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農民の俺が魔王になるまでの話  作者: 餓鬼九十九
第一章 雨降って地固まる
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第5話 星の魔導士

 「それで、彼の動きはどう?」

 

 勇者の動向について報告する為にギルドにやってきたアドベル。

 来て早々に会議室に通され、例の如く結界を発動するゼロ。

 若干の張りつめた空気に似つかわしいギルドマスターの容姿はいつ見ても違和感でしかないが、彼女自身は気にしていないのだろうか。

 まぁ私には関係のないことだが、第一声に挨拶も無いというのもいかがなものかと。

 長居したいわけでもない、できるだけ早く済ませよう。

 

 「例の勇者の動向ですが、現時点では特に目立った問題点はないようです。しかし一転不可解なことが」

 

 一瞬の間が空き、ゼロの表情が曇る。

 この様子から察するに、ある程度、結果を予測していたのだろう。

 まぁ正直、いったい彼女はどこまでを知っていてどこからを知らないのか、何を気にしてどういったことに怒りを向けるのか、最近のゼロの動向の方が勇者よりも余程奇怪だ。

 なんていう本音を口に出したら問答無用で殺されそうだな。

 

 「あの勇者は現在この国を出て、星の魔導士、ニール・ラフテリアと行動を共にしているようです」

 

 ゼロは目を見開いて、硬直している。

 正直私自身、この報告を聞いたときは流石に驚いた。

 星魔導士ニール・ラフテリアは、ギルドに所属するSSSランクの一人、通称死骸の星(カーカススター)・ニール。

 その名前の由来は諸説あるが、最年少でSSSランクに上った実力派で、星や星座の名前を模した個有魔法を扱うと言われている。

 ギルド初期メンバーの私ですら、奴と相対したことはない。

 それほどまでに人と接するのを嫌っている者が、生真面目な勇者と行動を共にしている理由が分からない。

 ゼロの反応を待っていると、考えがまとまったのか、口を開いた。

 

 「アドベル。勇者の監視はやめていい、その代わりヴェン達にしばらく護衛として付いていてくれ。本人たちに気付かれないようにしてくれるとなお助かるよ」

 

 それだけ言うと、ゼロは結界を解き、少し面倒くさそうに立ち上がって会議室を出て行った。

 なぜそんな命令を、なんて疑問は持たない。

 いつものように私は、ギルドマスターに従って動くだけ、それが私の存在意義であり、生きる目的である。

 全ては行き倒れになりそうだった私を拾ったマスターに恩を返す為に。

 

 「しかし、相変わらずいつも自分の要件が終わると直ぐ出て行くのはどうかと思うが……」

 

 自分の他に誰もいない会議室で呟いたアドベルの言葉は、誰かに拾われることもなく静寂に包まれた。

_____________________________

 

 全く、面倒臭いことになったものだ、こっちも忙しいっていうのにニールも嫌に藪をつついてくる。

 あの勇者がルゥと合わないようにアドベルを使おうとしていたのに良くもまぁ星魔導士なんて味方につけたもんだ。

 

 「もうちょっとみんな、僕のことをいたわって欲しいね」

 

 これでも私はこの国で一番の年長者なんだぞ?

 まぁ年は取らないんだけどさ……。

 

 「それにしても……どうしたものかなぁ、ニールが絡む以上うちのメンバーは基本役に立たないし……私一人で解決するわけにもいかないしなぁ」

 

 考え事と独り言を繰り返し、ギルドの自分の机で頭を抱える。

 やはり何か考え事をするときはこの社長室というべきギルドマスターの部屋で一人で考えるのが一番落ち着くというものだ。

 しかし、冷静になっていくら考えてみても星の魔導士が勇者と行動を共にする理由が全く分からない。

 どうにかして監視体制をとりたいが……。

 

 「監視させるにも、相手があいつじゃ、アドベルには荷が重すぎるなぁ」

 

 他に頼める人材がいるかと言われたらはっきり言っていない。

 かといって放置しておけばルゥ達がかなり危険なんだよねぇ、正直アドベルを護衛に着けてもあの二人が攻めてきたら成す統べなく一瞬で終わるだろう。

 あの勇者はハーフに対しての恨みの度合いが違うから説得云々もできないだろうし、だからと言って勇者は国の基に動いてるところあるから殺せないし。

 

 「安全なオブザーバーが欲しいところだよ、まったく」

 

 不意に部屋の扉がノックされ、私の思考は一度中断された。

 扉越しに、「マスター、いらっしゃいますか?」と声が聞こえてくる。

 

 「なんだい?」

 

 この声の感じは、受付のレイか。

 普段から物静かで冷静な奴だが、僕の部屋に来るなんて珍しいもんだ。

 何か緊急の要件なのだろうが、少しも慌てることも急かすこともなく、「失礼します。」と言って入ってくるその姿は、別段何かあったとか思えないな。

 もうちょっと感情というものを表に出してもいいだろうに……。

 

 「お忙しいところ申し訳ありません。一点報告が」

 

 かなり困ってはいるけど、別に忙しくないよ、君の目に私はどう映っているんだよ、やめてその皮肉。

 って口に出したいところだけど、出さないでぐっと堪えたあたり、僕も大人になったものだねぇ。

 

