私の専属ティーチャー
6時間目になり、国語と算数の答案用紙が返却される。
その点数を確認し、私は満足感に浸る。まあ、まずまずね。
「各自、間違った箇所を確認して学び直してください。では自習ですー」
鈴木先生が入谷の席の前にある先生用の机に座る。
「どうだった? 比嘉! 満点とか取っちゃった感じ?」
「さすがに満点は取れなかったけど、いい点取れたわ」
「俺も小中合わせても初の高得点だよ、いい勝負できっかも」
入谷が嬉しそうに机の間を縫って来る。
「俺、国語98点、算数68点。惜しいよなー、書き順1問間違えちゃってさー」
「へえ、すごいわね。私も良かったわ。国語はまあアレだけど、算数なんて32点」
中学時代は30点台なんて取れなかったけど、なんとか大台に乗ったわ。やっぱり私はやればできる子だったのよ。
「え?! 冗談だろ? げっ、マジだ。国語は?」
「私、国語って苦手なのよね」
国語の答案用紙を入谷に渡す。12点の点数を見て、こちらが驚くほどに入谷が驚いている。
「マジか! しかも、正解してんの記号選択問題ばっかじゃん! これ半分はまぐれじゃねえの?」
「半分どころか、全部まぐれね。勘が働いたわ」
「実質0点じゃねーか! お前、なんでそんな落ち着き払ってんの? 先生の話聞いてた? 今年から学力底上げのために、40点未満は欠点で欠点が5科目以上あったら進級できねえんだぞ! もうこの下山手高校は答案用紙に名前書けば卒業できる高校じゃねーんだよ!」
「大丈夫よ。高校って何年でも通えるんでしょ」
「諦めるな! まだ高校生活3日目だ! 諦めるには早すぎる!」
充里が愛良の席に行って空いた前の椅子に入谷が足を開いてこちらを向いて座る。
「お前、これ見てみろ。総合得点44点はこの位置だぞ」
入谷が指差しているのは、得点分布グラフと書かれた棒グラフ。一番下の、~50を差している。
「50点以下はひとりしかいないの。そのひとりが比嘉なの。お前、1年生全体の中で一番点数取れてねえんだよ」
「え?! 一番?」
「そうだよ、やっと危機感持ったか。この日本で一番頭の悪い高校の1年生の中で一番頭悪いんだよ、お前」
けっこういい点取って浮かれていたのに、ショックだわ。みんな、そんなに頭いいんだ……。
「よし、勝負は俺の勝ち。お前、俺の生徒な。俺が比嘉の専属ティーチャーになってやるよ」
「あ、入谷より点数低かったら言うこと聞くって勝負?」
「さては忘れてただろ。俺、弟の勉強見たくて弟が小学校に入学した時にネット漁って教え方勉強したんだよね。けど、俺の弟頭いいから俺が教えるまでもなく華麗に授業だけで理解してっちゃって披露できなくてさ」
入谷が楽しそうに私の算数の答案用紙を見る。
「ほお、まず繰り上がりの足し算ができてねえ。小学生が一番最初につまずくとこだな。いいか比嘉、繰り上がりの足し算はまず、10の塊を作ることを意識しろ」
「10?」
「そう、この8+5だったら、大きい方の8にあといくつ足したら10になる?」
「えーと、2?」
「指を使って数えるな。明日までに10になる組み合わせを覚えてこい。こっちの5から2をあげて10にすると、いくつ残る?」
「えーと、3?」
「だから、指を使うな。明日までに一桁の引き算を暗記してこい。さっき作った10と残った3、合わせるといくつになる?」
「13!」
「正解! 計算の仕方を理解したら、答えを覚えろ。その方が早い。8+5は?!」
「13!」
「8+5は?!」
「13!」
「8+5は?!」
「13!」
「18+5は?!」
「13!」
「ぶわはははは! 足される数より減ってんじゃねーか!」
「あっ……ひっかけ問題とか、ズルい!」
「引っかかってんじゃねーよ。はい、18+5は?」
「えーと……指が足りなくて」
「指を使って数えるのをまずやめろ。18は8より10多いだろ? てことは、答えも10多くなるんだよ」
「じゃあ、23?」
「そういうこと! 次、8+15だとどうなる?」
「ええ?!」
「混乱すんな。8+5より10多いのはさっきと同じだよ」
「あ、じゃあ答えも同じ? 23?」
「正解! やったじゃん、ひとりで正解できたじゃん」
あ……私、ひとりで計算できたんだ。嬉しい……。
入谷の笑顔に、大きな達成感が湧き上がってやる気が噴き出てくる。ひとりで勉強しててもろくに理解できなかったけど、入谷とならやれる気がする。なんか私、今無性に勉強したい!




