表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
農民の俺が魔王になるまでの話  作者: 餓鬼九十九
第一章 雨降って地固まる
6/26

第3話 少年微睡む

■ユークラシス王国 ギルド・エルダーツ ロビー■


 あれから約三日程の時間が経ち、その間で様々な出来事が起きた。

 まず最初にだが、俺はギルドのメンバー入りを果たした。

 目的としてはいろいろあるが、これからどう生きて行くにせよ、稼ぎ口は必要というのが大きい。


 「(いつまでもヴェンさんに甘えるわけには行けないからな)」


 要するに、食いっぱぐれないようお金を稼がなければいけないということだ。

 早速その稼ぎ口を手に入れる為、俺は一人、ギルド【エルダーツ】に来ていた。

 ギルドの正面入り口から入り、真直ぐ正面の受付に向かうと、受付のお姉さんが軽くお辞儀をして迎えてくれた。


 「こんにちは、ギルドに加入したいんですが……」


 俺が受付でギルドに加入したい旨を伝えると、物珍しいのか自然と周囲から視線が集まるのを感じる。

 年齢層的には三十代半ばといった風貌の人たちが多く頭の中に浮かんだ最初の言葉は『むさ苦しい』だった。


 「かしこまりました。それではお手続きの準備を致しますので、お待ちの間こちらの説明書をお読みください」


 簡素な説明書を受け取り、一番受付に近いテーブルに腰を掛ける。

 ずっと村にいたから外の世界の事、ましてや接客の作法なんて全く知識がない。

 でも俺には分かる、この綺麗な笑顔に後腐れのない話し方、これは見事な接客対応だ。

 それでいて初めて見る俺をよく観察しているのが素人目でも分かる。

 今までこう行った場所には縁がなかったが、王都のお店やギルドのような場所は全てこんな感じなのだろうか? どちらにせよ、ここで上手くいけば目先の問題は一つ解決に近づくな。


 「(というかなんだかスムーズに入れそうだが、子供でも関係ないのか)」


 その点も気になって、受付のお姉さんから貰った説明書に目を通してみるが、どうやらギルドのメンバーになるには、戦闘スタイル検査、身体検査、魔力属性検査、素性審査の四工程の検査を行う必要があり、最初に素性審査が行われるようだが、俺の場合はハーフだ。

 王都の言い方だと【混血】と言うらしいが、そのことが知られてしまうのは元も子もない為、そこはゼロさんの計らいにより、『種族は人間で、出身などは、孤児院から勇者ヴェンに引き取られた』ということになった。

