私たちのクリスマスイブの予定
土日を挟んで一週間にも及んだ期末テストが終わった。一学期と同じくみんなでボーリングに行き、前と同じレーンを熱望した入谷とまた一緒にボールを投げて楽しんだ。
「どうしていつも入谷には惜しい所で負けちゃうんだろう?」
「お前、俺に勝てるとでも思ってんの?」
「勝てないの?」
「勝てないよ」
「どうして?」
「俺だから」
……何が?
入谷が何を言ってるのか分からなくなってしまった。
テスト期間が終わると、テスト返却期間に入る。
「入谷! 見て!」
「欠点は3つ! 行ける! このまま行けば一緒に二年生になれるよ! 比嘉!」
「うん!」
良かった! あと1回!
3学期は学年末テストの1回しかテストはないらしい。
その1回で欠点が5つ以上あったら留年になってしまうのかもしれない。油断はできないけど、とにかく今はクリアできたことが嬉しい!
「なんで現代文は一向に成績上がんねえんだろ。漢字が書けるようになった分は上がったけど、漢字は配点少ないからなあ」
入谷が私の現代文の解答用紙をじっくりと見ている。
「なあ。1マス1字でって書いてんのに同じマスに点とあが入ってんだけど。何コレ」
「マスが足りなかったからよ」
「当然でしょ、みたいに言うのやめてくれる? お前の答えに解答用紙を合わせるな! お前の答えを解答用紙に用意されてるマスの数に合わせろ!」
またこの人は何を言ってるのかしら。
「分かってねえな……。あのな、ここ読め」
「15文字以内で書き抜きましょう」
「お前が書いた答えは何文字?」
「16文字」
「絶対間違ってんだよ! これかな? って思っても設問の条件に合わなかったら違うんだなって判断しろよ!」
「でもこれ、間違ってる? これでも丸で良くない?」
「いいと思うよ。だからこそ、15文字以内で書き抜きましょうなんだよ」
「え?」
いいか、と入谷がシャーペンで問題文の最後の方をグルッと囲む。
「この中にお前が書いた答えと同じことを書いている文章があります。探してみましょう」
8回くらい読んで、やっとこれかな? と思い当たった。
「これ?」
「その文章は何文字?」
「えーと……14文字」
「お前の答えとこの文章、どっちも正解だからこそ、15文字以内でって制限をかけられてるの。そうすることで、正解はこっちのひとつに絞られるの」
「……え?」
ちょっと分かりかけた気もするんだけど、もやがかかってる中でヒントをつかんだような感じ。
「比嘉の答えも内容は間違ってなかったけど、16文字あるから正解には絶対にならないの」
「16文字以上は絶対にバツになるってこと?」
「そういうこと! 逆に言えば、15文字以内の文章をピックアップしてその中から答えを選ぶこともできる。めんどくせえから、これかな? って思った文章の文字数を数えるだけで十分だとは思うけど」
「え?! 問題の中に答えを絞るヒントがあったの?」
「そうとも言えるな。現文はとにかくひとつひとつの設問までしっかり読まないと、正しいと思うものに丸しろって問題の次に誤っていると思うものに丸しろって問題があったりするから引っかかる。案の定引っかかってんじゃん!」
そんな引っかけ問題が紛れ込まされていただなんて……。
「先生、ズルくない?」
「国語力を試されてるからね。ちゃんと読まなかったお前が悪い」
そう言われてしまうと何も言えないんだけど、なんだか納得いかない。もっと真っ当勝負で挑んでくれないと。
「なあなあ、それよりさ、クリスマスイブどーする?!」
「あ、私、もしかしたらクリスマスイブの日は出かけられないかもしれない」
「なんで?!」
入谷がものすごくショッキングな顔をする。
ごめんね。私も入谷と遊びに行きたいんだけど……。
「沖縄から、お父さんの妹が来るの。結婚するらしくて、婚約者を紹介しに」
「お父さんに会いに来るんだろ?! 比嘉はいいじゃん!」
「んー、でも、ずーっとすごくかわいがってもらってるから……。でね、日曜日に来て、一週間うちに泊まってイブに沖縄に帰る予定だから、見送りに来て欲しいって言われてて」
「なんでだよ! お父さんだけでいいじゃん!」
パパと遥ねえねは17歳も年が離れていて、私と遥ねえねが9歳違い。遥ねえねには妹みたいにかわいがってもらってきた。
遥ねえねが結婚するならこっちに来られることはそうそうないだろうし、私も沖縄までなんてひとりで行けない。今度会えるのはいつになるか分からない。
入谷とも遊びたいけど、遥ねえねが見送りに来て欲しいって言ってるのに、彼氏と遊ぶからイヤだとは言えない。
「ごめんね。飛行機の時間によってはちょっとくらいなら会えるかもしれない」
「イブにちょっとかよー……」
「25日は大丈夫だから」
「終業式じゃねーかよ! イブに一日遊びたかったのにー」
うん、とっても気持ちは分かる。私もカレンダー見て、わあ、イブが日曜日なんてすごい! って楽しみにしていたもの。
「俺、クリスマスに比嘉とペアリング欲しかったんだよ」
「ペアリング?」
「お揃いのリング。比嘉、アクセしてねえじゃん? 初アクセ、おそろにしたかったの」
……お揃いのリング……なんか、入谷らしくないかわいいことを言いだしたわ。意外。かわいい!
「どうしておそろがいいの?」
「同じリングしてたら俺のもんって感じするじゃん? 俺のもんなんだから俺から離れんなってオーラあるじゃん?」
すごく入谷らしい理由だったわ。
「終業式が終わってからでも買いに行けるよ」
「イブの残りもんしかねえんじゃねーのー?」
「残り物には運があるってことわざもあるし」
「福だよ。残り物には福があるだよ。中途半端に覚えやがって」
しゃーねえヤツだな、と入谷が笑って私の頭をなでる。
たった今まですねてたのに、急に笑うからドキッとする。
「じゃあさ、次の日曜日も会えないの?」
「3時に来るって言ってたから、3時までなら会えるよ」
「待ち合わせを早めよう! 俺早起きするから!」
「うん!」
解答用紙をカバンにしまって教室を出ると、ちょうどツインテールの入谷の幼馴染の女の子と知らない背の高い男の子が腕を組んで歩いていた。
「お二人さん、えらい幸せそうでんなあ」
「あかねこそ。それが斉藤翼?」
「そうやで。ソフトテニス部キャプテンで顔はイマイチやけど優しくておもろいうちの彼ピッピ、斉藤翼や」
「お前本人の前でよく言えるな」
斉藤翼くんは、どちらかと言うと大人しそうで、1年生なのに先輩を差し置いてキャプテンだなんて、意外だわ。
「うわ……比嘉さん……」
「行くで、斉藤翼」
私は初めて斉藤翼くんを見たと思うんだけど、どうして私の名前を知ってるのかしら?
「何斉藤翼の後ろ姿を見送ってんだよ」
さっきまで笑ってたのに、入谷がミニチュア・ピンシャーみたいな目で私を睨んでいる。
「他の男見てんじゃねーよ」
「私の名前知ってたから、なんでかなって思ってただけよ」
「ああ。久しぶりに比嘉見て呆然としてるヤツ見たわ。俺のもん! 何日でもいいから、絶対ペアリング買いに行こうな!」
「わっ」
いきなり力いっぱい抱きしめられてびっくりする。
良かった、もうイブに会えないことは怒ってないみたいね。
本当に入谷とも会いたい。でも、遥ねえねはひとりっ子の私にとってはお兄ちゃんみたいな大切な人なの。




