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私の親って

 放課後。1年1組の真ん中の列、一番後ろの私の前に座る充里がスマホを掲げる。


「しゅうごーう! メッセージにグループ作るぜえー」

「あいよー」


 みんなゾロゾロと充里の周りに集まって来るけど、私には関係がないから帰ろう。

 よいしょっとカバンを担いだ。


「こら! 今日は逃がさねえぞ、比嘉! 帰んじゃねえ!」

「だって私には関係ないもの」

「関係なくない。俺ゃ特別扱いしねーぞ。お前も1年1組の一員だろーが」

「そうだけど」


 後ろのドアに向かおうとしていた私の前に入谷が立つ。


「問答無用。来い」

「でも、私メッセージのアプリがないのよ」

「は?!」

「ほら」


 別に証拠を示す義理もないけど、ウソをついてると思われるのもイヤなのでスマホを見せる。


「え、スマホにロックかけてねえの?」

「うん。ロックかけたら親が見れないでしょ」

「いや、見ないじゃん」

「え? 毎日見るわよ?」

「げ……」


 え……入谷に引かれてる気がする。


「入谷の親は見ないの?」

「見たらプライバシーの侵害で訴えてやるわ」

「親子間でプライバシーも何もないでしょ。親が買ってくれたスマホなんだから、当然でしょ」

「当然じゃねーよ。何? 比嘉の中学ではそれが当たり前だったの? 俺の中学ではそういう子の親は過保護で過干渉だって認識だったけど」


「……過保護?」

「過保護。えーと、しばし待て」


 入谷がポケットから自分のスマホを出して、何やら操作している。はい、これ! と私の目の前にスマホ画面を突き付ける。


「なげーから要約すると、過保護とはこどもを育てるのに必要以上に保護して甘やかした結果、まともな社会人として巣立つのに必要なしつけがされないこと」

「え?!」

「で、なんでメッセージ入れてないの?」

「アプリを入れるのには親の認証が必要なんだけど、認証してもらえなくて入れてないわ」


 どうせメッセージアプリを入れたところで、友達もいなかったから親からしか来なくて余計に煩わしいだろうし。


「高校生にもなってアプリ入れるのに親の認証が必要とか、冗談だろ。子供じゃねーんだから」

「入谷は認証してもらってないの?」

「俺がいくつ漫画アプリ入れてると思ってんの? それ全部認証しろって言ったらめんどくせえって親の方が迷惑がるわ」

「親がめんどくさがるなんてことがあるの?」


 びっくりしてしまった。パパやママの口からめんどくさいだなんて聞いたことがない。


「何してんのー? もうみなさんご帰宅、あとは比嘉だけー」

「比嘉メッセージ入れてないんだって」

「え? なんでー?」

「入れようとしたことはあるんだけど、親に認証してもらえなかったの」

「蓮じゃん。統基も前にSNSはトラブルの元だから却下したって言っとったよねー」

「蓮は小学生だからな。まだ善悪の判断がつかない子供にメッセージは早い。でも高校生にもなったら今どき連絡ツールとして必須じゃん」

「そんなこと言われても、親がダメだって言うから」


 充里には笑っていた入谷が呆れたようにこちらを向く。


「なんでダメなの」

「犯罪に巻き込まれでもしたら危ないから」

「日常生活に必要なものを非日常を想定してダメだなんて理由になってない。却下。刺されたら危ないからって包丁買わないのと一緒。使い方次第だよ」

「使い方次第……」


 なんて説得力かしら。たしかにそうだわ。


「何のためにスマホ持ってんの? コミュニケーションツールでしょ?」

「親がGPSで居場所を把握するため」

「マジかよ! 俺が蓮にスマホ持たせてる理由と同じじゃん」

「ハイ出た、過保護ー」

「蓮はまだ小学生なんだから、当然の保護だろ。行き過ぎた保護じゃねえよ」


 え……私って、小学生ですら過保護だと言われるくらいの保護をされてたの?


「無自覚過保護ー。蓮なんかしっかりしてるから大丈夫じゃね。自主性に任せた方がいんじゃね」

「黙れ、自由人。蓮はまだ小さい子供だよ? たしかにしっかりしてて賢いけど、甘えん坊でかわいいんだから誘拐犯がほっとかねえだろ!」

「ハイ出た、過保護ー」

「私はブラコンだと思うなあ」

「違うぞ、曽羽! 俺はブラコンじゃねえ! 俺は甘やかすばっかりじゃなくて、ちゃんと注意もするし宿題もさせるししつけしてるから! って、蓮の話はいいんだよ!」


 入谷がまっすぐに私を指差した。え、何? 犯人はお前だ! みたいな。


「高校生にもなって、比嘉の親は過保護だ! 高校生は子供じゃねえ。このままじゃお前、まともな社会人として自分の力で生きていけない大人になるぞ! 自分にとって必要だと思ったら親と戦え! 親がダメって言うからダメじゃなくて、ちゃんと自分の頭で考えろ!」


 大きな衝撃。優しいママが、パパが、私を自分の力で生きていけない大人にしてしまう?

 私は、自分の頭で考えてなかったの?


 ……言われてみれば、そうかもしれない。


 つい昨日だって、私はみんなと遊びに行きたかったけど、親が一緒に帰ろうねって言ってたから帰った。

 そして、今日、愛良に他に友達ができててひとりぼっちになっちゃうんじゃないかって、すごく不安だった。


 入谷はまだ鋭い目で私を見ながら指を突き付けている。

 親がダメって言うからダメじゃなくて、私は昨日どうするべきだったのか、自分で考える。


 そうか、目から尾ひれ。私は昨日、親に電話するとか門にいるのは分かってたんだから話をしに行くとかして、みんなと遊びに行きたいって自分で言わなきゃいけなかったんだ。


「えっらそうにー。蓮が戦いを挑んできたらケチョンパにしねえで負けてやれんのかよー」

「あ、戦うって言葉は違ったな。なんつーの、ちゃんと理由が納得できれば、俺だって絶対負けねえけど許してはやるよ。俺実際、蓮に戦闘ゲームやりたいって言われてダメって却下してたけど話し合って許したからね」

「えっ、なんで許そうと思ったの?」

「蓮の話聞いて、蓮なら戦闘ゲームやらせても大丈夫だなって納得できたからだよ。俺は蓮を守りたいだけだもん。大丈夫だと思えて蓮に必要なものだと分かれば許すよ」


 大丈夫だって、納得……。


 家に帰ったら、ちゃんと話をしよう。

 私にとって、メッセージアプリは1年1組の一員として必要なんだって、私は友達とアプリを使って仲良くなりたいだけだから犯罪に巻き込まれるような使い方はしないって、納得してもらえるように話し合おう!

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