 そしてエマさんにはその見返りとして、『エマさん』と呼ぶようにと言われた。


 「(どうしてそれが見返りになるのか良く分からないけど、俺が負い目とかを感じない為のエマさんなりの気遣いっていうことなのかな?)」


 出会ってから今までの感じではなんだか中身の読めない人って感じだったけど、案外心優しい人なのかもしれない。


 「今度ちゃんとお礼をしよう。他の皆にも」


 素性調査が終わった後は戦闘スタイルをギルド内にある訓練場で測定する。

 ギルド一階奥にある闘技場に案内され、俺はあらかじめ用意してあった印の前に立った。

 ここから十メートル程前に立っている案山子(かかし)に攻撃した手段で内容が決まるってわけだ。

 俺が配置についたことを確認した受付兼案内のお姉さんは、カルテを片手に開始の合図をした。


 「それではこちらの案山子に攻撃してください。手段はどういったものでも構いませんよ」


 合図と同時に、俺は自分の両足に力を籠め、全力で地面を蹴り進む。

 一メートル圏内に入った案山子の腹部をとらえ、拳に魔力を通して一気にぶん殴った。

 魔法ではなく、ただ単純に魔力を拳に集めただけのパンチ。

 それでも案山子を壊すのには十分な力量で、拳が接触した瞬間に、

その腹部から粉砕される。


「(魔法は大して知らないけど……村に居た頃、魔力の動かし方や扱い方は教わったからな)」


「オッケーです。魔力を乗せていましたが、結果的には近接攻撃に付与した形なので、今回は近接ということになります」


 そう。 放った拳の一撃は魔力こそ乗せているが、その内容と言えばただ単純に拳で殴っただけ。

 とは言え、普通に殴るよりはそこそこ威力も上がるし、殴った時に拳が痛くなることもない。

 ともあれ、結果は戦闘スタイルが【近接】ということになった。

 実は魔法も簡単なものは使えたりするんだが、攻撃魔法じゃないからこの場で行使することは出来なかった。


 「(剣を使っていた時のアドベルさんの戦い方を思い出したけど、正直これってあんまり意味ないよな。だってあの人、魔法使わなくても十分強いし……)」


 戦闘スタイルについて調べ終わると、次は受付のお姉さんに連れられて、ギルド二階にある図書室に向かう。

 魔力属性の測定には一般的に、受付嬢が属性判別系の魔法を使用して調べるらしいが……。


 「申し訳ありません。私は属性判別系魔法を使用できませんので、こちらの()()()()()()()を使用します」


 「リストプレート?」


 それは聞いたことが無い名前だった。

 話の流れからすると、魔法か魔法に因んだ何かしらの魔道具の類、とかだろうか。


 「はい、リストプレートというのは血の制約。魔法を使える者が、自分の魔力と血液を使用し、上位魔晶(じょういましょう)結石(けっせき)と銅が含まれた薄い石板に魔術式を記述することで、使用者は実質、魔力を通すだけで属性の違う人でも使えるというものです」


 「えっと、一般的に見るスクロールとは何か違うんでしょうか?」


 スクロールならば、自分の故郷でも見たことがあったけど、結局話を聞いて分かる違いって『血を使っている』というだけで、事実上中身は一緒なのではないのだろうか。


 「良い着眼点です。簡単に言ってしまえば、スクロールは一度きり、リストプレートはほぼ永久的に使用できます」


 なるほどな。

 正直な気持ちを言えばもっと詳しく聞きたいところだけど、流石にこれ以上時間を割くと他のことも出来なくなりそうだ。

 後日、時間のあるときに再び聞きに来よう。


 「ありがとうございます。良かったら今度詳しく聞かせてください」


 「ええ、機会があれば何でも聞いてくださいね。それじゃ、リストプレートを起動しますね」


 お姉さんが石板に手を(かざ)すと、何かを称えるわけでもなく、お姉さんの魔力に反応して、石板の文字が赤く光り始めた。


「(どうやってこれで属性が分かるんだろう)」


 何らかの魔法を起動しているのは分かるのだが、何分魔法については全くの初心者で、魔力や魔素についてもあまり分からないんだよな。

 色々と魔法について思考しつつ、しばらく待っていると、赤く浮かび上がった文字の羅列は、お姉さんの翳す手に蛇のように巻き付いていく。

 全ての文字が手に絡みつくと、その手を俺の額にかざした。

 翳したとほぼ同時に視界全体が赤い光に覆われる。


 「(流石に眩しすぎて目を開けてられねぇ……!)」


 「よし、これで調査完了ね!」


 少し疲れたような声を聴いて目を開けてみる。

 どうやら今の数秒間で一通り検査が終わったようだ。


 「(起動時のあの見た目の割にはなんだか案外あっけなく終わったな)」


 気が付くとお姉さんの手に絡みついていた文字の羅列は元の石板に戻っていた。

 なんとなく文字が戻る瞬間も見てみたかったけど、赤い光が強過ぎて、目を開けていられなかったし、終わるタイミングも分からなかったからな。


 「これで属性の検査は完了です」


 実はここに来る前、ステラさんから事前に聞いていたのだが、魔法には基本属性として火、水、風、闇、光の五属性が存在するらしい。

 さらに、適性がなくでも行使できる初歩的な属性魔法を【準火~光属性】と呼ぶようだ。

 そして先の検査の結果、俺の魔力性質は【闇、光、妖】の性質を持っていることが分かった。

 この【妖】という属性が【独自属性】と呼ばれるものらしいのだが、詳しい話はステラさんに聞いた方が良いとのこと。

 俺自身、正直聞いただけでは意味が分からないが、恐らくは『独自』という言葉が示す通り、何かしら特殊な魔法性質なのだろう。

 聞くところによると、ギルド内でも何人か独自属性のメンバーがいて、発現のタイミングは生まれ持っての特性である場合や、後天的に発現した者もいる。要するに人それぞれ異なる様だ。

