ユークド到着
イン達一行は高原を進軍していく。
野を越え山を越えるまでに色んな魔物に遭遇を果たすが、どうも相手が悪かった。なんせ片や普段ハルトと共に行動する者と、そんな彼らから嫌われる者。果てや竜を仲間と一緒に討伐したエルフだ。
これで勝てないという方が不思議だろう。彼らは姿を見せると同時に、いつの間にか蒸発する。そんな意味不明な光景が何度も目に映った。
「ハルトの妹ちゃん二号は戦わないの?」
「……シェーナ。そろそろ」
頑固としてインの名前を呼ばないシェーナの袖を引っ張るフィート。
「インちゃんはテイマーだからにゃ~。護衛とかそういうのじゃなくて、主体で戦う者。バラしちゃったけど、連携取るためだから良いよね~」
「鳥公の行動は一番連携からほど遠いでしょうが!」
何のことやら~と下手な口笛を吹いて白を切るピジョン。
実際、インの目から見て彼女は連携なんて物はしないだろう。恐らく理由として、今までひとりで戦い抜けることができた弊害が関係している。
むしろ人の動きにいちいち気配りをしないといけない為、連携を取らない方が強いのではないか。
自分で索敵して、自分で罠を解除して、自分で動いて自分で倒す。名前の割には一匹狼、少なくともインの目にはそう映る。
シェーナは嫌そうにウデへと指を向ける。
「テイマーねー。その…………一匹と、王女アリは?」
「アンちゃんは多分……」
「あそこだね」
ピジョンの目線の先には、イン達に近づこうとする魔物相手に無双しまくるアンの姿。
攻撃するときだけ現れては消え、また現れたと思えば幻影だったかのようにその場からいなくなる。
「……なにあれ?」
「『不視の幻影』っていうアビリティらしいです。効果は自分の存在を見えなくする、だったはずです」
「何それチート?」
シェーナが口をぱっくりとあけ唖然とする。
「見えないってだけで、存在しているし触れるから別に問題はないと思うけどね~」
辺り判定までずらされるのは勘弁だけどと続け、王女アリがアビリティを繰り出していることに興味津々なのか、これでもかと目を輝かせるピジョン。
「ねぇインちゃん! じっくり観察したいからアンちゃんをほんのちょっぴりだけ預けてはくれないかにゃ~! ほんの少しだけ、本当に少しだけだから!」
「なんか怖いよピジョンちゃん!?」
インの両肩に掴みかかり、ピジョンは明かさなくてはいられない考察者の顔を前面に押し出してくる。
「体の違いとか、動き方とか、その他いろいろ観察させ――」
刹那、ピジョンの頭がブレた。背後には思いっきり頭を振りかぶった後のアン。主のピンチに駆けつけたのだろう。攻撃した時の音が本気のそれであった。
どんな攻撃だろうと躱してきたピジョンではあるが、見えない一撃を初見で避けるのは無理だったようだ。チームを組んでいる為、ダメージはないが。
「あははは! 鳥が虫にやられるとか何の冗談! あっははは!」
「……シェーナ。……なんかスッキリするね」
「ピジョンちゃん大丈夫!? アンちゃんも、助けてくれてありがとうだけど、もうちょっと加減を――」
途端に大爆笑が巻き起こる。ただ一人、被害を受けたピジョンだけは、地面に倒れ伏し顔をしかめるのだった。
ようやくイン達一行は、山を越える。
途中フィールドボスと遭遇する物の、やはり相手が悪いという事で瞬殺である。
一歩も動くことなく消えたフィールドボスからは少しだけ哀愁が漂っていたような気がしたが、きっと気のせいである。
「村?」
そうして足を踏み入れたのは、道中シェーナとフィートから教わったユークドと呼ばれる村だ。
アンデッド系統のアイテムが手に入ると有名なこの場所は、聞いていた話と違いどう見ても町だった。
というのも前東風谷に行く通りにあった村は、確かに家やら田んぼやらと村の風貌が醸し出ていた。しかしどうだ、この村は。縦長の建物といい、にぎやかさといいエルミナと変わらない。
所々がまだ改築が終わっていないくらいだ。
次に目に入ったのは、山と太陽を背に存在感を主張する神殿。装備をガチガチに固め、足を踏み入れる冒険者らしき人たちが目に映る。
