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到着

 

「鳥公は?」


 兵士を蹴散らし進むシェーナ。その槍捌きたるや同じ相手だからだろうか。無駄な体力を使うことなく殲滅していた。


「静かにしていますね。シェーナさん。ミミちゃんが傷つくと支障が出るので守ってもらいながらでも構いませんか?」


「よゆー」


 獰猛に笑って見せるシェーナ。しかしインの目は肩で息をしているのを見逃さない。

 理由はなんとなく察しが付く。だがここで言う事ではないだろう。だからこそインは変身を解除する。


「イン。流石に今は反応に困るんだけどその格好」


「フィートちゃんは筋力や速度の支援お願い。シェーナさんのHPは削れても私がそれ以上に回復させます」


 ここからはインも『再生の光』を惜しまない。いくらHPが回復しようともその人自身の体力は回復しない。

 今は大丈夫なのだろうが、いずれ凡ミスは目立つはずだ。

 インは絶えず『再生の光』でチームメンバーの回復に努めていた。




「やっと!」


「後少しですね」


「……奇跡に近い」


 ようやくイン達は最初に来た時と同じ階段の下まで辿り着く。

 その上にも見渡す限り兵士が佇んでいる。が、ここまでくれば一匹や十匹など大差ない。

 いざ階段を上るという直前にてインは通路へと繋がる入り口にそれぞれ『香る薬草』を敷いてストップをかけた。


「さて、ここからの作戦ですけど」


「本当にやるの? というかそれ通じるの?」


「多分大丈夫かと。適度にやれば」


 迷いはない。こんなことになってアンも苦しいはずだ。だからこそインは拳を握る。


「……けどそれ対策ってだけだよね? 殺傷効果はない」


「無いですね。ファイがいてくれれば余裕だったんですけどね」


 ファイならそれこそこの戦況を余裕で抑えてくれたことだろう。とはいえ今はいない人について話していても仕方がない。


「鳥公は? あいつデウスエクスマキナみたいなとこあるし」


「誰が機械仕掛けの神だって~。それは私が最も嫌いな単語だにゃ~」


 シェーナの言葉に反応してミミの体内から言葉が聞こえてくる。喋れるほどには回復したのだろう。

 慣れてくると案外居心地が良いと軽口を言いつつピジョンは言葉を続ける。


「ごめ~ん。生き残るためにアイテムのほとんどを消費しちゃってにゃ~。実はほとんどカラなのよ~」


 いつもの調子を取り戻したのだろうか。道化のような声を出すピジョンに「死んで帰って来いよ」とシェーナがそっと舌打ちをする。


「そこで質問なんですけど、ツェルトの軍隊って数に制限とかあるんですか?」


 ここまで来たうえでの疑問であった。数を呼べるのであれば倒したところで意味などないだろうと。

 倒した傍から絶え間なく襲ってきているはずであると。

 あえて現実的でない事についてインは質問する。


「ありえないでしょ。MPが続く限り」


 詳しくは知らないらしいが、MPが関係しているのではないかとシェーナは推測しているらしい。

 そうでなければ火以外は効かないただのチートな存在だと。


 インはMPと頭の中で販推する。

 ついで確認のためにテイム魔物一覧にインは目を向ける。ミミとウデ。アンの欄は相変わらず赤く点滅を繰り返していた。


 大群が相手。レイドという事はHPもかなり高くなっているのかもしれない。そうなると敵を待ち伏せる一撃必殺型のウデは今回相性最悪である。

 足手纏いになる可能性の方が高いだろう。インは心を鬼してウデを労ってから輝石に戻した。


 次に何か使えそうなものがないかインベントリを開く。


(蛇の毒……)