 なんにせよ、今回調べた情報は全てギルドメンバー証に記載され、十分程度で直ぐに発行された。

 エマさんが、『少年の為の手続きもある』と言っていたのは、多分この日のメンバー証の発行が円滑に進むようにする為に、準備をしてくれていたのだろう。

 本当に至れり尽くせりで、到底足を向けては寝られない。 

 因にこれは余談だが、全ての審査が終わった後、側の悪そうな三人組に話しかけられた。

 明らかに自分たちより体格も小さく、子供である俺を見て、皆口々に『こいつが新入りか?』とか 、『ちっちぇー奴が来たなぁ』だの言われていたものの、よくよく最後まで話を聞くと、結局はからかわれていただけで、新メンバーとして快く歓迎してくれた。

 それどころか、『消耗品をここで買えばいい』とか、『こういう服装だと戦いやすい』といったアドバイスまでもらったくらいだ。

 基本的にギルドのメンバーたちは仲が良く、喧嘩が起きたこと自体殆ど無いらしい。

 文字通り、アットホームと言った感じで、個人的には凄く好ましい環境だった。

 他のギルドはまだ分からないけど、こんな感じだったらいいな、と素直に思う。

 今回、ギルドのメンバー証が発行されたことで、俺は王都内に入ることができるようになった。

 それはつまり―――。


 「(これで皆の眠っている場所へ行くことが出来る)」

 

 あの日、ヴェンさんに拾われた日から一度も俺は墓参りに行っていない。それどころか村のことについても今どうなっているのかあまり分からない。

 そんな状態であるが故に、正直、あまり先のことを考えられていなかった。

 あの惨状を生み出した根源への恨みや無力だった自分の何もできなかったことへの後悔といった念は不思議と浮かんで来ず、今あるのは早く皆を弔いたいと思う気持ちだけ。

 俺は一度家に戻ってからヴェンさんと二人で墓参りに向かうことにした。

 霊園周辺は街並みを一周見れるような高台になっていて、慰霊碑の後ろ。ビスタ村の方角を見ると、美しい夕日が沈んでいくのが見える。

慰霊碑の前に立っても、俺の口からは何の言葉も出ることはなかった。

 ヴェンさんは気を使ってくれていたのか、全てを終えるまで、霊園の入り口で待っていてくれた。今の俺にとってはその距離感がとても丁度良かった。

 霊園から家への帰り途中で聞いた話では、皆を連れて来てくれたのはアインさんの同期の団員達とステラさんだそうで、家についてからステラさんに深々と頭を下げた。

 俺の反応を見たステラさんは、『そんなことしなくても良い 、顔を上げてくれ』と言っていたが、俺にとっては何度お礼を言っても足りないくらい嬉しいことだ。

 翌朝アインさんの同期の方型にもお礼をしに行ったが、ステラさんと同じような反応だった。

 その後も、お使いのような依頼を時間が許す限り受け、残りの二日間でギルドランクはCランクまで上がっていた。

 これに関してもエマさんが『積極的にランクが上がりやすい依頼』を提示してくれたおかげだ。

 依頼にはギルドの係員しか知ることの出来ない評価の高い依頼が各ランクに存在し、ランクはその評価が一定のレベルを超えることで上昇する。

 Cランク以降は討伐依頼も増えてくる為、ランクアップには専用の試験が実施される。だからこそ、まだ戦闘に不慣れな俺は、二日間で出来たこともCランクまで上げるのが精いっぱいだった、というわけだ。

 それでも、エマがここまで譲歩してくれたり、ステラのアドバイスや、ヴェンとアドベルさんによる教訓のおかげで、経った二日でここまで前進した。

 ここまでギルドの仕事に打ち込めたのは、きっと村での出来事に対する気持ちを紛らわす為なのかもしれない。

 それでも、俺の心に空いた大きな穴は、少しずつ埋まり始めていた。


■ヴェンの家 リビング■


 「今日は私が前に約束した通り、君に教養を取ってあげる」


 それはヴェンさんの家にお世話になり始めて五日目。

 いつものように朝食を取り終えた俺はステラさんの計らいにより、魔法学や、その他もろもろの一般知識について教えてもらうことになった。

 もちろんヴェンさんは、勇者としての仕事もある為、基本的には別行動だ。

 今回のステラさんの申し出は、ヴェンさんがステラさんとの会話で、『できればルゥに一般常識というものを身に着けてもらいたいんだよね。』と呟いた一言が発端の様で、ステラさん自身、魔力の研究に精通していることもあり、快く引き受けてくれたとのこと。

