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比嘉の誤解を解く俺

 口の中にはクッキー、口の外には比嘉の唇。


 初めて比嘉からキスされた! なんでこのタイミング?!


 ドッドッドッとみるみる鼓動が激しくなっていく。クッキーの咀嚼を続ける訳にもいかず、呆然としていたら比嘉がうつむいて俺の胸に顔をつける。


 びっくりしたー。中身小学生のはずなのに、なんでキスなんか……もしかして、いつの間にか年相応に成長してる?


「な……何、いきなりー。こんなんされたら俺比嘉のこと押し倒しちゃうよ」


 冗談っぽく探りを入れてみる。さすがに拒否られるかと思いきや、比嘉は何も言わない。


「え? 押し倒していいの?」


 うつむく比嘉の顔をのぞき込むと、爆発すんじゃないかってくらい真っ赤になっている。


「なんだ、固まってただけか」


 だよな。


 ガッガリ半分納得半分少しだけ安心して、クッキーを食べようと口に運んだら手から消え歯をカチンと合わせてしまった。地味に痛え……。


 なんだ?


 比嘉が俺から奪ったクッキーを口に入れ、スポドリを流し込む。


「腹減ってたの?」

「え……うん」

「はい。もう一枚どうぞ」

「いただきます」


 ほんと、変わったヤツだな。結局、クッキーもスポドリも残りは全部比嘉の腹に入った。


「あの……入谷」

「なあに?」


 比嘉のクセをマネして首をかしげる。


「えっと……ごちそうさまでした」

「どういたしまして。もらいもんだけどな」

「あの、それなんだけど」

「どれだよ」

「もらわないでほしいんだけど」

「何を?」

「何をって言うか……」


 ほんと、要領を得ないヤツだな。言いたいことがあるならハッキリ言えよ。


「言いたいことがあるならハッキリ言えよ」


 そして俺は思ったことがそのまま出てきちゃうな。


 比嘉が顔を上げる。


「嵯峨根さんから、もらわないでほしい」

「え? なんで?」

「だって……嵯峨根さんからもらった物を入谷が食べたり飲んだりするのもイヤだし、身に着けたりするのもきっとイヤだと思うの」


 は?


「なんでイヤなの? クッキー食うくらいで」

「クッキーが問題なんじゃなくって、嵯峨根さんからもらうのが問題なの」

「なんでそんな嵯峨根さんにこだわ――お前、まさかヤキモチ焼いてんの?」


 比嘉がヤキモチとか考えたこともなかった。いつも堂々とした雰囲気で神々しく女神とまで呼ばれる比嘉がヤキモチ? 似合わねえー。


「だ……だって、入谷は迷惑だったら迷惑だって言うでしょ? どうぞって言われたって、いらねーよって平気で言うし人の言いなりになんてならないのに、嵯峨根さんにだけは嵯峨根さんのやりたいようにさせてるって言うか、なんか入谷の態度が違うから」

「それは……」


 諸事情により、巨大爆弾を刺激したくねえだけだよ。


「小さくってかわいい子が好きでしょ? 嵯峨根さん、小さいしかわいいし、入谷も好きかなって」


 真っ赤になって懸命に言葉を紡ぐ比嘉を見てたら、すっげー愛おしくなってくる。


 なぜ俺の好みを知ってるのかは謎だが、たしかに俺は小さくてかわいい女の子ーって感じのギューッってしたくなるような子が好きだ。


「俺が好きなのは比嘉だけだよ」


 いくら好みでも、だからって好きになんかならない。俺はそんな単純にできてない。


 比嘉をそっと抱きしめる。十分小さい。別に小さければ小さいほど好きな訳じゃねえから。大きな誤解をされている。勝手に俺をロリコンにするんじゃない。


 そっか、俺の態度がおかしいのを嵯峨根さんへの好意だと思ったのか……。ごめん比嘉、言えないけど、俺の態度がおかしいのはまるで違う理由からだ。


「話してくれてありがと。言われないと俺、まさか比嘉がそんな勘違いしてるなんて気付けねえよ。俺嵯峨根さんのこと全然好きじゃねえし」


 比嘉が何とも言えない顔で俺を見上げる。目を伏せると、俺の胸に顔を押し付けてギュッと力を込めて抱きついてくる。


 今日はえらい積極的だなあ?!


「ちょ……比嘉……」


 ヤバいヤバいヤバい。


 全く、これだから中身小学生は厄介だよ。こんなくっつかれたら俺の理性がぶっ飛ぶぞってことが分かってねえんだから。


「あの、ちょっと俺、早いけどバイト行くわ。聞いときたいことがあってさ」

「うん……バイトがんばってね」

「ありがとう。行ってきます!」


 比嘉が玄関まで見送りに下りてくれる。笑顔で手を振る比嘉に俺も振り返す。


 あー、やっべー。まだドキドキしてる。よく耐えた。俺偉い。


 早足で創作居酒屋ひろしへと向かう。まだだいぶ時間が早いから俺の態度がおかしい原因さんは来ていないかもしれない。


「おはようございます!」

「おはよう。今日も元気だねえ」

「はい! 元気いっぱいです!」


 店長へのあいさつもそこそこに階段を駆け上がる。事務所に入ると、天音さんはこちらに背を向けてエプロンを着けていた。


 腰まである長い髪が印象的だ。あのゆるくウェーブがかった長い髪をシーツに広げたい。


「天音さん、おはよう」

「おはよう、統基」


 天音さんが笑顔で振り向く。


「ねえ、今週の土曜日空いてる?」

「あー……ごめん、今週は無理なの」

「えぇー、マジか。午前中だけでも?」

「うん……本当にごめんね」

「いや、いいんだけど」


 天音さんにもそりゃ都合があるだろうからいいんだけどさ。いいか? 俺、この状態で比嘉と旅行行くの?


 バイトを終え、家に帰った俺はまず風呂に入って自分の部屋でスマホを手にする。


 水族館の最寄り駅近辺で空いているホテルを探す。比嘉の誕生日だから、ケチケチしたくはないが金は無限ではない。


 軍資金はお年玉の15万とバイト代。行き帰りは電車だし、潤沢と言えるとは思うがメシも多少豪華なもん食ってもらいたい。近辺でおしゃれなレストラン的な店ねえかな。俺の誕生日に天音さんに連れてってもらった店みたいな。


 時期的なものもあるのか、部屋はまだ余裕がある。二人、と。ん? ベッド一個か二個か選べんの?


 え、コレ一個を選んだら、あれー、二個で予約したはずなのになーとか言いながら比嘉と同じベッドで寝られる?


 ……俺が無理だわ。

 二個だ、二個。比嘉に手ぇ出す気か。そんなことはお父さんが許しません!

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