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幼馴染さん直伝、本気かどうかの見分け方

 化学室への移動中、おしゃべり三人組のひとり、里田さんがこちらに笑顔で手を振る三年生を指差した。


「恵里奈、彼氏だよ」

「あー……」


 小田さんが分かりやすい作り笑顔で手を振る。三年生が見えなくなると、はあ、とため息をついた。


「どうしたの? ケンカでもした?」

「逆。なんかさー、彼氏のラブラブ感がどんどん強くなって毎日イチャイチャしまくってるんだけど、段々ただの体目当てじゃないのって思えてきちゃって」

「そういう雰囲気に持っていこうとしてる感じ?」

「そうなの。彼氏の誕生日が近いんだけどさー、誕生日にホテル行きたいって真剣な顔して言ってきて」

「プレゼントは、わ・た・し、ってやつね」

「やつねじゃなくてさー、穂乃果ー」


 里田さんがふざけて笑って小田さんに怒られている。


 びっくりした……小田さんが大人に見える。大人の悩みだわ。


 私たちより付き合い始めたのは遅かったのに、もうそんなに大人の階段上っちゃってるの? 私も入谷との関係が進んで大人になったなって思ってたけど、更に先があったとは。


「私はちょっと恵里奈がうらやましいな」

「なんで? 結愛、渡辺くんとラブラブじゃん」

「ラブラブなのに大事にしたいからって手もつながないの。なんか寂しくない?」

「渡辺くんらしいなー」

「男友達と何が違うのかしらって感じ」

「お互いに好きな所が違うんだよ」

「やだー、穂乃果、キュンとくること言わないでよー」


 やだ、私もキュンときちゃったわ。


 そうよね、焦らなくても、お互いに好きだってことが大事よね。


「彼氏がそういう願望を持つのも恵里奈のことが好きで好きでしょうがなくなっちゃってる証拠だよ」

「そうなのかなあ」

「そうだよ。大好きな彼女と一緒にいたら気持ちが盛り上がっちゃうんだよ」

「むしろあんなチャラそうな人が今まで手も出してなかったなんて、意外と奥手なんだね」

「だよね。付き合って結構経ってるでしょ」

「今月で半年だよ」


 好きで好きでしょうがなくなっちゃってる証拠……。


 率直にいいなあ、と思ってしまう。

 入谷は本当は私のことをどう思ってるんだろう。


 私は入谷のものだって自分で言ってたのに、チュウってした後、焦って謝っていた。本当に私を入谷のものだと思ってるなら、謝るなんておかしい。


 ……あの時……付き合い始めてすぐ、入谷が私と渡辺くんの間に何かつながりがあるんじゃないかとでっち上げた時、入谷はすごく不安そうな顔をしていた。普段の入谷からは想像つかないくらい。


 「お前は俺のもんだろ。なんで返事しないの」って学校の脇で詰め寄られた時も、私が俳優さんをかっこいいって言ったら「他の男見てんじゃねーよ!」って怒鳴られた時も、口調と表情がまるで一致していなくてどうすればいいのか分からなくてとても困った。


 「他の男なんか見ないで?」って潤んだ目で言われた時にはもう私には手に負えないと思ってしまった。私は入谷が大好きなのに、これ以上どうしたらいいの。


 入谷は何かを不安がっている。私がこんなに入谷を好きでも、どうしようもない何か。だから何も話してくれないんだろう。


 時々ふと考えてしまう。入谷は私のことを本当に好きでいてくれてるのかしら。


 みんな平気な顔してどんどん階段を上がっていく。死にそうになりながら階段を上っていると、比嘉さん、と声を掛けられた。


「あ、入谷の幼馴染さん」

「阿波盛あかねや。ええかげん名前くらい覚ええや」


 階段の先にツインテールの背の高い女子生徒が待ち構えている。愛良たちは先に化学室に入ってしまった。


「ちんちくりんの子も言うてたやろ。男が手を出せへんのは彼女を大事にする気持ちからや。入谷が比嘉さんのことをほんまに大事に思てるんか、5年は様子見たり」

「5年?」

「そや。5年は我慢させな軽い女やと思われて大事にされへんなるで。入谷なんかチャラいから5年でも短いくらいかもしらんわ」

「あ! 我慢って……」


 もしかして、入谷が我慢の限界って言ってたのって、そういうことだったの?


 ちゃんと、好きでいてくれてるのかなあ……嬉しい。


「聞いとる? 簡単に登れる山は簡単に下りれるねん。そして、もう一度登ってみようとは思えへん。もっと難易度の高そうな新たな山に挑戦したくなるねん。入谷なんか負けず嫌いやから尚更や」

「そういうものなの?」

「何度挑戦してもなかなか登られへん山にやっと登れたなら、もっとこの山のことを知りたいって思って留まるねん。うちは比嘉さんに簡単に登れる山になって、入谷にすぐ飽きられるようなことになってほしくないねん」

「飽きられる?」

「そうや。比嘉さんパズルやったことある? 簡単に完成させられるパズルを何回もやってたら飽きるやろ。もっとピースの多い難易度の高いパズルに挑戦したくなるやろ」

「たしかに……」


 ひとりっ子の私は、よくパズルで遊んでいた。何日もがんばって取り組んで出来上がった時には、感動すら覚えたわ。


「ええな、比嘉さん。5年は入谷に我慢させや。ほんまに好きなら10年は軽く我慢できるはずや」

「分かったわ」

「まあ、入谷は短気な負けず嫌いやから登られへんと思ったらすぐに見切りつけるやろうし、難しいと思ったら負け判定される前に違うパズルを完成させて勝ちを取りに行くと思うけどな」

「え? なんて?」

「あんた何でも信じそうやから、一番大事なことを教えとくわ」

「一番大事なこと?」


 幼馴染さんが内緒話をするように口元を手で隠し顔を近付けてくる。


「入谷が手を出してきたら、それは体目当てのサインや。ちんちくりんの子がゆうとったみたいに、ほんまに大事にしたい本気の彼女には簡単に手ぇ出されへんのが男やねん」

「本気の彼女……」

「入谷が比嘉さんを本気で好きかどうか、見抜くことができるで」

「本当?」

「もちろん。やっぱりチャラい入谷が本気かどうかさすがの比嘉さんでも心配やったんやな」

「チャラいからって訳じゃないんだけど」


 入谷がどこか不安そうなのに、何も話してくれずに隠してるからなんだけど。


「うちは比嘉さんの幸せを願ごうとるで」

「いつもありがとう、幼馴染さん」

「そのまま、人を疑うことなく大人になりや」

「え?」

「ほなな」


 ちょうどチャイムが鳴り、入谷の幼馴染さんは階段を下りて行く。移動教室だった訳じゃないんだ? どうしてここにいたのかしら。

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