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比嘉叶の素顔

 唐突に目が覚めた。両手両足で比嘉に巻きつくように抱きしめている。


 まだ比嘉はスヤスヤと寝息を立てる。あー、かわいい。寝てるだけで最強にかわいい。


 比嘉のおでこにチューしたら口にもしたくなってしちゃう。何コレ、チューし放題じゃん。


 ひじをついて体を起こし、比嘉のうなじのそばに強く吸い付く。クッキリと残ったアザにすごい満足感。ここなら長い髪で見えねえからいいよな。


「ん……あ、入谷……」

「俺のもん!」

「え?!」


 思わず寝起きの比嘉を力いっぱい抱きしめる。


「体調どう?」

「すごくスッキリしてる。もう大丈夫よ」

「マジで? 良かったー」


 スマホを見ると、夕方の5時か。


「すげー寝たな。昼メシも食わずに寝続けちゃったよ」

「本当ね。おなかすいた」

「よし! メシ食いに行きまっしょー」


 比嘉の体調が心配だから、一応大事を取ってホテル内のレストランに行く。メニューを見てびっくりした。


「レストランでこんなに高いなんて、このホテル相当高いの?」

「いや……」


 宿泊料金の割にこのレストランが高すぎる! どんな高級店だよ!


 一瞬顔面蒼白にはなったが、比嘉の誕生日を迎えるってのにケチケチしたくはない。


「値段なんか見んな! 食いたいもんを頼め」


 俺も開き直ってこんな状況でもなきゃ絶対頼まないような高いステーキを注文する。


 この店、値段が高いだけじゃなく接客も丁寧だし店内の装飾も上品で高級感ある。金かかることさえ忘れれば、比嘉と過ごすのに大変適した店であると言える。


 ……比嘉、かあ。


 まるで気にならなかったけど、来夢が言ってたことが今ようやく分かった。苗字呼びって他人行儀だよな。


「なあ、俺のこと統基って呼べよ。俺もお前のこと叶って呼ぶから」

「え?! どうして?!」

「友達の時から呼び方変わってないっておかしくねえ? 俺お前の彼氏だよ?」

「え、今更?」

「なんで今更そんなこと言いだしたか教えてほしい? お前がプレゼントと称してわりかし強引に」

「言わないでいい!」


 比嘉が真っ赤になってしまう。よほどプレゼントしなきゃと思い詰めてたのか、比嘉らしくないくらい大胆だった。比嘉の中ではもはや黒歴史だろうな。俺にとっては超いい思い出になるだろうに。


「はい、ここから苗字呼び禁止ね。分かった? 叶」

「かなっ……」


 叶が更に真っ赤になっていく。爆発できそう。


「統基って呼んでよ」

「と……………………話してる中で呼ぶから、待ってて」


 長すぎる間の上におあずけかい。待っててとか、かーわいいー。だがしかし、俺は待たない。


「ダメ。俺今叶に呼んでほしいの」

「ええ~……」

「呼んでるうちに慣れるから。怖いほど慣れるものなんだよ、人間って」


 いくらでも待つぞ、と両ひじを行儀悪くテーブルについて頬杖をつく。


「と……統基……ピギャ――」

「ぶわっははは! ピギャーって!」

「お待たせいたしました」


 すごいタイミングで店員さんが料理を持って来てくれる。さすがは高級店、俺なら料理持ってったテーブルでピギャ-なんて叫んでようもんなら指差して笑うところだが、唇を震わせる程度で抑えている。


「ありがと、嬉しい!」

「は……恥ずかしい……」

「大丈夫大丈夫、今だけだよ。すーぐ慣れるから。今お前が叫んだ事実は消えねえけどな」


 恥ずかしいのはむしろそっちか。


 料理は肉も美味いんだが、ポテトサラダがめちゃくちゃおいしい。


「ポテサラだけってねえのかな。あ、あるじゃん。ポテサラだけ頼も。叶も食う?」

「全部食べ終わってからの方がいいわよ。と……統基あんまり食べられないんだから」


 お、がんばってるがんばってる。普通の会話してるだけなのに顔が真っ赤なのっておもしろい。


「あんま食えねえからこそ美味いもん食いたいんじゃん。俺肉よりポテサラの方が食いたい」

「でも、せっかく作ってくれた人がいるのに残しちゃ悪いわ。牛にも」

「牛のことまで考えてメシ食ってんのかよ」


 こうして見ると、叶は食い方がキレイだ。食い終わった後の皿のキレイさが俺とは全然違う。ちゃんとしつけされてきたって感じがする。


 俺なんか、良くも悪くも自由に成長しちゃったもんなあ。産みの母親は俺が2歳だか3歳だかから入退院を繰り返してたって言うから、俺のしつけまでやってらんなかっただろう。次いでの母親は花恋ママだし。


