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私たちの修学旅行に向けて

 教室に入ると、


「叶!」


 と弾けそうな笑顔の統基が私の席に座っている。


「おはよ!」

「おはよう。なんだかすごく元気そうね?」

「超元気! よく寝たから目覚めが良くて朝からメシまで食っちゃってさ」

「今まで食べてなかったの?」

「今日のホームルーム、修学旅行の班決めだって! 絶対同じ班になろうな!」

「ええ」


 よっぽど修学旅行が楽しみなのかしら。話をそらした訳じゃないわよね。


「だったら比嘉さん、実来を引き込んで! 俺も同じ班になるから!」

「え? みくる?」

「あの子!」


 佐伯くんが指差す方を見ると、体の大きな金髪ショートヘアの深沢友姫さんと話しているタレ目がかわいい子がいる。ああ、5組から来た子ね。


「引き込むって、どうするの?」

「同じ班になろうよ~って」

「え! 私あの子と話したこともないのにそんなこと言えないわ」

「佐伯とこれだけしゃべれるようになっただけでも叶すげーがんばってんのに、余計な命を課すんじゃない」


 ええー、と佐伯くんが不満の声を漏らすものの、私にはとても無理そうだわ。ごめんなさい。


「俺の弟も来週修学旅行なんだって!」

「6年生になったんだったわね。どこに行くの?」

「日光」

「お! 俺も小学校の時に日光行ったよ!」

「俺もー。小学校の修学旅行の定番だよな」


 統基と佐伯くんが笑っている。私は全然違う所だったから、地域によって定番があるのかな。


 チャイムが鳴って、担任の高梨先生と副担任の綿林先生が教室に入ってくる。


「まだ行き先は決まってないけど、修学旅行の班決めをしまーす」

「なんで決まってねえの?!」

「毎年関西地方だろ?!」

「去年のうちの修学旅行生が暴れまくったらしくて去年行った所はすべて出禁くらったー」

「ええぇー」


 落胆の声が大きい。ウキウキムードだった教室が一気に暗くなってしまった。


 私も映画の世界に入り込めるっていうテーマパークを映画なんてほとんど観たことないのにとても楽しみにしていたから、残念だわ。


「では、男子女子それぞれ6人グループを作ってくださーい」

「それぞれ?!」


 あちこちから悲鳴のような声が聞こえた。


 女子ばっかりで6人班か……。とりあえず、あぶれてしまわないように一番前の愛良の席まで小走りで行く。


 中学まで私は自由に班を作る時、体育で二人一組になる時、いつも毎度必ずただ一度の例外もなくポツンだった。


 何度経験しても慣れない。みんなには私が見えていないのかと、悲しいみじめな気持ちで先生とペアを組んだ。


 友達がいる人は、ひとりぼっちの者なんて存在してもしなくても気にも留めないものなのだ。


「津田ー。お前どうせぼっちだろ。うち入れよ」

「え?!」


 統基の声に、愛良の席のふたつ後ろに座る津田くんがメガネの奥の小さな目を見開き、顔を上げる。


「いいの?!」

「いいよな?」


 津田くんはたぶん統基自身がいいのか確認したんだと思うけど、統基は充里と佐伯くんの顔を見た。


「いいよー。来いよ、津田ー」

「う……うん!」

「あと二人だね。誰と組む?」

「そうだなー」


 統基たちは気にも留めてないけど、津田くんが赤い顔をしてつんのめる勢いで統基の席に集まる三人と合流する。


 友達がいる人には、誘ってもらえたひとりぼっちの者の喜びなんて分からないんだろうなあ。


「入谷! 俺たちと――」

「お前だけはない。絶対にイヤ。断固拒否」


 ドタドタと走ってくる仲野を完全シャットアウトしている統基を見ながら、胸が穏やかさに満たされる。私の中学にも統基みたいな子がいてくれたら良かったなあ。


