⓪-5 聖暦二〇二〇年
「もうほかの地区は全て壊滅してる。この戦争も終焉を迎える。もう降伏しろ……ん? なんだ?」
ベルダスの甲高い悲鳴にも気をとられることなく、リヴェルは何か町の異変に気付いた。
周囲はほとんど人がいなくなっている。自国の市民は避難警告が出ているのでいなくて当然だが、先ほどまで見えるところで戦っていた敵国の戦士が全くいなくなっている。
そして、すぐに気付く。気になっていたのは周囲ではない。上空だった。
「なんだあれ」
空に浮かぶ赤、緑、黄の三色の光が混ざり合い、うねうねと回転しながら輝いている。想像もできないほどの大きな光に、ここでようやくリヴェルは眉をひそめた。
「さ、作戦が俺だけだと思ったか……」
ベルダスは痛む足を抑えながら不敵に笑いかける。
当然第一候補として、ベルダスがリヴェルを倒していれば、そのまま終わっていた。
「こんな魔法見たことねえ。それにかなりでかい」
すでに上空の光以外に興味を持たなくなったリヴェルは、倒れたベルダスなど眼中になかった。
見つめる三色の光は空を回りながらどんどんと大きくなっている。
「お、おい、ちょっと待て、まだ俺がいるぞ」
恐れていたのは自分も巻き込まれること。ベルダスの反応を見る限り、敵味方関係なく攻撃を仕掛けようとしている。
撃ち抜かれた右足の痛みで立つことができない。二人は得体のしれない三色の光を見上げることしか抵抗はできない。
「何しようとしてるかわからないけど、知らない魔法に付き合う気はない」
リヴェルは小さくため息をつくと、黒い影が足元に現れた。その影は少しずつ色が濃くなり足元を沼のように包み込み沈んでいく。
「なっ!?」
沼に呑みこまれるようにつま先から脛、膝へとリヴェルの身体は黒い影に入っていく。
「悪いけど、お前一人でやってくれ」
リヴェルは黒い闇に包まれた移動魔法を描いていた。空間から移動してこの場を立ち去るつもりだった。自分の知らない魔法をむやみに受けるつもりなどない。
「ちょ、おい、待て。まだ終わってねえ。それに……」
何もできないベルダスはこの場所から離れようとするリヴェルを見て焦っていた。この魔法が発動されることは知っていたのかもしれない。だが、自分が巻き込まれるなんて思ってもみなかった。
痛みで動かせない足に、目の前ではゆっくりと黒い影に沈んでいくリヴェル。ここから逆転の好機など考えられない。ベルダスには言葉で抵抗するしかなかった。
ベルダスの小さな抵抗も実ることのないまま、巨大な光は地上めがけて、急降下してきた。
「ち、ちくしょう!!!!!」
ベルダスの声は戦場に包まれながら光の中に消えていく。
『ガサッ』
音の先、大樹の下に隠れてフードをかぶった少女が顔を出していた。その姿に気づいたリヴェルは黒い影から身を乗り出した。
その瞬間、一帯は光で包まれた。
もう少し続きます。