 こういうところ、俺も蓮にちゃんと教えてやりたい。


「どうしたの?」

「俺の弟も叶みたいになってほしいなって思って」

「私? 仮進級してほしいの?」

「そこはいい。ってか俺の弟俺より頭いいから」


 部屋に戻る途中で、大浴場の矢印を見つけた。


「おー、気持ち良さそうじゃん」

「知らない人とお風呂に入るのも恥ずかしいなあ……」

「そう? 俺全然気にならないよ」


 風呂の準備をして、まだ準備中の叶を見る。


 この部屋にも風呂は付いてるんだよなあ。たぶん拒否られるだろうと思いつつ言ってみる。


「叶、一緒に風呂入ろう?」


 俺に背を向けている叶の動きが止まった。固まっちゃったか。


「いいじゃん、俺知らない人じゃないでしょ? 俺彼氏だよ?」


 追撃すると、ダッと走って部屋を出て行く。チッ、逃げられたか。かわいいヤツめ。


 大浴場を出て部屋に戻ると、叶はまだいない。


 喉が渇いた。自販機コーナーに行き、叶も何か飲むかなと4本買う。


 叶の風呂上りとか、マジでヤバいんだろうな。行村が初めて女と泊りに行った時スッピン見てショック受けたって言ってたけど、メイクでごまかすような女とお泊りすっからそんなショック受けるんだよ。


 ガチャッとドアを開けると、カバンに手を突っ込んでいた叶がササッと洗面所へと消えていく。また逃げた?!


「待て! そう何度も逃がさねえぞ!」


 何か知らんが叶を追う。洗面所のドアが閉められている。ドアノブに手を掛けた。


「入って来ないで!」

「なんで?」


 答えはない。え、もしかして、叶ってスッピンに見えてメイクバッチリだったの?


 女神と言われる程の美貌だ、それでも不思議はない。むしろ腑に落ちる。


「いいよ、俺。お前がどんなスッピンでも気にしない」


 どんなに実は醜い顔だとしても、超が付くほど俺にとってはかわいい事実は変わらない。


 必死にドアを押さえているようだが非力すぎて簡単に開く。叶は両腕で顔を隠すのに一生懸命である。


 そんなに隠されると逆に興味湧いちゃうじゃん。


 そっと叶の両腕をつかんで下ろさせると、いつもの叶の顔だ。


「なんで逃げたの?」

「だって……私、ニキビできやすくて、いつもは肌色の薬塗って隠してるんだけど、統基が変なこと言うから薬持って行くの忘れちゃって……」

「ニキビ?」


 ああ、言われてみるとポツポツと赤いのがあるな。


「ニキビ見られたくないとか乙女かよ。かわいすぎる」


 叶のニキビにチュッとキスしていく。


「薬より効いたりして」


 冗談で言ったけど、叶の顔が真っ赤になった分ニキビが目立たなくなった。


「俺もニキビできてた気がするんだよね。治療してよ」


 唇を指差して顔を近付ける。オロオロした様子だった叶が、サッと俺のあごの裏に口をつけた。


「ここにできてるよ」

「え? マジで?」

「下から見たら分かるよ」


 鏡で確認すると、たしかにある。空気の読めねえニキビだな。


「薬貸してあげる」

「返さねえけどな」

「チューブは返してよ」

「チューブは返すよ」


 しょうもない屁理屈を言いながら薬を塗ってみたら、見事に消えた。薬すげえ!


