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俺とショボすぎる嫌がらせ

「おはよー、統基!」

「あ、はよー、充里」


 2年の靴箱を見渡せるロッカーの中に入っていた掃除道具を出して廊下の壁に立てかけていると、充里が現れた。


「何してんの?」

「俺、今日ここで授業受けるから先生に適当にごまかしといて」

「また変な趣味始めたなあ」

「うん、俺今ロッカーに入るのにハマっててさ。じゃ、よろしく」

「分かったー」


 なんでロッカーになんか入るの? って思わねえのが自由人。見られたのが充里で良かったかもしんない。


 ロッカーに入り扉を閉めて隙間から覗くと、バッチリ靴箱の様子が分かる。これで良し。


 男っぽさのない細い体はコンプレックスでしかなかったが、まさかここで役立つとは。デカい充里にはまず無理な作戦である。


 俺が最初に叶の靴箱の異変に気付いたのは、上靴に引かれた黒い線だった。靴箱に入った叶の上靴のかかとを覆う部分、比嘉と書かれたすぐ横に見つけた。


 鉛筆っぽい1センチ程の細い線を見て、叶がこんなことするはずないのに何だ? と違和感を持った。


 お次は靴箱の中に細長いウサギが好みそうな草が入っていた。叶は気付いていない様子で普通に靴を履き替えていたが、俺は気になった。


 更に、ガムを開けた時に出る細長いビニール製のゴミを靴箱に見た時、叶が嫌がらせを受けている可能性に気付いた。


 何このショボすぎるつまんねー嫌がらせ。


 そう思った俺は、そっとゴミを取り除き近くのゴミ箱に入れた。


 超地味ながら少しずつスケールアップはしている。草はまだ靴に付いてきたと考えることもできるが、ゴミは故意に入れられたとしか思えない。


 そして昨日、叶の靴箱に消しゴムがあった。叶がよそ見をした隙に上靴の線をこすってみると、消えた。


 犯人も良心の呵責にさいなまれているようだ。俺が楽にしてやろうじゃないか。


 まあ、こんな朝から見張ってても意味ねえだろうけどな。


 チャイムが鳴り、靴箱エリアに人影がなくなる。


 叶からメッセージが届く。俺のことは気にせず、授業に集中してくれ。用が済んだら教室に行くと返した。


 そのスマホで漫画を読みふける。決してサボっている訳ではない。サボるならこんなロッカーの中より快適な場所が校内にもたくさんあるだろう。


「ハハッ」


 思わず声が出て、口を押える。しまった、俺は探偵には不向きな程に地声がデカい。人気のない所でロッカーから笑い声が聞こえようものなら俺だったら迷わず開けて中を確認する。


 良かった、誰にも聞かれていないようだ。


 コメディテイストばかりを好む俺だが、この場にピッタリの探偵物の漫画を読むか。


 チャイムが鳴った。もう一時間目が終わったのか。漫画読んでたら授業に比べ格段に時間が経つのが速い。


 そうこうしてるうちに昼休みである。すっかり食べられるようになったパンを食う。


 叶からまたメッセージが届く。訳分からん様子だから、充里はここに俺がいることを話していないんだろう。そりゃそうだ。誰がロッカーに統基いる? などと聞くものか。


 聞かれたことには脳みそ通さず答える充里だが、聞かれなければ話さないのが充里でもある。


 一瞬で放課後だ。延々ロッカーの中で漫画読んでただけだからな。特筆すべきことなどない。


 充里と曽羽と共に叶が靴箱に現れる。ぜんっぜん叶としゃべれなかったのは残念すぎるが、叶に気付かれることなく犯人を上げたい。


 叶は悪くない。嫌がらせなど受けるいわれはないのだ。


 下校の生徒の波が止む。部活動タイムっすな。


 スマホの充電が10%以下になったので持参しておいたモバイルバッテリーを繋ぐ。


 数人のグループが現れては去って行く。同じ部活なんだろう。


 こんな遅くまで熱心に部活しているのは、あとは吹奏楽部くらいのものか。


 え、犯人現れる? 


 一日無駄にロッカーの中で過ごしただけなんて、俺心折れちゃうよ?


 頼むから来てくれ! に変わった俺の視界に結愛と来夢が映る。吹奏楽部も終わったみたいだな……やべえ。マジで犯人現れないかもしんない。


 ついに、誰も来ないまま10分が経過してしまった。うわ、外したか。


 だがその時、ついに周りをキョロキョロと警戒しながら犯人が登場した。漫画だったら目だけが描かれた真っ黒い影だな。


 俺は犯人が分かっていようとも証拠もなく容疑をかけたりはしない。言い訳ができないような証拠を手に入れてから問い詰めてやる!


 影は叶のロッカーを開けて、カバンから何かを出した。


 よし、今だ!


「そこまでだ。午後7時15分、現行犯逮捕……お、何コレいい匂い。なんか気持ちが安らぐー」

「アロマスプレーです。ラベンダーなのでリラックス効果抜群なんです」

「上靴リラックスさせてどうすんだよ、嵯峨根さん」

「……ごめんなさい……」

「くだらねえマネして。悪者になりきれもしねえくせに中途半端なことしてんじゃねーよ」


 小さな嵯峨根さんが更に小さく背を丸めてうつむいた。うん、やっぱ悪いことをしてる自覚はあったんだな。


 ……悪いか? 超リラクゼーションないい香り漂ってんだけど。


 ま、いいや。嵯峨根さんの罪悪感を刺激したところで交渉といこう。


「叶に嫌がらせするのはやめろ。嫌がらせしたいなら、ターゲットを俺に変えろ」

「え?!」


 顔を上げた嵯峨根さんに向けて、あえて挑発的な笑顔を作る。


「俺の秘密を教えてやるよ。もちろん、ハッタリじゃない。嵯峨根さんにハッタリが通用しないことくらい、俺だって分かってる」


 いつもの元気いっぱいな様子がなりを潜め、嵯峨根さんが強い眼差しで見返してくる。へえ、そんな顔もするんだ。


「どういう意味ですか」

「俺の弱みを握って、俺を脅すなり暴露するなり、好きにしたらいい。俺の高校生活は終わるけど、それで嵯峨根さんの気が済むならいいよ。悪い話じゃねーだろ」

「入谷先輩を脅したりなんてしません! 秘密なんて教えていらない! 脅して付き合ってもらったって、何にも嬉しくない!」

「へえ、いいの? 今だけお得なキャンペーンだよ?」

「私は入谷先輩が好きだってことを伝えたいだけです!」


 ……何なんだ、あの子。


 散々俺に爆弾チラチラさせておきながら、なんで涙目で走り去ったんだよ。訳分かんねえな。


 あんな小さな嫌がらせすら良心の呵責に耐えられないくらいなら、俺の高校生活終わるとまで言われて秘密を知ろうとはしないだろうと賭けに出た。結果は楽勝だった。


 もし秘密を教えてって言われたとしても、特大爆弾以外にも俺には手持ちの秘密はまだまだある。いくつかすでに知られていたとしても、さすがに過去さかのぼってまで全部は知られていないはず。


 考えてみれば、投下する気があるならとっくにしてるはずなんだよな。


 今まで頭回ってなかったけど、たっぷり睡眠とってちゃんと食ってクリアになった頭で考えればすぐに分かることだった。


 これで叶への嫌がらせはなくなるだろう。叶を守ってやったぜ!

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