 なんだか気合が入っているのか、ステラはなぜか黒縁の眼鏡をかけ、白衣を羽織っている。確か目は良いと言っていた気もするが……。


 「(いったいどこから突っ込めばいいんだろう)」


 ともかく、村ではあまり深く勉強をしていなかった自分にとって、実用的なことや常識といえるものを教えてくれるのは凄く助かるのだ。

 恰好こそ、冗談交じりなように見えなくもないが、その表情は真面目で、真剣さが窺える。

 俺は目の前にある椅子に座り、ステラさんはどこからか用意したのか、大きな木製のボードを持ってきた。


 「まず初めに、君は魔法や属性についてどこまで知っている?」


 一見簡単な質問だが、この前の魔力検査の時と言い、俺は魔法やその周辺についての知識を殆ど有していなかった。

 使える魔法も二つだけあるが、結局は『使えるから』と、それ以上知識を広めたりはしてこなかったわけだ。

 だから、魔法どころか自分の持っている属性の意味すらもよく理解していない。


 「……全く知らない。といっても良いくらい。正直今使える魔法も勉強したわけじゃなくて、母さんが小さい頃に教えてくれたんだ」


 そう。俺が使える二つの魔法は母さんが教えてくれたもので、戦闘向きではなく、家事とか山菜採りに役に立つから教えて貰ったものだ。

 一つは影に潜り、移動する魔法。1分程度しか潜っていられないけど、万が一、魔物や山賊に遭遇してしまった場合に役立つ。

 もう一つは、傷の治りを少し早くする回復魔法の様なもの。使えば回復するというわけではなく、通常の自然治癒よりも回復が早くなるというだけ。

 名前も知らず、便利だから使っているというだけの認識だ。


 「なるほど、じゃあまずその、()()について教えるわね」


 ステラさんはそういうと、指をボードになぞらせて文字を書いていく。

 こんな魔法も存在するのか。人差し指の先が薄い緑色に光っていて、なぞった部分には文字や図形が浮き上がっていた。

 その物珍しい光景に思わず見入っていると、ステラさんは途中で書くのを止めてこちらに振り返る。


 「ギルドメンバー証の発行もスムーズに出来ていたみたいだし、読み書きはできるのよね?」


 って聞いてくるってことは、一般常識としては読み書きのできなくても何らおかしくないということか。

 読み書きについての常識を理解したところで、俺はステラさんの問いに肯定すると、『ならよかった』と言いながら再びボードに字を書き始める。

 しばらくすると、一通り書き終えたであろうタイミングでボードをこちらに見せながら説明をしてくれた。

 ボードには通常魔法、術式魔法、技巧魔法、固有魔法、古代魔法と書かれている。

 個人的には、ギルド内で分かった自分の属性について、かなり気になっているのだが、今はまだその時ではないようだ。


 「まず魔法には、通常魔法、術式魔法、技巧魔法、個有魔法、そして古代魔法の五種類が存在するわ。この中で貴方は既に通常魔法と技巧魔法を一つずつ会得しているわね。通常魔法である影移動と技巧魔法であるナノヒールね」


 そうか、俺の魔法は影移動とナノヒールというのか。

 影移動が通常魔法、ナノヒールは技巧魔法……使っている時に何ら大きな違いは感じていないのだが、何か違いがあるのだろうか。


 「ここで大事なのが、属性。基本は、相互関係のある闇と光そして炎、水、自然の三角関係の属性があって、自然系と水系を組み合わせた土、水属性を極めた者が使う氷属性や、種族特有の雷属性や空属性があるの。他にもいっぱいあるんだけど、全部出したらきりがないので、全て覚えるよりもルゥの適正に合わせて覚えたほうが良いわね」


