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修学旅行初日の夜に私は

「もう10時過ぎてます。電気消しますよー」

「はーい」


 バタンとドアが閉まりシーンとする中、布団に入って目をつぶる。


「先生行った?」

「行ったんじゃない?」

「でさ、仲野とどうも二人で話ができねえの。仲野っていっつも行村と一緒にいるじゃん?」

「強引にツーショットになる方法かー」

「あむはツーショットなんて照れちゃう。無理だよぅ」

「なんかいい方法思いつかない? 曽羽さん」


 愛良も起きているなら、私も起きていた方がいいのかしら。布団の上に体を起こすと電気がついていて6人みんな起きている。


「明日の夜のハイキングで肝試しするといいんじゃないかなあ。充里の班を誘って、男女ペアでってルールにしちゃったらツーショットになれるよお」


 愛良がフワフワの綿菓子のような声で笑いながら言う。愛良っていつも頭のてっぺんで髪をお団子にしているけど、下ろすと布団の上にまで着くくらい髪が長くて驚いた。


「それ、いい!」

「私、行村ね! 絶対行村!」

「ツーショットなんて無理なんでしょ、あむは」

「ヤダヤダ、入谷は比嘉さんでしょ、充里は曽羽さんでしょ、あの班でイケメンってあと行村しかいないじゃん!」


 駄々をこねる吉永さんを深沢さんと守谷さん、向中島さんが白い目で見る。


「実来は佐伯とペアだね」

「えー、佐伯といると楽しいけどかわいいから男として見れないのよね。友達って感じ」

「あ! 佐伯のために実来とペアにしてあげたいって持ちかけたら私の好感度爆上がりじゃね?」

「人を利用しないでよ。告られたらどうすんの。友達としては好きなのに変な空気になったらどうしてくれんのよ」

「好きなら付き合えばいいじゃん。明日、仲野を落としてみせる!」

「がんばれ、友姫ー」


 恋バナってやつね。愛良に恋愛相談とかされたことないし、こういうのって女同士って感じがしてワクワクする。友達でもなく、ただの班員だけど。


「仲野と何話そっかなー。どんな話題が仲野にウケると思うー?」

「バナナの話とかいいんじゃなあい」


 キャハハ! と笑う吉永さんを深沢さんが睨みつける。深夜テンションってヤツかしら。いつもより吉永さんの素が見えている気がする。


「比嘉さんはいいよねえ。入谷、比嘉さん一筋だもん。初めはチャラいイケメンだと思ってたけどすっかりイメージ変わったわ」


 急に向中島さんがこちらを向いた。驚いて返事をできずにいると、みんなが私を見てますます内心焦ってしまう。


「マジのそれな。これだけ美人で彼氏イケメンで自分にベタ惚れって悩みなんかないっしょ」

「そんなことないわ。今ものすごく悩んでることもあるし」

「悩み?!」

「入谷のことで?!」

「比嘉さんでも悩むの?!」


 みんなが私の周りにワッと集まる。え、ちょ、どうしよう。


「え、ええ」

「何々? どんな悩み? 相談乗っちゃうよ!」

「実は、その……」


 どうしよう。みんながらんらんと輝く目で見てるけど、こんな悩みを話してしまっていいものなのかしら。


 いいか、ひとりで悩んでてもキリがないし、いっそ、思い切って言ってしまおうかしら。


「最近、統基が手もつないでくれないし全然スキンシップ? なんか、触れられなくなっちゃって、私に飽きてるんじゃないのかなって、本当は私のことを好きじゃないのかなって、最近ずっと悩んでて……」


 たどたどしく、なんとか悩みを伝えられた。意味が通じる日本語になってたかしら。


「ナイナイ。入谷が比嘉さんに飽きるとか考えられない」

「比嘉さんでもそんな妄想して悩んだりするんだー」

「なんか比嘉さんって雲の上の人って感じだったけど同じ人間なんだって感じ」

「私も思った。比嘉さんも好きな人のこととなるとネガティブになっちゃったりもするんだね」

「もしも飽きてるんなら次あむが付き合いたあい」

「どう見ても入谷、比嘉さんラブなのに悩んじゃうとかカワイイ」

「うんうん、キレイすぎて近付きがたかったけど、意外とカワイイ」


 みんながすごいスピードで話していく。聞き逃せないことを言っていた人がいる。


 統基なら、私と別れてもすぐに新しい彼女ができちゃうんだ。なのに別れないってことは、まだ私のことを好きでいてくれてるのかしら……。


「そんな不安そうな顔することないよ! 大丈夫! 傍から見たら入谷、完全に比嘉さんのこと大好きだよ!」


 向中島さんがパアンと私の背中を叩く。なんだかカツを入れられたようで、背中から気力が湧いてくる。


「ありがとう! ちょっと自信が持てたわ!」


 両手を固く握りしめると、みんな笑った。


「比嘉さんも入谷のこと、大好きなんだね」


 守谷さんがニッコリ笑う。そんなハッキリ言われると顔に熱が集中してしまう。


「やだ、真っ赤になっちゃった。ごめん、そんなに照れると思わなくて」

「ご、ごめんなさい、私こそ……」


 ダメだわ、ドンドン顔が熱くなる。


 みんなが笑いながら手やタオルであおいでくれる。


「比嘉さんと同じ班になって良かった」

「ね、女神と友達になったなんて自慢できちゃう」

「友達?!」


 驚いて大声が出てしまい、みんな一斉にシーンとする。あ、しまった、やってしまった。


「や……やっぱり、友達はおこがましかった?」


 深沢さんが恐る恐る尋ねてくる。


 おこがましいだなんてとんでもない。なのに、感動で胸がいっぱいで言葉が出ない。


「叶、友達が増えて良かったねえ」

「うん!」


 嬉しい! 愛良と充里、ふたりも友達ができて喜んでいたら更に4人も増えるだなんて! もう片手じゃ足りない!