 ドライヤーを見つけ、叶の髪を乾かす。結構時間かかるもんなんだな。女の子って大変だ。


 うなじに夕方付けたキスマを見つけ、叶本人すら知らない俺だけが知ってる印に思わずニヤけちゃう。


 乾かしたばかりの髪に覆いかぶさり、叶を抱きしめる。


「好きだよ」

「……私も……」

「ちゃんと言って」

「私も、統基が好き」

「めっちゃ好き。大好き。すげー好き」


 叶の頭が超熱くなってきた。まだ言い足りないけど、この辺にしとくか。


 夜10時を過ぎると叶がウツラウツラし始める。5時間前まで寝てたのにコイツすげーな。


「無理しないで寝ればいいじゃん」


 叶の手を取ってベッドに連れて行き、俺が先に布団に入ってめくる。


「えっ……」

「一緒に寝ようよ。あっちのベッドも使ったらホテルの人の仕事が増えちゃうでしょ。無料でグレードアップしてもらったのに仕事増やしたら申し訳ないじゃん」

「そうかもしれないけど……」

「だろ? おいで」

「眠れる気がしない……」


 布団の中でジタバタするから両手両足をまとわりつかせて大人しくさせる。しばらくすると、スースーと寝息が聞こえる。


 あっさり寝るんじゃん。全然眠くないからスマホに手を伸ばしたら、叶の目がパチッと開いた。慌ててまた手足を巻き付けると、スーッと眠りに落ちる。


 もういいかと思ったらまた目が開くの繰り返しで、早くも一時間が経過しようとしている。俺も目をつぶってみたりもするけど、5時間以上も昼寝しちゃってとても眠れない。


 さらに30分ほど様子を伺う。トイレ行きたくなってきた。限界まで我慢して、そーっと手足を外してみる。よし、大丈夫そうだ。


 トイレに行って戻って見ると、ちゃんと寝てる。これで明日は熱出ないかな。


 ベランダにテーブルと椅子がセットされているのを発見し、なるべく音を立てないように戸を開ける。


 夜風が気持ちいい。


 ミルクコーヒーとスマホをテーブルに置いて、椅子に座って見まわす。遥か先に、ネオンの海のように異様に明るい地帯が広がっている。天神森だろうな。


 兄貴たちは今日も元気にお仕事中なんだろう。孝寿も天神森のすぐ近くのマンションに住んでるって言ってた。あの辺りに俺の兄貴たちがいる。


 こうして離れた場所から見ると、天神森のデカさに圧倒される。親父はあんなデカい天神森でトップとったレジェンドホストなんだ……家ではただのオッサンのくせに、やっぱすげえ。


 俺も何かやりたい。叶のためにちゃんとした誠実な大人になるって決めたのに、何をすればいいのか分からない。


 スマホで天神森の写真を撮る。画像で見ると何なのか分かりにくいな。


 しっかりと目に焼き付けよう。俺は俺で俺なりの伝説を作るんだ。


 部屋に戻ると、布団はずり落ち叶が大きなベッドの真ん中で大の字になっている。寝相すげーな。


 豪快に寝返りを打ち、更に転がる。もうベッドの端っこまで行っちゃってるのに、まだ転がろうとする。


「危ねえ!」


 慌てて駆け寄るも間に合わず、叶がベッドから転げ落ちてしまう。


「おい! 大丈夫か?!」


 叶は床でスヤスヤと就寝中である。あれだけ眠り浅かったくせに、一度寝たら起きねえタイプか……マジか。


 いくら叶が小柄でも、熟睡してる人間をベッドに戻すのは苦労した。


 戻したそばからまたゴロンゴロンと動き始める。何コイツ寝ながらめっちゃ暴れるじゃん。体力ないくせに……あ、だからロングスリーパーなんだ。寝ながらにして疲れるから長時間寝るしかないんだ。


 昼寝の時は大人しく寝てたのに、なんで……あ、俺が手足縛りつけてたからかな。


 布団にもぐり込んで両手両足を巻き付ける。なるほどね、自由になると暴れちゃうんだ。ほんとしょうがねえヤツだな。ひとりで満足に寝ることすらできねえのかよ。


 俺もこのまま寝落ちしようと、照明を消してスマホを持ったまま叶を拘束する。


 もしかすると、叶の特性を知り、熟睡させられるのは俺だけなのかもしれない。何それ、めっちゃ嬉しい。俺すげー技習得しちゃった。

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