「それがさー、マジで他みんなまとまっちゃってここしかねえの」


 行村くんが金髪の髪をかき上げながらモデルさんらしくカッコ良く歩いていく。カッコいいけど、なんかイヤ。


「うげー、マジかよ。あ、留年コンビいるじゃん。同じ班になろうよ~って言って来いよ」

「留年コンビは去年行ってるから今年の修学旅行は行けねえんだって」

「留年するほど学校休んどいて修学旅行には行ったのかよ。てかあいつらのせいで関西から出禁くらったんじゃん」


 どうやら男子はこれで固まったようね。


「曽羽さん、比嘉さん。私たちと班作らない?」


 振り返ると、深沢さん、向中島さん、吉永さんと5組から来た子が立っている。


「うん、作ろお。いいよねえ、叶」

「え、ええ、もちろん」


 うわあ! なんてスムーズに班に入れたのかしら。今日を記念日にして忘れないようにしよう!


「やったね! 比嘉さんと同じ班だったら仲野くんとお話できるかもよ! 友姫!」

「ちょっ……実来!」


 5組から来た子が深沢さんのふくよかなお腹にひじをツンツンしながら笑うと、深沢さんはその口へと手を伸ばした。


「あーあ。比嘉さんと曽羽さんに友姫が仲野くんのこと好きなのがバレちゃったぁ! あむ知ーらない」

「あむ! あむがそんなこと言わなきゃまだセーフだったのに!」


 向中島さんにたしなめられた吉永さんがかわいらしく舌を出す。


「深沢さん、物好きなんだねえ」

「比嘉さんを一途に好きなのに比嘉さんの彼氏に何度も蹴られてる姿を見たら、誰だってキュン死じゃん!」

「私は死なないよお。むしろ虫唾が走るかなあ」

「あのワイルドな体で私たちより小さい入谷に蹴られてるなんて、超ギャップ萌えじゃねー?!」

「私は気持ち悪いよお。むしろ萎えかなあ」


 誰が誰を好きでも別にいいのに、フワフワと綿菓子のような笑顔で容赦ないわね。でも、私も愛良と同意見だから折れないで、愛良。


「高梨! 班決めまとまった!」

「おー、早いな。このクラスは決め事がサクサク決まってくのだけはいいわー」

「他は不満だってのか。担任なのに何もしねえくせに!」

「そうだ、そうだー。担任をあおたんに変えろー」


 あ・お・たん! あ・お・たん! とみんなのコールが起こる。もちろん、あおっているのは統基と充里。


 一度は葬式ムードが流れた教室に、いつの間にかまたワイワイと活気が戻っている。この二人がいるんだから、修学旅行も絶対楽しいに決まった。


 早く修学旅行に行きたい!


 こんなに学校行事が楽しみだったことなんてない。統基はずっと、私の学校生活を楽しくするって約束を守ってくれている。


 バイトに行く統基と靴箱に向かい靴箱を開けると、統基が私の靴箱をのぞき込んだ。


「これ、叶が入れたの?」

「どれ?」

「この消しゴム」

「消しゴム?」


 消しゴムなんて絶対に靴箱に入れない。入れる理由がないもの。


 扉を閉めて名前を確認すると、たしかに比嘉とある。


「あれ? 入れるはずはないけど、入れたのかしら?」


 白くて小指の第一関節までくらいの大きさの消しゴムに全く見覚えはない。


「ねえ、俺消しゴム失くしちゃったからコレもらっていい?」

「ええ、いいわよ」

「サンキュー!」


 統基がズボンのポケットに消しゴムを入れて、私の靴箱の中を見て周りを見回した。


「どうかしたの?」

「誰もいなかったらチューしよーと思って」

「え?! い、いっぱいいるから……」

「ざーんねーん」


 顔に熱が集中してしまう私の頭に統基が手を載せる。


 私はやっぱり、蹴られている仲野なんかよりも目を細めて私を見つめる統基にキュンとくる。

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