①-2 新たなる希望
空腹は紛れないものの水分を摂取したことで、脳が活性化したようでようやく今の状況を冷静に考えることができた。
ほんの数分前までアルカナの地で国のために戦っていたはずが、何故どこかもわからない場所に移動しているのか。
移動したのであれば、何故ここまで静かな森なのか。国中が戦争の危機ということは、避難警告や外出禁止令が出ているはずだ。それなのに先ほどの女性はまるで平和そのものをあらわしたように川へとやってきている。
それにこの綺麗な空。アルカナの地は黒い太陽によって、空は日中薄暗い雲で覆われていたのだが、今はここまで澄んだ空は見たことのないほど美しい。
冴えてきた脳で考えれば考えるほど謎が増してくる。それでも吸い込まれそうな青い空を見ていても何も変わらない。
今できること、この世界に何が起こっているのか。それを知ることだ。
リヴェルは立ち上がり、先ほど女性が全速力で駆けていった方角を見た。ただ破れかぶれに森を逃走したわけでなく、その方角から来たから戻っていったのだと推測したからだ。
身体を動かしていくうちに少しずつ慣れてしまったのか、骨の軋みはほとんどなくなってきた。うん、身体が軽く感じる。
森を歩いて十分ほどしたところで見えてきたのは人がざわめく大きな町だった。町には多くの人が歩き、大人から子供までいる。
その光景は平和のそのものだ。驚いたのは平和な町ということだけではなかった。最初は気付かなかったが、町を歩いているうちに違和感を覚える。知っている町。ここはリヴェルが住んでいた町ラティーナだ。
記憶にはない店や酒場が並んではいるものの地形は変わらない。そして、町から見える山や城にも見覚えがある。二日ほど前も市民の避難警告のためにこの町に来ていた。
その時にはここまで綺麗な町ではなかったし、他国からの攻撃も受けており、半壊している建物さえあった。それがどうだろう。たった二日でここまで綺麗に修復できるのだろうか。
それにここまで賑わっていることも疑問の一つだ。戦時中であるはずのこの国が笑顔で暮らすことができるものだろうか。
第三次大戦だったはずが、何故町がここまで賑わっているのか。頭をフル回転させてもその解答にはたどり着けない。
頭を悩ましながらも綺麗に敷かれた煉瓦の道を歩いていると、自然と鼻に吸い込まれてくる肉の油と調味料が混ざった食欲をそそる香り。この町に来て驚きと疑問で忘れかけていたが、今最も重要なことは食事を摂取することだ。リヴェルはこの平和すぎる町の謎はひとまず置いて、食事に決めた。
リヴェルが眠っているうちに身ぐるみをはがされたのかわからないが、奪った衣類以外は一銭も持っていない。普通であればレストランや酒場に入る事すらできないのだが、少し自信があった。
それは昔から国の英雄、神童とされてきたリヴェルは町を歩くたびに果物を受け取ったり、レストランへ行っても無料で作ってくれたりしていた。
顔を見れば「お代はいらないので」など言われたり、頼んでいない品が来たりしていた。
だが、それでは国民に示しがつかないと律儀に代金を払い続けていたのだが、今日は緊急事態だ。その職権という名の財布で食事をしてしまおうと考えたので、そのまま迷うことなく目に入ったレストランへと入店する。
もう少し続きます。