俺に告ってくれたギャルへ
充里と比嘉が前後の席なのはラッキーだった。自然と俺と充里と比嘉と曽羽でメシを食う空気を作ることに成功した。初日にこの4席を陣取れたことは大きい。何事も初めが肝心。
ふとざわめきを聞き取り、廊下を見ると他のクラスの男どもが前後のドアから廊下の窓から何人も何人も教室をのぞいている。さては、都市伝説が広まり確認しに来たか?!
「比嘉、これ何? この赤いの」
「赤いの?」
「これこれ。このタコ的な形したヤツ」
「ウインナーのこと?」
「へー、これがウインナーねえ」
「え? 入谷、ウインナー初めて見たの?」
んなワケあるかい。
廊下から絶望したような大きな嘆息が聞こえ、ゾロゾロと教室前から去って行く。
「あの男何なん?! あんな顔近付けるとか!」
「俺あの距離で息できる気がしねえ!」
「死んでもいいから、あの顔をあの距離で見たい!」
「てか、何、あの男あんな近付くくらい仲良くなってんの?!」
「マジで?! まさかあの男……」
「ウソだろー、もう男できてるとかー。マジ何なん、あの男!」
「てか、早すぎねえ? あの男早すぎねえ?」
仲良くはなってねえ。あの男あの男と失礼なヤツらだ。だがしかし、早すぎるなんてことはないのだよ。スピード勝負だ。
これで、俺という存在が広まって比嘉を見学に来る男がガクッと減るだろう。
あいにく、うちのクラスメートは見世物じゃねーんだよ!
「ほんとだー、ふたりともかっこいい」
「わー、本当にイケメンコンビだねー」
かわいい声がして廊下の方を見ると、廊下の窓から隠れるように目だけを出してこちらを見ている女子ふたりがいる。
もはや無意識、気付いていないフリをして無表情にクールを装う。
「俺ら見てんのー? 隠れてないでカモン、トゥギャザー」
「えっ」
彼女の前で笑顔で他の女の子招き入れるとか、さすが自由人充里な。やると思った。
おじゃましまーす、と女子ふたりが教室に入って来て、充里と俺の前に立つ。今女子に気付いた、風に目が合った瞬間にニコッと笑う。小声でキャーって漏れてんのが超いい。
おお、このふたりもかわいい。
我が下山手高校は4年連続で偏差値ランキング最下位な日本で一番頭の悪い高校ながら、かわいい女子が多いという噂は本当だったようだ。
「君らのお名前はー?」
「沙也と弥々!」
「沙也と弥々? ふたご?」
「ううん、偶然似たような名前だったの」
へー、顔まで似てるから俺もふたごだと思った。
沙也って子は充里を見ていて、弥々って子は俺の前ですっかり頬を染めている。顔も名前も似てるけど、好みはちょうど分かれましたか。そうですか。
充里は背が高く、中学ではバスケ部で活躍していたスポーツ万能ガタイのいい男らしい体形。男っぽい体に反して、顔は小さく柔和で万人受けするイケメンだ。
対して俺は、男にしては小柄で細い体にくせっ毛がうねりまくっている茶髪、無駄な肉がないおかげで小顔な濃いめの顔立ち。充里と違って好みが分かれがちではあるものの、好みではなくともイケメンであるという事実は誰もが認めてくれる。
体に男らしさのまるでない俺には、顔しかない。日本で最底辺の高校に通い、運動も瞬発力頼りの俺が自信を持てるのは顔だけだ。
沙也弥々かわいいけどそこまで興味ないし、食べ終わったパンの袋を捨てようと後ろのドアの近くにあるごみ箱へと歩いてくと、開け放たれたドアにひょこっと顔が現れた。
うわ、びっくりした!
「あの、入谷くん、ちょっと、出てきてくれない?」
「え。いいけど」
来たか。2日目にして来たか。
教室から出て、人気の少ない階段下に呼び出される。
「あの、えーと……」
用があるならさっさと言え。この空気、小中と何度も経験してこっちは察しがついとる。
俺は決めている。高校生になったら、一番最初に告白してくれた女の子と付き合う、と! 誰にだって絶対にいいところがあるんだから誰だっていい。世の中早いもん勝ち。
うつむいてモジモジしてる女子をジロジロと見る。ギャルか……。
金髪のロングヘアにカラフルな髪飾りをたくさん付けてゴテゴテした色のうるさい髪に、元の顔なんか想像つかない派手なメイク、いかちいツメ、短いスカートで足を存分に出している。
俺は壁にもたれて軽く足を組み、両手をズボンのポケットに入れて気だるげにしつつもそれなりにマジの顔を作る。完全にこっちはカッコつけてんだよ。準備オーケーなんすよ。早よしてもらえますかね。
「入学式で校歌に合わせて踊ってる姿を見て、一目惚れしました。私と付き合ってください!」
いつどこで一目惚れされるか分からんもんだ。
俺は一番最初に告白してくれた女子と付き合うと決めていた。だがしかし、ここまで気合いの入ったギャルとは想定外だった。
でも……ギャルだけど、さっきまでの恥じらった感じ、今まさに赤くなってる原型をとどめていない顔。ギャルっつっても、告る時にはこんな照れるとか、いいじゃん、かわいい。
うん、いいよ、って言おうとした瞬間、自己紹介の時の爆発すんじゃないかと思ったくらい真っ赤になってた比嘉を思い出した。
つられるように、昨日不意に見せつけられた笑顔も思い出す。
……あれ? 声が出ない。いいよって、言おうと思ったのに。あれ?
変な沈黙ができてしまう。
え、これ、こんだけ間が開いちゃったら今からいいよって言っても変な空気にならないか? なっちゃうよ。
どーすっかな。これもう、この告白受けらんないじゃん。しくったわー。
……仕方ない。間が開いちゃったんだから。
「ごめんね、俺君のこと何も知らないのに付き合おうとか言えない。そんないいかげんに付き合い始めたんじゃ、君のことを傷付けちゃうかもしれないでしょ? 俺、そんなんイヤだから。とりあえず、友達になってくんない?」
「え……う、うん! そうだよね、私の方こそ、いきなり付き合ってなんて言ってごめん」
「ううん、うれしかったよ。ありがとう。じゃあね」
「うん! またね!」
笑って手を振って、教室へと戻る。
フラれたと感じさせずに断れたかな。せっかく勇気を出してくれた告白を無下にはしたくない。ありがとう、告ってくれたことは素直にうれしい。
教室に入ると、まだ弁当を食ってる比嘉が目に入った。ハッと我に返る。
いや、比嘉の顔思い出したからって何なんだよ。意味分からん。
俺何やってんの? 最初に告ってくれた子と付き合うって決めてたのに! 一人目断ったら、もう彼女作れないって知ってるのに!
高校でも彼女作れなくなるとか、最悪じゃん!
 