だが確かにフィールからも村だと言われていたはず。聞き間違えたのかと、インは首を傾げた。
「町だね」
「……町」
「町だにゃ~」
フィートとシェーナも疑問に感じているようだ。唯一ピジョンだけは何かを知っていそうに声を出した。
「最近改築とか国造りとか進んでいるらしいからに~。エルミナの王も予算があるならと許可しているみたい」
「戦争とか敵対国とか増えるんじゃないのそれ?」
「名無しの国を作られて、攻め入られるよりましとか? そうじゃなくとも、各地に拠点となるような場所とか、東風谷のように魔法だけじゃなくて剣士とか、もっと自由な見識を伸ばしたいという人たちがいるからね~。先手で良いイメージを持たせようと考えているんじゃないかにゃ~」
専門分野を学べるように魔法国家の中に作るのもいいけど、それだと近くにあるせいで魔法だけを純粋に学ぼうとする意識がそれるかもしれない。
そうでなくとも、競争相手がいない国などいずれは滅びる。長くやっていくには、競争相手が必ずしも必要であるし、抑止力にもなる。国が増えて発展していくには大賛成なんじゃないにゃい? 知らないけど~と言葉を終わらせるピジョン。
シェーナが首を縦に振る。
「国はどうでも良いとして。じゃあさ、もしかしてあたしが知らない情報とか?」
「アンデッド。インちゃんに分かりやすく言えば、幽霊系が多く出ることに代わりはないみたいだけどね~」
「帰りましょうか!」
笑顔で回れ右をするイン。しかし逃げられない。
「インちゃん、デートしようデート!」
「さっきの事は謝るから! 私謝るから! だからお願いそれだけは!」
「せっかくの味覚と嗅覚を堪能しないと~! ああ、この場合はアンデ――」
「聞きたくない! お願いピジョンちゃんやーめーてー!!」
しかしインの声は届かない。ピジョンは圧倒的に筋力の低いインの腕を組むと、町の中まで引きずっていく。助けを呼ぶも、アンは何もしてくれない。
恐らくこれも試練だと言いたいのだろうか。頭の上に飛び乗り、同じく肩に乗っかっているウデと何か食事をしている。
「あれ、絶対さっきの仕返し混じってるね」
何がどうと言う事もなく、フィートが同調するように頷いた。どの道一緒に遊ぶのに、ここで帰られてはシェーナとしても不本意なのだろう。
苦笑しながら二人の後をシェーナ達はついていく。
商店街で売られている品はエルミナと違い、アンデッドに関するものが多いようだ。固定ダメージを与える効能を持つ聖水から、呪いの状態異常を解除する道具まで並んでいる。
需要と供給と言う奴だろう。作り手がプレイヤーなだけあり、高い効果を持っていると、店頭に立つお兄さんが言う。
「けどフィートがある程度解除できるから意味ないんだよねー」
「私、『光魔法』使えます!」
店側としては冷やかしも良いところである。
それでも何か役に立つかもしれないと、インは聖水をいくつか購入していた。フォンが少し減ってしまうが、命を考えれば惜しくはなかった。
もちろん、ピジョンが黒い笑みを浮かべていたのは言うまでもない。
(きっと必要経費だとかで、後で高めにフィールさんを揺するんだろうな)
もしそうなれば、自分が誤解を解こうと決意を新たにイン達は次の店へ向かう。
武具店の方は、光魔法に内包されている『再生の光』を回数制限付きで使える指輪が売られていた。道具があるのになんでと疑問に感じつつインが値段へと視線を逸らせば、途端に体が跳ねる。
(たっ……高いっ……。マーロンさんの所で売られていた剣の四倍くらいは張ってそう)
そんなインに気づいてか、フィートが声を横から口を出してくる。
「……こういうの……魔石がいる」
「必要MP無し。回復量は使用者の魔力数値とLVだからね」
これはLV8かと珍しそうに眺めるシェーナ。
「これに使える回数とLVが関わってくるからね~。本来LV20で何度でも使用可能で強化可能がおかしいからね~?」
「うん、……そうだね」
LV20は未だ、アンですら到達していない領域だ。
シェーナとフィートの話し声が遠くなるのを感じながらイベントを思い出す。そして後ろを振り返って入られないと、インは前を向いて情報収集をしに歩き出した。




