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俺と尊のナイショ話

 教師も階段を上るのがめんどくさいのか、補講はたいがい一階にある各科目の準備室で行われる。


 好都合だ。こうして窓から中の様子が見られる。


 叶まだ来ねえのかよ。


 補講最終日のラストは現代文である。


 一応、尊を警戒して見張り続けたが、何の動きを見せることもなく最終日を迎えた。全く無駄な4日間を過ごしたものだ。


「統基! そんなとこで何してんの?」

「おうっ」


 ビビったー。尊が笑顔で窓から顔を出している。うわ、ついにバレた。


「別に。ヒマだから様子見に来ただけ」

「ふーん。夏休みだってのに毎日ヒマなんだー」


 すでにバレてたんかい。ラストまで泳がせてたって訳か。


「そんなに彼女のこと心配?」

「まー、あいつは補講受けてもちゃんと理解できるか心配だよね」

「比嘉さんはマジだもんね」


 あはは、と尊が無邪気に笑う。


「比嘉さんは?」

「うん。この学校のテスト簡単じゃん。普通にやれば欠点なんか取らないよ」

「じゃあ、お前……」

「比嘉さんと同じ授業を受けてみたくてわざと欠点取ったの」


 俺を挑発してるでもなく、尊の表情は変わらないのが不気味だ。


「お前何考えてんだ」

「比嘉さんをしっかり見張っててあげるといいよ」


 叶に何かする気か?


 ピシャリと窓が閉められ、鍵まで掛けられる。


 叶と現文の養生先生が一緒に入ってくる。準備室には机は二つしかなく、そのひとつの椅子を養生が引いて叶を座らせる。


 何エスコートしてやがんだ。教師のくせに生徒に色目を使うとか頭おかしいだろ。


 叶と尊が机の上の物をすべてカバンに入れる。最終日はテストか。


 20分ほどでテストは終わった。ミニテストだったみたいだ。養生がそれぞれの席で採点をしていく。


 尊が叶の答案をのぞき込む。だから、近付くなっての!


 チャイムが鳴り、無事に現文の補講も終わった。養生が準備室を出て行く。


 終わった終わった。よし! 叶に迎えに来たってメッセージを――え?


 尊と話していた叶が小走りで国語準備室を出て行く。尊のヤツ、何か仕掛けやがったな!


 得意の瞬発力を発揮して、校舎に入り、廊下を走る。


「何してんだよ」


 叶のスマホを手に持った尊が振り返った。俺と目が合うと笑う。


「あれー? なんでこっち? 彼女ほったらかしてていいの?」

「何してんだって聞いてんだよ!」


 尊の手から叶のスマホを奪うと、メッセージのアプリが開かれている。


「お前、佐伯くんって名前だっけ」

「ただのイタズラだよー。覚えのない登録があったらビックリするかなって」

「ごまかすな。何がしたいんだよ、お前。叶にも、曽羽にも、佐伯にも」

「俺はただ泣き顔が見たいだけー」

「泣き顔?」


 予想もしてなかった答えに驚きを隠せない。俺の反応に尊が声を上げて笑う。


「比嘉さん、あのキレイな顔で泣いたらめちゃくちゃグッとくるだろうなあ。曽羽さんもますますかわいいだろうね」

「佐伯もか」

「女の泣き顔にしか興味なかったけど、佐伯は超かわいかった」

「ふざけんな!」


 思わず机をバンッ! と叩いてしまい、手が痛い。


「統基のクラスのあの小さい子がこれまでで最高傑作の泣き顔だった。体が小さい子が泣いてるのってなんであんなに胸に迫るもんがあるんだろうね」

「……結愛のことか」

「そんな名前だったねえ。あの時は更に泣かせてくれてありがとう! あれで歴代トップに輝いたよ!」


 見てたのか? 1年の夏休み明けに結愛が泣いていたのは1組の教室でのことだったのに。


「チンプンカンプンな顔してるね。実は俺、別れさせ屋なの」

「別れさせ屋?」

「高校生の男女なんて簡単に付き合って簡単に別れるくせに、別れの時だけはやたらと泣いてみたり大真面目なの。別れの時だけは美しいの」

「お前、何言ってんだよ」


 別れさせたってのか? 結愛と真鍋を?


