交差点は地獄の入口
第3回小説家になろうラジオ大賞に応募した作品です。テーマは「交差点」。
「兄ちゃ、やめようよ」
妹の恋の言葉に迅は(ビビったな)と思った。
目の前を通りすぎる車のスピードを見れば無理もない。
「ほら、恋もシール欲しいんだろ?」
「だって子どもだけでここを渡ったらダメってママ言ってたもん」
家の近くには大きな交差点がある。
兄妹はその交差点の前にいて、行き来する車の向こうはコンビニだ。
今日からコンビニ限定で、鬼を倒す大人気漫画のキラシール付チョコが発売する。迅と恋はどうしてもそれが欲しかった。
「じゃあ一人で帰れよ。俺だけシールゲットするから」
向う側の車達がピタリと止まり信号が赤から青に変わる。
兄は妹の手を離し、一人で横断歩道へ踏み出した。
「兄ちゃ!」
迅がチラリと見ると恋はかなり迷っている様子だった。何かきっかけがあればついてくるに違いない。
「白から落~ちたら、地獄っ」
迅はわざと大声で楽しそうに言って、横断歩道の白いところだけをぴょんぴょんと飛び移って進んだ。
「……やっぱり恋も行く!」
兄が振り向くのと妹が飛び出したのと、カーブを曲がったトラックが来たのは同時だった。
「恋!危ない!」
轢かれる!そう思った瞬間。
とぷん……
駆け出した恋の爪先が横断歩道の黒い所に触れた途端、それは液体のように小さく波紋を作る。
まるでそこに穴でもあったのか、恋の脚が、腰が、状況を飲み込めず怯えた顔が、瞬時にストンと地面に飲み込まれて消えた。
キキキイイィッ!!
トラックが悲鳴のようなブレーキ音を立て、恋が消えた場所の上に止まった。
「おいっ!子供が轢かれたぞ」
「きゃああ!」
「君?大丈夫?」
迅の肩を誰かが掴んだ。
俺のせいだ。恋が
俺のせいだ。恋が消えた。
俺のせいだ。
迅の頭の後ろがぞわりとして視界が歪む。
トラックが白いただの塊にしか見えなくなる。
刹那、塊の下から何かが這い出してきた。
周りからわっと声が上がる。
「生きてるぞ!」
「奇跡だ!!」
這い出たそれは、迅の元に駆けてくる。
「兄ちゃ!」
「……恋?」
白い顔も服も真っ黒なのに表情だけはピカピカに輝いた妹を抱きしめて、迅はボロボロと泣いた。
後の会話。
「シール買えなかったな」
「恋、シールいらない。優しい鬼さんにお土産貰ったもん」
「え?」
「恋、じごくに落ちちゃったの。じごくの鬼さん達が間違いだよって恋を帰してくれたんだ」
「……は?」
「ほら!」
妹の手には一文銭が握られていた。
兄は妹を問い詰めたい気持ちと羨ましい気持ちが渦巻いたが、何も言えず帰途についた。
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