ショートストーリー ああ勘違い
もとプロ野球選手のKさんは六十五歳で老人大学に通っている
そこで昨年までは『木彫り』を習っていた
先日もスポーツセンターのカウンターに蒸気機関車を彫ってきて飾っていた
仏像やマリア像も作る
その上今年は干支の申を彫っている
何分材料の木はバットがたくさんあるので
事欠くことはない
センターに運動に来る人から注文も受けて作っている模様だ
ところが今年から『大正琴』を習いだした
大正琴がどういうものか僕には知らないが
何事も上手になろうと思えば
練習をしなくてはならない
学校だけで習って家で練習しなかったら
それこそ上達なんて絶対にありえない
今日も泳いでから巨体をゆすりサウナにはいってきたKさん
開口一番
「うちの嫁はん六十四歳なのに一日に一回はさわらなアカンで」
と 枯れた笑いを浮かべて言うんや
「おまえそんなに触ってほしんか」
とうれしそうに言ったんや
そういえばこのところご無沙汰している
嫁はんをかまってやっていない
「ほんまやな」
と言ってニヤニヤしていると
「あんた何考えているの 私は琴を一日一回は触って練習せなアカンで
何勘違いしているんや あほかいな」
とぴしゃりと言われたらししい