さん。立夏がお土産楽しみにしてるって伝えてって」
「アメリカには白疾風の魔導士と呼ばれる大物がいる! せいぜい気を付けることだ!」
「比嘉さん! あのっ、お元気でお過ごしください!」
「ありがとう。みんなも元気でね」
優夏、細田、なぎさが叶に駆け寄る。
ちょっと寂しげではあるものの、叶は笑顔で手を振った。
「比嘉さん! しばらくは時差ボケとか大変かもしれないけど、がんばって! 応援してる!」
「カッコいいアメリカ人いたら連れて帰って来てね~」
「悪い人に気を付けてね、比嘉さん」
「ええ、ありがとう」
へえ、まだ向中島、吉永、実来とも仲良くやってんだな。修学旅行だけの一時の付き合いだけじゃなくて。
3人連なって角を曲がって行く。
「比嘉さん! 俺、比嘉さんが帰ってくるの良い子で待ってるから!」
「ええ。ありがとう、仲野」
叶が微笑むと、仲野が涙目で俺の手を握った。
「見た?! 比嘉さんがニコッて! 俺にニコッて!」
「見た。気持ち悪い、手を離せ」
「ふーん。結局、比嘉さんがいいんだ。比嘉さん、体に気を付けてね。また1年後に」
「ええ、また」
友姫が仲野をひと睨みして手を振って歩き出す。
「あ! 待って、友姫!」
慌てて仲野が友姫の後を追う。あいつら、聞けば付き合ってはないとは言うけど、付き合ってるようなもんだろ。
「比嘉さん、俺前にブルックリンのダンボで撮影してさ、すげーいいとこだったからオススメ。おしゃれなショップもたくさんあってさ」
「そうなんだ。行ってみるわ」
行村、海外ロケとかやっとんのか。マジか。芸能人じゃねーか。
「ダンボと言われると、ゾウしか出てこないなあ。あれってディズニーだったっけ? ジブリだったっけ? どっちにしろ映画を見たことがないからよく知らないけど、ゾウが空を飛んでた気がする。比嘉さん、お元気で。慣れないうちは大変だと思うけど、がんばってね」
「え……ええ、ありがとう」
どーでもいい情報までいちいち声に出すんじゃない、長谷川。
行村と長谷川も手を振り別れていく。残るは、桜町に住まいし俺、充里、佐伯、あかね、下山手の叶と曽羽。
「明日から比嘉さんがいないなんて寂しくなるなあ。せっかくかまずにあいさつできるようになってきたのに」
「成功率10%はできるようになったとは言わん」
佐伯が俺をムゥ、と見ると叶が苦笑いする。
「比嘉さんが帰ってくるまで、うちが入谷の彼女ポジションは守っといたるから安心して行っといで」
「彼女ポジション?」
「そや。誰かが彼女ポジにおらな、入谷またモテるやろ。ええねんええねん、うちと比嘉さんの仲やん、礼はいらんで」
まーた、あかねはめちゃくちゃなことを。
「俺の彼女ポジは永遠に叶で埋まってるからお前なんかいらねえ」
「さやから、人除けやって」
「いつもありがとう、統基の幼馴染さん」
「阿波盛あかねや。ええかげん覚ええや」
桜町に帰って行く佐伯とあかねも去って行き、俺と叶と充里、曽羽の4人になった。
「今日は充里、曽羽ん家?」
「うん。最近毎日曽羽ちゃん家でメシ食わしてもらっててさー」
「すっかり親公認だな」
「うちの弟とも充里すごく仲がいいの」
「曽羽、弟いたんだ?」
「うん。来年も1組はクラス替えがないといいねえ」
話のぶっ飛び方よ、ド天然。
「どうせ高梨のことだから真面目に仕事しなくって変わんねえよ」
「またクラス減ってたら笑うなー」
「とうとう2組に!」
「元は何組まであったんだっけ?」
「たしか、7組かなあ」
「やべえ、すでに半分以下になってんじゃん」
「半端ねえなー、さすが下山手」
「日本の最底辺」
ぶわはは! と俺たちが大声上げて笑うのと一緒になって、叶も笑う。
こういう、いつも通りな感じがいい。
1年の時はずっと、この4人で毎日つるんでた。2年になったら佐伯が増え、2学期からはあかねも加わった。
卒業まで、ずーっとこんないつも通りが続くもんだと思って疑ってなかった。
まさか、一時的とは言え離脱する者が現れるとは。