「ピジョンちゃん。蛇の――」


「毒だよね~。『風突』じゃ無理かな~」


 そもそも毒をどうやって風に乗せるつもりなのだとピジョンは返す。


 どうしようとインはここに来て頭をフル回転させる。

 いくらここにミント臭のする香る薬草があったとしていつ攻めてくるか分からない。むしろ耐性を取得して外に出てくる可能性はあるだろう。


 ホウ酸は売ってなかった。焦げた匂いでもアンと違って好きな可能性がある。洗剤はない。ファイがいないから爆発は起こせない。毒も飛ばすことができない。


 肉に混ぜたところで口からの摂取だと効かない可能性もある。シェーナたちが特攻したところでやられるリスクの方が遥かに高すぎるだろう。

 いろんな案が思い浮かんでは沸騰する泡の如き速さで泡沫へ帰る。


「この中で火を使える人は?」


「火花なら散らせるけどそれ以上は無理」


 シェーナはそう申告する。それも槍が壊れるかもしれない。大切な武器を失うと困るからダメとの事だ。

 それもそうだろう。

 何かないか。段々考え方が雑になっていく。それこそ一度没にした案をまた考えてしまうほどに。

 アリが下りてくる気配がする。そんなとき、フィートがインの袖を引っ張った。


「……少し……頭を冷やそ?」


「けどここまで来たのに――!」


「大丈夫だから」


「つか全部そこの鳥公のせいだから。家族に害をなすとかマジあり得ないから」


 シェーナもフィートに便乗する。

 あくまでこうなったのはピジョンが全部原因なのだと。

 後ろでピジョンが管理不届き、遅刻者二名、準備をしなかったのは誰? とぼやいているがこの場で耳を傾ける者などいなかった。

 言われたとおりにインは深呼吸。そしてひとつ余裕を持ったからか良い案が花開く。


「すいません。この中で料理が得意な人っていますか?」




「マジで? というかこれいけるの?」


「ちょっと分からないですね。賭けるしかないと思いますけど」


「それならインちゃんが料理しようよ~。虫ちゃんの為、アンちゃんの為と思えばいけるでしょ~」


「……そうかも。やっぱり私がやる!」


「ああその、もう遅いけどあんたは本当に詐欺とかに気を付けなさいよ」


「はい!」


 元気よく答えるイン。しかし次のセリフに今度からはと付け足したことで、シェーナは諦めの表情を浮かべた。


「では、始めます」


 インがそう言って取り出したのは調合キット。

 魔物のえさやポーションを作る時に使う器具だ。インは早速少量の水と肉を加えその場で料理をし始めた。


「敵地で料理ってシュールすぎない?」


「……実際シュール」


「鍋で肉を焼いている光景の方がシュールだと思うけどにゃ~」


 次第に肉の焼ける油が弾ける音。良い匂いが立ち込める。しかしそれもつかの間、徐々に炭の臭いが混じってくる。インのいつもの焼きすぎる癖だ。

 そんな状態であるにも関わらずインは強火の全身全霊を止めない。黒い煙すら漂ってくる。


「これあたしたちの方が全滅しないよね? というかやりすぎじゃ……」


「楽しそうなインちゃんの代わりに解説すると、アリってアイロンに向かいやられるほど焦げた臭いが大好きって話しがあるくらいだからにゃ~」


 そうインの変わりにピジョンは語る。ついでに動けた方が良いからとミミを輝石に戻してもらうよう進言する。

 焦げた臭いを嫌うのはアンが特別なだけ。焦がしているのはそもそもインちゃんの癖だけどに~と光と共に現れたピジョンは言う。


「後三十分くらい」


「アラームつけているのに遅刻する典型文か! もうそれくらいでいいから!」


「待ってください! せめてお皿に乗っけてあげないと」


「もう後ろにいんだよ!」


 すかさずツッコミを入れるシェーナ。そう、インのすぐ背後には兵士アリが立っていた。それもなん十匹もの数だ。