「あー、良かった。怒らせたかと思ったー」

「ごめんなさい、実は私人見知りが激しくて」

「分かる、私もー」

「あむもー」

「どこが人見知りよ! 何でも乗っかりゃいいってもんじゃないのよ」


 この部屋にいるの、みんな私の友達なんだ……。


 じわじわ喜びがあふれて止まらない。


「トントーン!」

「えっ?」


 男子の声と共にノックの音がした。びっくりして固まっていると、向中島さんがドアを開ける。


「いえーい! 入っていい?!」


 テンション高く佐伯くんと充里、統基、仲野、行村くん、津田くんと統基の班の男子たちが入ってくる。


 男子も深夜テンションみたいね。


 みんな楽しそうな中、統基だけは渋い顔をして佐伯くんに腕を引っ張られている。


「先生にバレたらどーすんだよ。他の班の部屋には入るなって書いてただろー」

「入谷、ルールは破るためにある! っていっつも言ってんじゃんー」


 統基がルールを守ろうとするなんて珍しいわね。


 充里は部屋に入るなり愛良のひざ枕でゴロリと横になる。大きな体が横たわると更に長く感じる。


「やめんか! お前の部屋じゃねーんだよ! くつろぎだすな!」

「統基も比嘉にやってもらえばいいじゃんー」


 キャー! と女子が沸く。


 統基だったら調子に乗ってやりそう。ひざ枕なんてしたことないのにどうしよう。みんなの前で恥ずかしい……。


「人前でそんな恥ずかしいことするか、バーカ。ジュース買って来よ」

「あ、俺も喉乾いたー」


 統基と充里が連れ立って部屋を出て行く。ええー、と落胆の声が聞こえる。


「すごい絵になりそうだから写真撮ろうと思ったのにぃ」

「残念ー」


 統基……。


 全然恥ずかしそうな素振りはなかった。理由をつけて部屋を出て行ってしまったんだ……。


 どうしてだろう。いつからだろう。

 いつから、統基は私に触れなくなったんだろう――


「入谷くんなら平気でやりそうなのにねえ」

「そうよね、愛良。やっぱり、私に飽きてしまってるのかしら」

「私は真逆に見えたなあ」

「真逆?」


 飽きるの反対語なんて、見当がつかない。


「ねえ、愛――」

「先生たち宴会やってんぞ! 乱入しようぜ!」

「すき焼きとカキが見えた! 絶対美味いやつ!」


 統基と充里が勢い良くドアを開ける。


「行こう行こう!」


 みんなで小宴会場と書かれた部屋の引き戸をパシーンと開け一気になだれ込む。先生たちが驚いて声を上げた。


「うわ! なんだお前ら! もう消灯しただろーが!」

「先生だけずるーい! 俺らも食わせろよ」

「すいませーん、肉12人前追加でー」


 充里がインターホンの受話器を手にしている。仕事が早いわね。


「叶」


 しゃがみ込んで小さくなった統基がドアを細く開けて手招きする。


 部屋から出るのかしら?


 なんだかコソコソしてるから私も見つからないようにコソッと部屋から出る。


「叶、旅先でひとりで寝るの怖くないタイプ?」

「ええ、場所が変わっても平気で眠れるタイプよ」

「よし、部屋に戻ろう。そろそろ寝ないと明日熱出しちゃうだろ」


 あ、寝不足に弱いのをすっかり忘れていた。


「お前、自分の体質忘れてたな」

「ええ、忘れてたわ」

「なんで堂々としてんだよ」


 統基が笑う。つられて私も笑ってしまう。


 部屋に戻って布団に入る。


「電気消しとく?」

「付けてて大丈夫」

「そっか。おやすみ」


 統基がニッコリと告げる。もう行っちゃうんだ……。


 やっぱり広い部屋にひとりで寝るのは落ち着かない気もする。統基と旅行に行った時みたいに、統基が抱きしめてくれたらよく眠れそう。


「ねえ、統基」


 ひじをついて体を起こして、ドアノブに手を掛ける統基を見る。


「ん?」

「統基も、一緒に……」


 ミニチュア・ピンシャーみたいに大きな目を見開いたと思ったら、細めて笑った。


「俺は女子たちなるべく引き留めておくから、その間にグッスリ寝入っとけ。じゃあね、おやすみ」

「……おやすみ……」


 バタン、とドアが閉まり、布団の中で目を閉じる。


 統基は優しい。優しすぎるほどに優しい。


 だから、私と別れないんじゃないかしら。


 統基はもう気持ちはないのに、私が統基を好きすぎるから別れられずにいるのかもしれない。


 耳に水が入って気持ちが悪い。横向きにポジションを変えて、耳に入らないようにした。


 旅行の時は、私が眠れないって言っても抱きしめてきたのに――

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