 俺はズボンのポケットからギルドメンバー証を出し、自分の属性を確認する。


 「確か君の適正は妖、闇、光だったわね。闇と光はわかるけど、うーん……妖属性かぁ、ちょっと私は専門外ね」


 医者であるステラでもあまり知らない属性なのか。

 正直自分でも何ができて何ができないのか全く見当がつかない。


 「妖属性はゼロに効いたほうが良いかもしれないわね。 私は闇と光の属性について教えるわ。 とはいっても魔法の種類の説明が終わってないのよね。 通常魔法と技巧魔法はわかると思うわ。 簡単に説明すると、術式魔法は、詠唱や何かしらの動作が必要な魔法よ。 ビーストテイマーなんかは魔物との契約に使っているわ。精霊契約なんかも同じね。個有魔法はまぁ、スキルね。 ゼロの目、ハートマークが浮き出ていたでしょう?あれも個有魔法の一種よ。 まぁ効果は知らないのだけど、要は特定の個人しか使えない魔法なの。 そして古代魔法。 これは魔王とか国王とかなら使える人も多いんじゃないかしら? まぁ文字通り現代魔学では実現できない魔法のことね。ごめんなさい。 一気に話しちゃったけどここまでは理解できてる?」


 好奇心が強い為か、ステラの話していた内容はかなりスラスラと頭の中に入っていた。


 「大丈夫、寧ろ、興味がわいてきたところだ」


 俺の反応を見て嬉しそうにはにかむステラは恥ずかしかったのか眼鏡をかけ直し、素に戻る。


 「じゃ、じゃあ続けるわね。君の適正属性である闇と光は、戦闘以外でもかなり便利な魔法が多いのよ、例えば影移動、あれは影に潜って移動する魔法だけど、影に潜るのだから闇属性の魔法、って思うでしょう?でも実はね、影移動って闇属性の適正だけでは使えないの、光に照らされて闇ができるでしょう?光属性の適性がない場合は何とか陰に入れても、もろに光の影響を受ける外に出れなくなっちゃうのよ。とはいっても光の制御を抜けないと影になれないから、影に入ること自体、光の属性もないとできない珍しい魔法なのよ」


 なるほど、最初に光属性と闇属性は相互関係にあると言っていたのはそういうことか。

 相互関係にあるから、水と自然を組み合わせた土属性のようにどちらかが欠けていると使うことのできない魔法が存在するのか。

 そういえば気になっていたが、そもそも魔法ってどうやって覚えるんだ?

 俺は母さんに教えてもらったから使えるが、普通はそうじゃないだろうし、そんな複雑な背景のある魔法をイメージだけで構築するのは流石に無理だろう。


 「ここまで聞くと、そもそも魔法をどうやって覚えるのか、どのようにして使えるようになるのか、それが気にならない?」


 思いっきり気にしている事だった。


 「それが気になっていた。俺は母さんが教えてくれたが、自分一人で編み出すことは簡単なのか?」


 「方法はいろいろあるわ。魔道学院に通ったり、必死に考えてイメージを膨らませたり、書店で魔導書が売ってたりもする。でもあなたが気になるのはそうじゃなくて自分一人で構築し、使うことができるのか。これは簡単で、自分の適正属性の魔法を使っているうちに自然に覚えることが多いわ。申し訳ないけどその理由はまだ解明されていないの。これは余談だけど、私はそれを解明する研究チームのリーダーでもあるのよ」


 つまり戦闘経験の上達を含める様々な経験で自然に身についていくもの、ということか。

 今はまだ教えてもらった二つでも時期に他にも使えるようになるなら、今は剣の鍛錬に専念しても良いかもしれないな。


 「あ、それから、魔法は自分で作ることも可能よ、前に君がゼロの背後に見えたモノはゼロが作った個有魔法だと言っていたわ。まぁ能力や効果は知らないけど、自分で作る自分だけの魔法だから、強さも効果も自分次第ね」


 正直もう思い出したくないのだが、あれが個有魔法だというなら、正直しばらくの間は魔法の作成なんて考えないほうが良いな。


 「そして。今日最後の内容、魔素について説明するわ。午前中に叩き込んで申し訳ないけど午後は武器屋に行きたいのよ。Bランク試験用に使える君の武器を買いにね」


 Cランクにはなったばかりだから、Bランクになるにはまだまだ時間がかかると思うが、Cランクからは討伐依頼が増えるって聞いていたし、武器はあったほうが良いだろう。

 取りあえずは魔素についての内容を聞こう。


 「じゃ、本日の最後、魔素について話します。今まで話していた魔法だけど、当然何の代償も無しに使えるわけじゃないわ。魔法を使うには魔素を消費するの。魔素の保有量は人によって違うし、明確に量を確認することはできないわ。でもそうね。魔法を何度も使っていて少し気だるい感覚がしたらこれ以上使えないっていう目安かしらね。もちろんその状態で使い続けたら死ぬわ。最も、死ぬ前に先に意識が途絶えると思うけどね」


