銀の蜂蜜
自分の足からドブッドブッと血が溢れ出している。
「…うわあああぁぁぁああああああがぐうぅぅぅぅ!!!!!!!」
視認した途端絶望的な激痛。
膝から下がないのだ。
ほんの1秒で気を失い、そして激痛で意識が戻る。
それを数度繰り返した所でだんだん視界が暗くなってきた。
ああ、死ぬんだ。
そうぼんやりと思った。
ごめんなトカゲ達、卵、どうか幸せに。
「ワ ガ コ」
――――――――ッ!!
滝が落ちるような低く圧力がある声が辺りに響いた。
「ワ ガ コ」
!!
そういえば先程も聞こえた、なんなんだ!
上をふと見上げた。
「っ・・・、あっ・・・」
うっすら銀色でどろどろの蜂蜜のような粘液が形をつくっている。
それはおよそ10m……、いやもっとあるかもしれない。
夕暮れな上透けていてはっきりは分からないが、羽根のような形に長い首、するどい4つ指の爪。
誰もが知っているが誰も見たことがない、本物などいるはずない。
明らかに・・・
「ドラゴンだ・・・」
「ワガコハドコダ」
……なんの事だろう?
もう考える事もうまく出来ない。
「なんのことか……分からない……です」
ヴァオオオオオオオオオオォォォ!!
大地が震える程の咆哮、もう全てにおいて生きた心地がしない。
「!」
ギョロッとしたドラゴンの目が何かを見ている。
「…グハッグハハハ、ソウカニンゲン。オマエ、カエシタノカ」
何をだろう?
何をオレは返したのだろう?
ドラゴンの視線を追うと……卵だ。
そして卵が……、割れている。
「あぁっ、ああぁっ!!」
最悪だ、さっきの衝撃で割れてしまったんだ。
涙が出てきた、なんてことだ。
「ヒサカタブリノコトダ、オマエハ、サイヤクニ、ナル」
最悪だよ、ああ、最悪だ。
オレは涙も血も垂れ流しながら少し手の届かない距離で割れている卵だけを眺めていた。
ドプッ。
卵から液体が溢れ出している。
いや溢れているというより、卵の殻が溶けて少しずつすべてが液体に変わり始めている。
少し銀色がかった蜂蜜のような粘液が。
「……スノーブルーリザードじゃない?」
あんな粘液は図鑑でも見たことない。
いや、生まれる前の中身はあんななのか?いやそんなはずはない、だって既に鼓動がしていたんだ。
どこまでかは分からないまでも既に形成しはじめていたはずだ。
ズルッズルッ。
その液体が、意思を持ったように這い出てきて……オレの方に近づき始めた。
「あっ……、あっ……」
怖い、なんなんだ一体っ・・・!
「ニンゲン、マカセタゾ」
その声と共に銀の蜂蜜がオレに飛びかかってきた。
そこでオレの意識はプッツリと途切れた。
――――――――――――――――――――――――――
…っはぁ!!!!
眩しい、日が出ている中すさまじい寝汗で目が覚めた。
背中までべったりだ。
そして何故かオレは外で寝ている。
「なんで……」
記憶が混濁してよく分からないが30秒もすると何があったか少しずつ思い出してきた。
夕方ごろ出ようとして今は高く日が出ている、ずっと寝ていたのか?そして
「そうだ、オレ死んで……」
はっとして卵を見た。
無い。
焦って立とうとして気付いた、そうだ足が……
カシャンッ。
立ててしまった。
足が、ある。
びっくりして自分の足を見た、足があるのだ。
しっかり大地を踏んだ圧も足の裏で小石を踏んだ感触もある。
とても馴染んだ足。
血が通っているように温かい足。
昔からついている気すらする足。
自分の身体の一部になっている、銀色の蜂蜜のように透き通った……
ガラスの足が。
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