 シェーナはすかさず調合キットをひっくり返した。フィートも入り口に置かれた香る薬草を除去する。

 ピジョンはインを抱え込むと全力で最上階を目指して駆け込んだ。


 今まで見たのを遥かに超えるほどの数。階段とはいえすれ違いざまになろうものならどうなるか。相手がグンタイともなれば答えは明白だ。


 食われるに決まっている。それこそ一匹一匹対処するなんて無理に決まっている。ならどうするか。単純に鉢合わせなければいい。


 それぞれフィート、インを抱えたピジョンとシェーナはアリの頭上を飛び越える。


「まだなの!」


「……シェーナ。しばらく虫は見たくない」


「同感! だけど今は登って!」


 しかしそこはグンタイアリ。それだけじゃまだ足りない。時折飛び掛かる個体が現れる。

 ピジョンは『風刃』を飛ばす。だが次第に頭上を飛び越えていく事すら難しくなってくる。

 何せ相手も同じように頭上を伝ってきたのだから。マイナーと呼ばれるグンタイアリの橋渡し役だろう。


 ならばとピジョン達はさらに上を行く。二段重ねになれば二段目の頭に。三段重ねになれば三段目の頭に。

 シェーナは槍を使う時の足さばきで。ピジョンは持ち前の感覚で上がっていく。


「お酒とか持ってない?」


「分かるけど使っちゃったんだよね~。ところでもし上に昇っても隊長格がいるよね~。これどうするの?」


「とりあえず今を考えて!」


「それならこれが良いかな~!」


 ピジョンは目の前に対峙しているアリの下にいるアリ。そのアリに対して『風刃』を飛ばす。風刃はアリの首の関節に吸い込まれる。距離を詰めていきそして傷つけた。

 下がバランスを崩したことで頭上のアリがバランスを保てなくなる。それどころかここは階段。押すような形で階段を下るアリたちも雪崩のように崩れていく。


「こんなもんかな~」


 得意げに言うピジョンだがあまり状況は変わっていない。渋滞を起こしたのは下の方なのだから。

 上はただバランスを崩しただけ。動ける物からすぐピラミッドのように積み重なっていく。


「どいて!」


 後ろから飛び上がる形でシェーナが前へ出る。そして横に槍を振ったかと思うと地震の如き衝撃が空中で走っていく。

 槍アビリティで使えるようになるスキル、『地衝破(じしょうは)』だ。

 地震のように波のある衝撃波を飛ばす筋力依存のスキル。頭上にいたアリが吹き飛び一筋の道が創り上げられる。


「最初から使えばいいのに~」


「うっさい」


 そしてようやく階段を駆け上がり教会があった場所に辿り着く。そこにいるのは未だ数百匹ものグンタイアリ。

 その後ろにアンはいた。表情は分からない。ただ顔を俯かせる。もたれる様に座るその姿からはどこか悲しんでいるようにも苦しんでいるようにも感じられた。

 ピジョンから降ろされたインが一歩踏み出る。するとシェーナたちも同じようにそれぞれ武器を構える。


「おまたせアンちゃん! 今助けるよ」


「そろそろ締め時ってもんよ」


「……もう虫は嫌だ」


「私これが終わって帰ったらたっぷり休むんだ。もうたっぷり反省している。だからインちゃん、明日また学校で虫について教えてほしいにゃ~。大丈夫、私の実力なら――」


「マジでふざけんな鳥公!! お前だけやられろ!!」


 ここぞとばかりに積み上げようとするピジョン。そんな完全に楽しんでいるのがバレバレなピジョンに、シェーナは槍を振り下ろす。

 案の定避けられシェーナは何度目かの舌打ちを突く。


「じゃあ作戦通りに」


 そう言うとインはシェーナから調合キットを返してもらう。戦場の待っただかだというのに関わらずインはその場に座る。そして、


「行くよっ!」


 その掛け声とともに水を入れて調理を始めた。

 グンタイアリが最強すぎて辛い。マジで最強すぎて辛い。

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