 「魔素は増やしたり消費を抑えたりできないのか?」


 「もちろんできるわ?でも、簡単じゃない、魔力制御の練習をしたり魔法を使い慣れるまで何度も発動したり。あとはそうね、慣れ、かしらね」


 ということはこれも魔法を覚えるときと同じ、戦闘経験などから上達していくのか。


 「今日はこんなところかしらね、魔素については正直これ以外に説明できることがないわ。また人間の皮膚にはあまりよくないよー、とか魔族の血液にはある程度含まれているよー、とかは時期に分かるようになるわ。さてっ」


 ステラが自分の話を切り上げると机の上にランチボックスを置き、蓋を開けた。

 中には様々な具材を挟んだパンが並んでいる。


 「お昼ご飯にしましょ?簡単だけど、お弁当作ってきたの!」


 ランチボックスからはほんのり香ばしい匂いが漂い、午前中の勉強により貯め込んだ疲れに反応し、途端に空腹感が募った。


 「何から何まで、ありがとう、ステラさん。お弁当、いただきます!」


 二人は、ルゥのいただきますの掛け声に合わせて、ステラのお弁当を食べ始めた。

 自然に囲まれたヴェンの家での食事は、まるでピクニックに行っているようで、ルゥは故郷の生活を思い出して少し、懐かしさを覚えた。


■ユークラシス王国 首都ユークラシス■


 昼食を取り終え、休憩をしたのち、ルゥとステラはユークラシス王国の城下町、ユークラシスに訪れていた。

 昼下がりの城下町には人であふれていて、気を付けないと逸れてしまいそうだ。

 ステラについて歩いていると、不意に一軒の建物の前で立ち止まる。


 「(エレインの酒場?)」


 立ち止まったステラの横で疑問符を浮かべていると、ステラは、『こっちよ』と言いながら、酒場の横の小さな路地へと足を踏み入れていく。

 路地を進みしばらくすると、少し開けたところに看板が見えた。

 特に店名などは書いていないが、看板には剣と縦のマークがついている。

 ここでステラが武器を選んでくれるのだろう。

 ステラは建物のと扉を開けつつ『こんにちはー!』と大きな声で挨拶をすると、中で返事が聞こえた。


 「おう、ステラの嬢ちゃんじゃねぇか、機材の新調か?」


 気さくそうに話しかけるのはお店の店主だろう。

 なんというか、きれいな頭をしている。


 「違うわ、今日はこの子の装備を一式整えてほしいの、適正は妖と光と闇よ、近接戦闘向けでお願い」


 ステラはある程度の注文を済ませると武器屋の店員がこちらの方まで来て、メモを取っていた。


 「あんちゃんの装備だな、身長とか考えると、防具っていうよりは武器だけにして防具なしの戦闘服の方がよさそうだな。おっといけね。自己紹介してなかったな、俺は、ここで鍛冶師をやっている店主のダンだ、宜しくな!」


