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俺の大きな喜び

 教室に入るとまず、充里のデカい体が机に収まらないのか机の上に足を投げ出してポテチ食いながらジャンプを読んでいるのが目に入る。

 机の上には、靴を脱いだ充里の足とポテチとコーラが置いてある。どこででも自分の部屋のようにくつろぐな、充里は。


 あー、ねみ。紙の漫画は単行本派の俺は昨夜、遅くまで全53巻一気読みしちゃったせいで超眠い。俺には週刊誌は向かない。おあずけ食らわされた気分で1週間イライラする。冊数バカみたいに多くなければ、完結してから一気読みしたい。


 机に突っ伏して朝のホームルームまで少しでも寝よう。


「入谷!」


 寝かかったところで、比嘉の明るい声が聞こえてカッと目を見開きバッと頭を上げる。

 比嘉が登校してきたばかりの様子で、カバンを持ったまま一番奥の俺の席目がけて走って来る。


「メッセージのアプリ入れたわ。でも使い方が全然分からなくて、親も入れたんだけど何もできなかったの。これどうしたらいいの?」


 インストールしたそのままの状態みたいだ。まっさらだな。


「友達登録の仕方教えてやるよ。ここタップしてみ」

「うん!」


 比嘉、めちゃくちゃ嬉しそうだな。アプリひとつ入れたくらいで、こっちが笑っちゃいそうなくらい。

 こんなに喜ぶんなら、蓮も許してやろうかなあ……。いやいや、蓮はまだ小学生だし、メッセージ入れない代わりに戦闘ゲームを許してやったんだから、ここで俺から折れてはしつけにならない。

 メッセージが必要になった時には、比嘉のようにまた改めて訴えてくるだろ。その時、蓮にとって本当に必要かまた考えればいい。


 比嘉のメッセージの友達一覧に、俺のアイコンと名前だけがある。

 ……おお……何この一番乗り感。めっちゃ嬉しい。心の底から湧き上がってくるような喜び。


「入谷」

「ん?」


 比嘉のスマホから顔を上げると、持ち主が屈託なく笑ってた。


「昨日、入谷に私の親は過保護だって言われて、ちゃんと親に必要以上に保護しなくても大丈夫なんだって納得してもらえるようにがんばろうと思ったわ。私、自分の力で生きていける大人になりたい」

「比嘉……おう! がんばれ! お前、なんか自信満々な感じするし、きっとなりたい大人になれるよ」


 湧き上がるどころか、爆発したような喜びだ。俺が言ったことを比嘉が目標にするとか、嬉しすぎる!

 昨日は勢いで偉そうなこと言っちゃって、調子乗ったなあって軽くへこんでたけど、全回復した!


 チャイムが鳴って、比嘉は自分の席に行き、担任女教師りんりんが教室に入って来る。


「今日は、学力調査テストを行います。我が下山手高校は、現在4年連続で偏差値ランキング最下位という不名誉な記録を伸ばしています。5年連続最下位で殿堂入りしてしまわないように、今年は生徒のみなさんの学力の底上げを図ります」


 ええー。解答用紙に名前さえ書けば卒業できるような高校だって聞いてたのにー。


 長男だから、どうせ俺は親父の地盤を継いでホストになるんだろーし学力なんか関係ねーや、と思って自由人と人のいい佐伯と共に日本最底辺と知りながらこの下山手高校に進学した。


 卒業さえできればいいから、この高校ならいっぱい遊べると思って来たのに、いきなりテストとか詐欺じゃねえかよ。


「1時間目は準備のため自習、2時間目に国語、3時間目に算数、4時間目と5時間目は採点するので自習、6時間目に返却のスケジュールです」


 自習ばっかじゃん。てか、準備は春休みのうちに済ませとけよ。この学校、生徒だけじゃなく教師までバカばっかりか。


 りんりんが準備のために教室を出て行くと、当然ながら教室は休み時間状態である。俺も充里の隣の席へと移動する。


「なあ統基、りんりん数学のこと算数って言い間違えてなかったー?」

「俺も思った! やっぱこの学校教師までバカなんだ、きっと」

「本当に算数の問題が出るのかもしれないよお」

「あはは! さすが天然だな曽羽。足し算引き算みたいな? んなワケねーじゃん」

「高校だし、ムズい問題が出んのかなー」

「いきなりテストとか、油断してたよな」


 いくら日本最底辺とは言え、高校に入って突然のテストに多少なりとも動揺する俺たちをよそに、比嘉は背筋を伸ばして凛と座っている。


「比嘉は勉強できんの?」

「私にできないことなんてないわよね」

「ほー、言うねえ」


 さすが、神がかった美人は言うことが違う。私は何でもできる、と。やっぱり下山手に来たのは遠くから引っ越して来たから日本最底辺だなんて知らなかったんだな。


 自信満々な発言をされてもイジれねえ。たしかに何でもできそうな顔してる。


 まさに漫画の世界の住人だよな、比嘉って。

 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、何でもできる完璧美少女がすげーよく似合う。その上、いざ話しかけてみると冷たく突き放されるようなこともなく、むしろ嬉しそうに応えてくれる性格の良さ。


 いいリアクション見ちゃったもんだから女神なのに人間味を感じてガンガン比嘉に絡んでるけど、比嘉と俺とじゃ住む世界が違う。

 だがしかし、俺はその世界の垣根を越えてゆく。あんなマジ照れできる子をほっとくなんて、人生の半分以上損してしまう!


「……何?」

「よし、勝負だ、比嘉。テスト自信あるんだろ? 俺より点数低かったら、俺の言うことひとつ聞くこと」

「え? 勝負?」

「けってーい! よっしゃ! やる気出た!」

「え、待って、入谷」

「待たねえ!」


 ちょうどチャイムが鳴る。まずは国語だっけか。やったるぜ!

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