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俺たちの花火大会

 すっかり薄暗くなっている中、だだっ広いだけの広場に着くと、もうみんな揃ってるようで人だかりができている。


「おー、もう来てたんだ」

「集合時間過ぎてるだろ!」

「もう、充里だからしょうがないなあ」


 去年とまるで変ってねえじゃん。だから俺、この充里だからって許される風潮を変えるべきだと思うんだ。


「めっちゃ花火集まってるじゃん」

「結構みんな買って来ててさ」


 みんながワイワイしゃべってる隙に、打ち上げ花火の導火線に火をつける。


 ドーン! と花火が打ち上がる音に、クラスメートたちが一斉にうわっと声を上げて空を見上げた。


「ぶわっはは!」

「入谷! ビックリするだろー!」


 大成功!


 去年は手持ち花火だけだったけど、今年はぶちかましてやろうと打ち上げ花火もいっぱい買って来た。


 どんどん火をつけて行く。


「すごい! 統基が花火師さんみたいだわ」

「これで打ち上げ花火はラスト!」


 最後は一番デカいヤツ。


「2年1組花火大会、開幕!」


 オープニングセレモニーは終了だ。


 みんな思い思いに花火を手に持つ。


「叶、火ぃちょうだい」

「どうぞ」


 叶と並んで花火を見つめる。打ち上げ花火の派手さもいいけど、手持ちは手持ちで風情がある。


「久しぶり! チャラいイケメン!」

「入谷だ。立夏」


 優夏の双子の妹、立夏が花火を手にやって来て、普通に俺の花火から火をつける。


「クラス全員で花火大会なんて、仲のいいクラスね」

「立夏のクラスはやんねーの?」

「ないない。うちのクラスは話したこともないクラスメートもいるくらいよ」

「仲悪ぃんだな」

「普通だと思うけど」

「立夏!」


 優夏が小走りでやって来る。


「置いて行かないでよ」

「自分のクラスメートなんだから優夏は平気でしょ」


 立夏がいたずらっぽく笑う。優夏がボッチだと分かってて言ってるな。


「ドッペンゲンガーだ!」


 金髪ツインテールのかわいいが残念な中二病、細田が並ぶ優夏と立夏を驚愕の表情で指差している。


 ハートにナイフが刺さったイラストの白いTシャツの肩部分は引きちぎられて強制肩出しされており、黒いミニスカートにニーハイソックスを履いている。


 太ももと腕にはこの暑い中包帯が巻かれ、眼帯まで装備されている。完成形だな。


「それを言うならドッペルゲンガーだ」

「違う! 鬼龍・ドッペンゲンガー。聖なる龍神のひとつで、全く同じ姿かたちの生物を生み出すことのできる能力を持つ!」

「は?」

「ああ、ドッペンゲンガーね。そう、我々こそが鬼龍・ドッペンゲンガーの力を受け継ぎし継承者、アルアリとイラレスよ!」


 立夏が謎のポーズで細田を威嚇している。何を言い出してんだ。


 細田が目を輝かせて優夏と立夏を交互に見比べる。


「すごい! さすがはアルアリとイラレス! そっくりだ!」

「優夏、アルアリの声マネ得意じゃない、やってあげたら喜ぶんじゃない?」

「え? あ、うん」


 コホン、と小さく咳払いをした優夏が高々と右手を上げる。


「勇気ある者よ! 我をあがめよ! この右手に封印し魔物を解き放つ時、この世界は砕け散ってしまうだろう!」


 久しぶりに演劇部の本領発揮を見た。よく通る声で優夏が演じる。


「どこまでもついて行こう! ボクはもう逃げない!」


 片ひざを地面についてひざまずいた細田が優夏に向かって手を伸ばす。


「え? 何、この人本物? 冗談言ってると思って乗っかったけど」

「ゴリゴリの本物だよ」


 優夏と細田が腕を組み、スキップしながら歌ってグルグル回る。


「優夏もたいがいなオタクだからちょうど話が合うかもね」

「一方は二次元、一方は三次元のリアル世界での話をしてるけどな」


 優夏も細田も教室では見たことないくらい、イキイキと笑っている。


「良かったわ。木村さんも細田さんもひとりでいるから、気になってたの」

「気になるんなら話しかければ良かったじゃん」


 叶が目を泳がせる。

 ボッチ相手にも人見知りは発動するのか。


「細田! 一緒に花火やろーぜ!」

「ボクは暗黒龍・ダークサイダネスの討伐会議で忙しい! 断る!」

「え?!」


 花火を手にやって来た大知が撃沈である。

 背中を丸めて地面に木の棒で何か描いている優夏と細田を呆然と見ている。


「まあ、元気出せ、大知。お前は悪くない」


 大知の肩をポンと叩くと、細田に背を向けた。ちょうど目の前にいたなぎさに花火を差しだす。


「あ、加藤さん。良かったら花火どうぞ」

「遠藤です。花火を私に? もしかして、私のことが好きなんですねっ?!」

「違います」


 不毛なやり取りを見てしまった。なかったことにしよう。


「統基、はい、線香花火」

「おう、サンキュー。どっちが長く火が落ちないか勝負だ!」


 線香花火を受け取り、しゃがみ込んで火をつける。


 絶対に勝つ! 相手が叶でも俺は負けねえ!


 だがしかし、俺はジッとしてるのは苦手である。対して叶は石のように動かない。ヤバい、負ける!


「叶。チューしていい?」

「えっ」


 こちらを向いた拍子に叶の線香花火からポタッと火が落ちる。


「俺の勝ち!」

「あ……ズルい!」

「ズルくてもいい! 俺は絶対に負けない!」

「もー……」


 叶が新しい線香花火に火をつけた。


「一瞬治ったのかと思ったのに」

「あ。ごめん」


 返事もなく叶が線香花火を見つめ続ける。


 期待させちゃったのかな……ガッカリさせて、ごめん、叶。


 叶のほっぺたに口をつける。


 叶が一気に真っ赤になるのを見て、心臓が壊れたように早鐘を打ち鳴らす。


 俺の顔を見た叶が、その手を俺の左胸に当てた。ニッコリ笑って俺を見上げる。


「イチャイチャしてんなあ! 実来ー!」


 叫びながら佐伯が実来たちのグループへと突進して行った。


 イチャイチャだと? 足りねえんだよ。俺のイチャイチャはこんなもんじゃ満たされねえんだよ。ほっぺにチューでこんなドキドキするとか、ストレスでしかねーわ。


「はい、新しい線香花火」

「ありがと」


 叶が満面の笑みで線香花火を手渡してくる。


 叶は満足そうだな?


 無意識に口元がほころぶ。全く、いつまで経っても純真無垢なんだから。線香花火が超似合う。

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