 「勇者の弟子のルゥです。宜しくお願いします!」


 ルゥが頭を下げるとダンはニカッと笑うと、メモを近くの机に置き、ステラに問いかけた。


 「嬢ちゃん、予算はどれくらいだ? 武器と戦闘服だからそこそこすると思うが、」


 「気にしなくて大丈夫よ? 今日は私が出すし、そもそも、装備を見繕いたいのは私の意向なの。いつもお世話になってるもの、今日は遠慮なく買わせてもらうわ!」


 ステラが金額を気にせずに買うことを言うと、ダンは『嬢ちゃん恩に着るぜ!』嬉しそうに返事をした。

 しかし、一式見繕うには時間がかかる為、採寸を行ってからしばらく城下町でお見せを回ることにした。

 二人で表の通りを歩いていると、ルゥは出店のアクセサリーショップを見つけ、ステラを呼び止めた。

 アクセサリーショップの商品の価格も何とか今までの依頼解決報酬の貯蓄で払えそうだった。


 「ステラさん。 お礼をさせていただけませんか? 勉学からお昼ご飯に装備まで見繕ってもらって、凄くうれしいですが、俺もちゃんとしたいです。」


 「気にしなくていいのに。 自己満足でしているのよ?」


 とはいうものの、嬉しそうな笑顔が隠せていないステラ。


 「遠慮しないでください、ステラさんどんなのが好みですか?」


 ルゥが問いかけると、ステラも近づき真剣に悩んでいるが、少し間をおいて、ステラはこちらを向き直った。


 「ルゥが選んでくれない? 私に似合うアクセサリー」


 少し恥ずかしそうにもじもじしているステラは、思わず、見つめてしまうような可愛さだった。

 ドライアド、ということもあり、年上なのは明白なのだが、身長差でいえばルゥとステラは同じくらいなのだ。

 それ故に照れている顔もちょうど見えてしまうルゥは思わずその表情を見てドキッとしてしまった。


 「わ、分かりました……これなんてどうですか? この花柄の髪飾り。凄く、ステラさんに似合うと思います」


 ステラはそれを見て、花が咲いたような笑顔になった。

 その笑顔を見て、ルゥは髪飾りをお礼にする事に決め、出店のおばさんに声をかける。


 「すいません。この髪飾りをください!」


 『あいよ!』、と言いつつニヤニヤしている出店のおばちゃん。

 絶対恋人だと思われただろうな、とは思いつつ、会計を済ませたルゥは、ステラに髪飾りを付けてあげた。

 顔を赤くしたまま二人が出店を後にすると、後ろから、『彼女さんと仲良くねぇ!』とおばちゃんの声が聞こえる。

 恥ずかしくて何も言えなかったが、その後、通りのお店を見て楽しむ二人の手は逸れないようにしっかりと繋がれていた。


 「(お礼の髪飾りでこんなに喜んでくれるとは思わなかったな。でも良かった)」


■首都ユークラシス 中央通り路地裏 ダンの鍛冶屋■


 「どうだい? あんちゃん、この戦闘服の着心地は。 普段着としても着れるうえに軽い素材で作っているから激しい戦闘にも向いているぜ、そして、こいつをくれてやる。お前の相棒になる武器だ。 あんちゃんの場合武器は小さいほうが上手く立ち回りやすい少し刀身を短めにした刀がちょうどいいだろう」


 出店を一通り楽しんだ二人は再びダンの武器屋に訪れていた。

 ルゥは戦闘服に身を包み渡された短めの刀を構えてみる。


 「なかなか様になってるじゃねぇか、よし、あんちゃん、武器はそのままただでくれてやるよ!冒険の門出に祝い品ってことでな」

 「いいんですか? ありがとうございます。 大事に使わせていただきます。」


 流石のステラもここに戻ってくるまでに、数時間経過していたこともあり、ステラも落ち着きを取り戻していた。

 ルゥが刀を鞘に納めると、ステラは新しい装備を身に纏うルゥをまじまじと見て口を開いた。


 「いいわね。ルゥは細身だから、軽量系の装備はあってると思うし、良く似合っているわ」


 着心地に違和感もなく、寧ろ今まで来ていた村の服よりも動きやすいまでもあった。

 刀も見た目より軽く、鞘との位置もしっくりくる。


 「ダン、改めて、ありがとうございます。 次はBランクの認定試験があるので、それまでにいっぱい特訓をします」


 ダンが「礼なら嬢ちゃんに」と言いかけたが、ステラの髪飾りを見て気付いたのか、出店のおばちゃんのようにニヤニヤしながら耳打ちしてきた。


 「御礼はもう済んでたみたいだな。ま、今後ともひいきにしてくれや」


 ダンが耳打ちしてきた言葉も聞こえていたのか、ステラの顔は沸騰していた。

 結局、会計を済ませ、家に帰るまでの間、二人は終始無言だった。

 短期間に生まれたステラの恋心をルゥはまだまだ気付かない。


     「Bランク認定試験の内容はねぇ」

「何があったらそうなるのよ」

          「後、200体。」

    「例の勇者の動向は?」


「そんな彼を見て……私は惚れたんだ。」

【次回:ルゥの努力】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