 「二本角ワームが大量発生致しました。場所はユークラシス王国の西方に位置するトキア砂漠です。規模は300体ほど。倒せそうなチームは現在別任務で出払っています」

 

 「なるほどねぇ、それは困るねぇ」

 

 ふむふむ、と頷いて見せるが、正直大したことじゃないな。

 ギルドメンバーのチームに頼めないなら最悪、僕が行けば良いし、何だったらアドベルを呼び戻しても今の所は問題ないだろう。

 

 「申し訳ありませんがまだ続きがありまして、その二本角ワームの群れをまとめているリーダー的存在ですが、どうやら20メートルほどあるみたいです。さらに、調査隊の情報では麻痺吐息を使うということなので、新種と言ってもいいかと。現在移動は行っていないので、早めに片づけたいところです」

 

 「うーん、僕が行ってもいいけど、ちょっと今は気が進まないんだよねぇ。だって僕が出ちゃうと、周辺吹き飛ぶし。調査隊は?何か言ってた?」

 

 「えぇ。『見つけたのは良いが…でか過ぎる……』と言っていました。もしかしたら20メートルよりもっと大きいのかもしれません。20という数字もあくまでそれ位ということでしたので」

 

 想定300体の群れに、麻痺吐息を使う新種かぁ、僕が行ったほうが良いのかな。

 いや、待てよ?

 それなら最早このすべての討伐をルゥにやらせれば、最早認定試験やらなくてもいいな。

 それでルゥが上手くやれなかったらそれまでってことだし、そうしよう!

 まぁ仮に何かあっても、アドベルとヴェンくんがついていてくれるでしょう。

 

 「彼に頼んでみようか、その討伐任務」

 

 「彼、というのは、先日Cランクになった少年ですか?名前は確か……」

 

 「ルゥだよ」

 

 「少々荷が重すぎないでしょうか。先日ランクアップしたばかりでしょう?まぁ必要条件は満たしていますが……」

 

 「大丈夫だと思うよ、十分戦闘はできていたし、ここ一週間に関してはアドベルとヴェンくんの指導の下、みっちりと修業したみたいだしね。そして、この任務を遂行出来たら、彼をBランクにしよう。僕の権限で!」

 

 「若干職権乱用な気もしますが、特に異議申し立てはありません」

 

 「そうと決まれば、君に頼みたいことがある」

 

 「何なりと……」

 

 「今の話をルゥに伝えに行って欲しい。明日討伐予定ということで、明日の朝に伝えに行ってくれればいい。ヴェンくんの家にいると思うから。頼んだよ」

 

 ただの一回も表情を崩すことなく、一言、「御意」と呟いてレイは部屋を出て行った。

 ひょっとして彼女には感情がないのではないだろうか、と幾度となく思って来たが、見た目は可愛いんだからもっと愛想よくしてほしいものだ。

 しかし、根本的に解決していない問題が一つ。

 

 「あの星野郎たちどうにか監視できないかなぁ」

 

 そう呟いてはみても、返事が返ってくるはずもない。

 今ここには、誰もいない、はずだから。

 

 「そろそろ出てきてもいいよ。君、レイが入ってきた時に一緒に入ったでしょ?盗み聞きは、良くないなぁミィ」

 

 そこまで言うと観念したのか、ゼロの目の前の机の上に姿を現す。

 その容姿は人間ではなく、猫。

 一見するとただの猫なんだが、二本に分かれたしっぽを見れば、違うと分かる。

 

 「いえいえそんな盗み聞きなんて~、気のせいですよ、ね?」

 

 そんなものが通る訳ないだろう、最初から気配が駄々洩れだ。

 とはいっても、ギルドのメンバーで気配を消したミィを見つけられるのは、恐らく僕だけだろう。

 こんななりでも、ミィはSSSランクのメンバーだ。

 黒い毛並み、二本に割れたしっぽ、そして何より目立つ赤い目。

 化け猫である。

 

 「まぁいいや。ミィはこのギルドで一番隠密行動に長けているよね。今さ、長期間オブザーバーとして動いてくれる人材についてすごく悩んでたんだよね」

 

 隠密行動や監視調査はミィが一番適任。

 (まぁさっきまでは素で存在ごと忘れていたんだけど。言わぬが花、だね。)

 

 「つまり私の出番、ですか」

 

 「そう、君の出番だ。君に、星の魔導士ニールの動向を探って欲しい。理由は今度時間のあるときに説明するよ」

 

 ミィの魔法に頼れば、監視対象の居場所を探す必要もない。

 正直彼女(?)の魔法は便利過ぎて、私が使いたい位だ。

 

 「わかったわ、じゃあちょっと行ってくるにゃ!その代わり終わったら……」

 

 「マタタビ酒だね。樽で用意しておこう」

 

 ゼロの返答に返事をする代わりに空中で一回転し霧のように消えていくミィ。

 アドベルと違ってこの子は本当に話が早くて助かる。

 

 「これで、僕の目先の問題は何とかなった、かな。はぁ……」

 

 溜息と同時に机に突っ伏す。

 もう、ギルマス辞めようかな……面倒臭いんだよね、この仕事。


 「(まぁ辞めたくてもやめられないんだけどさ)」

 

 この日、ギルドマスターであるゼロは決心した。

 いつかマスターを辞めてやる、と。

 

【次回、成長】



【閲覧者の階級が上昇した為、PersonalDataをアップグレード致します。】

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