「操り人形みたいにみんな俺の思い通りにケンカが多くなって別れるの。散々ケンカして別れるくせに泣くの」

「お前の操り人形になって結愛と真鍋が別れたって言うのか」

「そうだよ。学校辞めた二人を自然に引き合わせるのさえ上手く行ったらあとはほったらかしで大丈夫だった。まさか子供ができるとは思ってなかったから笑った」

「なんで那波を選んだ」

「イメチェンしてかわいくなったから、この子の泣き顔見たいなーって思って。期待以上にかわいかったよ! 大満足!」


 那波も泣いてたってことか……。


 たしかに、真面目そうな真鍋が結愛と別れもせずにあんなことになったのには違和感があった。でも、1学期のわずかな期間しか一緒に過ごしてなかったから、そういうヤツだったのかと思ってた。


 コイツによって、仕組まれていたんだ。


「お前マジでふざけんなよ。何が別れさせ屋だ。女泣かせたいだけのサイコパスじゃねーか!」

「サイコパスなんかじゃないよ。別れる時だけは真剣に恋愛してるんだ。悩み、傷付き、思いがあふれて泣いてる瞬間が一番輝いてるの。俺はかわいい女の子を最高に輝かせてあげたいだけ」


 コイツ頭おかしい。なんで笑顔でこんなこと言えんだよ。


「かわいい女の子の泣き顔って見てるだけで超気持ちいい。この学校はかわいい女の子ばっかりだから来て良かったよ。結愛だっけ。あの子は今の彼氏ともうちょっと楽しませて、幸せの絶頂で別れさせてあげようと思ってる。きっと前よりもいい顔見せてくれると思う! あの子はいい。何度でも別れさせたい。あの子と仲が良い子、恵里奈だっけ? あの子はダメ。彼氏の浮気が分かっても全然サバサバしてるの。泣きもしないで別れちゃうからつまんない。曽羽さんもそっち系かなーとも思うけど、一応ね。泣いたら絶対満足させてくれるだろうし。他にもたくさん仕込みはしてあるから、夏休み明けには泣き顔いっぱい見れる予定なんだー。楽しみだなあ。待ちきれない。早くかわいい泣き顔が見たいよう。泣き顔が足りない。泣き顔が見たい。泣き顔が見たい」


 怖い怖い怖い怖い。頭ってか精神がおかしい!


 すっかり慣れて忘れてた。まともな人間なら叶に平気で話しかけるなんてできないんだった!


「お前なんかに叶の泣き顔は絶対に見せない」

「統基は見たことあるのー?」


 ……見たくて見たんじゃない。もう二度と見たくない。


「あるんだ。ズルーい。何して泣かせたの?」

「うっせえ!」

「え? 統基?」


 叶が戻って来た。サッとスマホを叶のカバンに戻すと尊がササッと閉じる。こんな連携プレーはいらん。


「最終日に三人でごはん食べようって約束してたでしょ! だから来てくれたんだって!」

「そうなんだ。行きましょうか。おなかすいちゃった」


 かるーく嘘ついてくれるのはありがたい。俺、叶には嘘つけない仕様になってるから。


 叶に泣き顔を見たいとカミングアウトする気はないんだな。よし、好都合だ。


「統基ー、ごはん行こうよー」


 尊が腕に絡みついてくる。


「おう、行くかー」

 

 俺は純真無垢な叶に人の悪意に染まってほしくない。できれば、尊がこんな変態的異常な性癖を持っていることなど知られずに尊を叶から引き離したい。


 さて、どうしたもんか……。


「あ、俺高梨に用があるからちょっとここで待っててくれる?」


 職員室の前で叶と尊に声をかけ、職員室に入る。


「高梨先生」


 高梨の机に向かう。我が2年1組の担任教師である高梨の机にはたくさんの書類が積まれている。


「なんだ?」

「夏休みの課題の高齢化社会と健康寿命のレポートに関して質問です」

「そんな課題は出してない」

「出しましたよ。ちゃんと調べてください」

「いや、そもそも課題なんか出してねえんだよ」

「だから、ちゃんと調べろつってんだろーが!」


 出してねーもんをどう調べろってんだよ、と言いながら高梨が散らかった机の上を掘り起こしだした。

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