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俺の彼女を作れない問題

 私のことも友達だと思ってるの? と来たもんだ。


 さすが、神がかった美人は言うことが違う。

 同じクラスになったくらいで私を友達だと思ってくれるな、と。だがしかし、俺はあえて立ち向かった。結果、あれから何か胸がモヤモヤしてしょうがない。

 比嘉がうつむいてなぜか悲しそうな顔をしたから、とっさに友達だと言ったら一転、満面の笑みを見せた。


 比嘉が俺に全く興味を持ってないのは分かってたつもりだったけど、友達だって言ってあんな笑顔されるなんて、脈ナシにも程があるよな……。


 なんで俺へこんでんの。意味が分からん。


 俺もおかしいが、最近、比嘉もおかしい。

 あんなに堂々とした雰囲気をまとい人を寄せ付けなかった比嘉が、すっかり固定されつつある女子グループに気配を消して近付いて行っては不自然に右手を上げたポーズのまま固まる、という不審者の動きを見せている。


 ……何やってんだ、あいつ。

 まさかとは思うが、もしも話しかけようとしてるんならまず手じゃなく口を動かせ。


 ……あれ……あいつ……曽羽と充里としかしゃべってないんじゃねーかな。あ、あと俺か。

 ごくたまーにおはよう、とか言ってくる男子にぎこちなくオハヨゥと返してはいるが、女子に限れば曽羽としかしゃべってない。


 もしかしてあいつ、蓮と同じで人見知り? 話しかけたいけど話しかけられないの?


 そう言えば、入学式の前にしゃべってた比嘉はすっげー早口で驚いたけど、1カ月以上が経った今は俺たちと話す時には普通だ。

 蓮も昔っから知らない人や慣れてない人と話す時には早口で小さい声になるから、そんなんじゃ何言ってんのか分かんねーよ! ってよく背中を叩いたものだ。

 高校生にもなって、小学生のガキみたいなとこあるんだな、比嘉って。ほんと人は見かけによらない。


「ね、ねえ、入谷……ちょっと、来てくれない?」


 自分の席から教室後方に座る比嘉を見てたら、前から声をかけられて軽くビビった。

「いいけど」


 このクラスに出来上がった女子グループでもカーストトップの3人組のひとり、里田(さとだ)穂乃果(ほのか)か……。

 カースト上位の女子ほどギャル度が高い傾向のある中、濃いめのブラウンの髪をポニーテールにまとめてメイクも薄い穂乃果はこのクラスでは素朴な部類で、明るくてかわいいと男子人気が高い。


 モテ女子の穂乃果が俺をこんな人気のない防火扉の前に連れてくるなんて、ちょっと意外だった。


「あ、あのっ……好きです! 付き合ってください!」

「なんっじゃその普通の告白は! 俺がもう何人断ってると思ってんだよ! そんな普通の告白で付き合ってたまるか!」

「何それ、ひどい! がんばって勇気出したのにい!」


 あ、そうか。モテるからって告るのに勇気が必要ないってことはないんだ。


「ごめんごめん。ありがとう、穂乃果。お前の気持ちは嬉しいよ。でも、お前はみんなのエンジェル。俺がひとり占めするワケにはいかないのさ。さあ、みんなの元へ羽ばたいてお行き」


 首を傾げた穂乃果が俺が手で示すのにつられるように廊下を歩きだした。俺まだ見てるのに、仲良しグループの背が低いのに高井(たかい)結愛(ゆあ)小田(おだ)恵里奈(えりな)が穂乃果を挟み込む。


「どうだった?!」

「ダメだったー。なんか、全然よく分かんない返しされたー」

「穂乃果でもダメかー。彼女作る気ないのかなあ」

「やっぱり充里なんだよ。充里のことが好きなのよ、入谷は」

「それしかないよね。入谷はBLの世界の住人なんだよ。元気出しな、穂乃果」

「ありがと。女な時点で入谷のことは諦めるしかないんだね」

「そうそう」


 そうそう、じゃない。なんっちゅー励まし方じゃい。誰がBLの世界の住人だ。俺は心から彼女が欲しいわ!


 ダメだ。負のループがここ高校でもすっかり渦巻いている。


 小学生の頃は冷やかされるのが恥ずかしくて、告られても俺女子になんか興味ねえしってフリしてごまかしてた。

 中学入学当初も同じく断っていたが、周りの友達に次々彼女ができるようになって、俺も彼女が欲しい! と方向転換しようとした。


 だがしかし、その頃にはすでに「入谷はどんなかわいい女子にも落ちない、硬派な魅惑の男」だとレッテルを貼られていた。


 誰でもいいから彼女が欲しいってだけでOKして付き合ったとしても、何人も断ってきた入谷が追い求めてたのはこの子なんだ、と周囲に認識される。


 冗談じゃない。俺はこれまで特定の女子を好きだと思ったことなどない。

 なのに、告白をOKすると好きでも何でもない女子を俺が好きだったことになってしまう。そんなの絶対にイヤだ。俺の男のプライドに懸けてイヤすぎる。


 となると、本当に好きになった女子としか付き合えなくなってしまった。結果、誰も好きになれなかった俺は、モテるのに彼女ゼロのままついに中学を卒業した。


 高校では同じ過ちを繰り返すものか! と入学して最初に告ってくれた女子と付き合うつもりだった。どんな女の子だって絶対いいところがあるんだから、誰だっていい。「最初に告ってくれた女子」が最大のポイントだった。


 なのに、何か知らんが比嘉の顔が浮かんだ俺は、変な間が開いた空気に耐え切れずに断ってしまった。マジで失敗したー……。


 ひとり目を断ったら彼女を作れなくなるって学習してたのに。俺は彼女が欲しいのに!

 もうすでに何人断ってるか、分かりゃしねえ。負のループまっしぐら。


「はい、あーん」

「あい、あーん」


 教室に入ると、曽羽からポッキーを口に入れられた充里がチョイチョイと反対側から食え、と曽羽にくわえさせている。


 ポッキーゲームってやらされるもんかと思ってた。自ら始めるバカップルもいんのか。


 どうなるのか見届ける気はない。視界から二人を排除して自分の席へと急ぐ。

 あー、うらやましい。ムカつくわー。勢い余って唇かみ切れ、バーカ。

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